Lusieta

 

この場所から ~ふたたびの陽射し テヤンとアヤノの突撃取材 Ⅱ~

 

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次の日の夜・・・・・
私はいつものようにテヤンの足の間にすっぽりおさまって、
うしろからふんわり抱きしめられながら、いっしょにPC画面を見てた。

「そうだったんだね」

「うん」

「アヤノは知ってたんだ。」

「うん」

オフ会の報告スレッドのほかに、あの彼女の決意のスレッド
そして報告とお礼のスレッドがあった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



あの遅れてきた彼女は、大切な計画を実行するために空港へ行っていた。

10年いっしょに暮らして、なのにこの2年の間、手も触れていない人に・・・

その人に・・・・ただキスをする・・・・そのために。

夫が長い海外出張で一人旅立つ。
見送る妻の、小さなようで、実は大きな決意。
・・・・・・・・


たくさんの積もり積もった埃におおわれて見えなくなっていた夫婦の絆。
ほんとは・・・今日まで、私はどうしてほしかったの? どうしたかったの?
             今、彼にどうしてほしいの? どうしたいの?

サイトに出会ってから、そんな思いが湧き上がる日々・・・
UPされるストーリーはみな、溢れる愛の思いでお互いを満たしあう二人の物語。

次々に読んでいくうちに、
彼女自身も、不思議なことに、目の前にいる人をもう一度抱きしめたくなった。
もう一度抱きしめてほしくなった。

今日までのわだかまりが解決したわけではないけれど、
こだわる気持ちが溶けていくのを感じた。

理屈じゃなくて・・・・ただ愛しくて、抱きしめたいって、そう思った。



仕事の疲れをにじませる背中、ベランダでタバコを吸う孤独な横顔
この人を、2年も拒否し続けたのだと、あらためて感じた。

その背中をなでてみたい。その頬にそっと手をおいてみたい。
そして、目と目を合わせて、温かな言葉を交わしたい

今「寒くない?」と尋ねたら、彼はなんて言うんだろう。

そう思いながらも、どうしても手をのばすことができない。
声をかけることができない。
こんなに近くにいるのに。

長い間、向かい合ったことがない二人
いつもどちらかが背を向けている。
互いに、相手の背中と横顔しかしらなかった2年。

そんな時、彼の数ヶ月間の海外出張が決まった。

最後の最後に、自分から抱きしめてキス・・・そうしよう。
それでひとこと思いを告げよう。
そのあとのことは・・・それから考えよう。

そして実行した・・・・・

夫の反応は・・・・
「あと2時間早くこんなふうにして欲しかったな・・・・・」
このあとの言葉は・・・・スレッドでは“内緒”になってた。

でも、うれしさに溢れたスレッドだったから、
きっとステキな言葉だったんだろうな。

彼が到着してからすぐ電話がかかり、
「航空券を送るからすぐに会いに来て」って言われたんだって。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




テヤンが言う。
「僕わかるよ。このあと、きっと彼は彼女に
 『ここじゃあこのまま君を押し倒せないじゃないか』って言ったと思うよ。」

「あー、なるほど・・・・ふふふ・・・。
 でも、それはテヤンだから言えるんだよ。
 ちょっとかっこよすぎない?」

テヤンの腕に力がこもる。
「いや、きっとそうだよ。彼も彼女と同じ気持ちだったんだ。

 でも、2年も・・・・僕には考えられない。
 ひどいな。もっと早くに彼のほうから抱きしめてあげなくちゃ。
 僕なら絶対こんなふうにはしない。」

「どっちからでもいいよ。
 先にそんな気持ちになった人からで。

 どんなに時間がたっても、そのときゼロから始められるよ。
 きっと・・・
 私たちが始めたみたいに。」


「・・・・・・・・・・・」


「ん?・・・テヤン?・・・」

テヤンが小さく息を吐いて、
私はまたその胸に、ぎゅっと閉じ込められた。

「・・・そうだね・・・・そうだったね・・・

 そうだった・・・」


テヤン、何を思ってる?

きっと私と同じだよね。




「アヤノ」


「ん?」


「僕たちはいつもいつもいっぱいキスしていようね。

 いつもこうやって抱きしめあって暮らそうね。」


「うん」





たくさんのレスが祝福してる。


「アヤノもなにか書き込めば?」

「だめだよ。」

「なんで?いいじゃない。思いっきりお祝いの言葉を。」

「だめなんだよ。」

「なんで?」

「だって、HNが・・・・」

「あっ!!」

「いまごろ気づいた?」

「あはははーー! こりゃだめだね。」



実は、昨日あのあと会場に入って綾小路さんに紹介されると
テヤンは一瞬であの場の女性たちをとりこにして・・・・

みんなが愛してやまない韓国の彼にそっくりだーーーってことで
あらためてそういわれるとやっぱり似てるかな・・・・
おまけに、テヤンはほんとに韓国の人だから・・・

とにかくもみくちゃで、
『サランヘヨって言ってぇ~』なんて言われたりして、もう大変で・・・・
結局一人一人とハグ&握手&写真撮影・・・・・なんだこりゃーだった。

「そっと写真撮ってそっと帰ってね」って言われてたっけ・・・
綾小路さんが手を合わせてなんども謝ってくれてた。

でも、ハグの激しさも写真撮影の密着度も、
綾小路さん、あなたが一番すごかったよ!

そしてその顛末がまた彼女の手でUPされてる。

そんななのに・・・・
「テヤン」なんて、まんまなHNでノコノコ出ていけないよね。


「ねぇテヤン、決めたから。この彼女、個別取材する。
 綾小路さんに紹介してもらうから。
 会いたい!」

「同感です。」

「あっそうだ! あのかっこいいイタリアのストーリーの・・・
 彼女の話も聞かなくちゃ!作家サイドのね。」

「同感Ⅱです! 彼女にストーリーの話、いろいろ聞きたい。」

「ふふ・・・・」

「ねぇアヤノ、彼女のシーンを再現してみない?」

「えっ? どのシーン? 」

「だから・・・ほら・・・」

「ふふ・・・イタリア? それともギリシャ? ベトナムかな? じゃなくて韓国?・・・・」

「うそ・・・・そんなにあるの? もしかして、アヤノはみんな読んだの?
 すごいね。だから僕はちっともかまってもらえなかったんだ。」

テヤン、覗き込んだ目がにらんでる。
冗談でもその目でにらまれると、
ほんとにちょっと怖いんだから・・・

うなじに唇が降りて・・・

「じゃあいっぱい知ってるの?
 僕イタリアのシーンしか知らない。
 アヤノが教えてくれるの?」

「・・・・・・」


耳元でささやかれると、その声に酔ってしまう。


「教えてくれるんでしょ・・・
 韓国のストーリーでは、どんなだった?」

「忘れた・・・」

「じゃあ今から読むよ。」

「ダメッ!!」

「なんで?」

「ハマッちゃって、終わらなくなるから・・・」

「アハハ!それはありえない。
 読みかけのストーリーよりなにより、
 僕にはアヤノと愛し合う時間のほうがずっとずっと大切だから。
 あなたはストーリーのほうが大切かもしれないけど・・・」

テヤン、まだ根に持ってる・・・・

「ということで、今日はイタリアバージョンで・・・」

「テヤン、覚えてるの?」

「はい」

「・・・・・・」



翌朝、思いがけないところが筋肉痛で・・・
情けない歩き方で出勤となった。

あのかっこいい作家さんに会ったらきっと、
テヤンも私も思い出しちゃうだろうな、夕べのこと。

はぁ・・・・

でも、今度うちで1ページ持ってもらうっていうの・・・いいかも。 
大人が旅するイタリアの話。
ベトナムもいいけど・・・・
うーーん、やっぱりイタリアかな。

そしてもっと親しくなれたら、いつか告白しちゃおうかな。
「試してみました・・・」なんて・・・
「でもちょっと、体勢的にはハードすぎます。」なんて・・・



はぁ・・・・仕事中なのに・・・顔が熱い・・・・

とにかく・・・・・
どすこい!さん・・・じゃなくて・・・綾小路さんに電話だ。

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