Lusieta

 

続・この場所から  たまには駄々っ子の誕生日 2012 後編

 

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「もちろんユファのこともかわいいし大好きだけど、
でも、ユファが生まれて、ママとパパの関心がユファに行っちゃって、
今ちょっぴり寂しいっていうのも、たぶんユイルのほんとの気持ち。」

「あ・・・」

「オトコゴコロは複雑よ。っていうか、お兄ちゃんゴコロ。」

「うん。」

「ユイルはね、パパが帰ってきたら、
ユファを探す前にいつも一番にユイルのことみつけて、
抱っこしてほしいって思ってるのよ。」


「・・・・」


「昨日ね、ユイルがユファに話して聞かせてたの。
“日曜日は、ユファもパパと遊んでもいいよ。
でもね、パパが僕といっしょに『ゴーバスターズ』見て、オセロして、
ジェンガして、本を2コ読んだあとだよ。”
って。ふふ。」


「ユイルが?」


「うん。それでね
“ちょっと時間かかるから、
おっぱい飲んでメリーちゃんのクルクル見て遊んでたらいいよ。
そしたらちょうどいいよ。”
だって。」


「わぁ。そうだったんだ。
そうか・・・
気づかなかったな。ユイル・・・
あぁ~~、そっかぁ・・・」



ドサッとソファに背を預けた。


「ヨシッ!『ゴーバスターズ』でオセロでジェンガで本2冊だな。
わかった。」


「ふふ。」


「帰ってきたらまずユイルと男同士の話をするよ。」


「ユイルが起きてるうちに帰れたらね。」


「あ・・・はぁ・・・
だけど僕、ユイルがいつも楽しそうで元気だから、
そんなこと思ってもみなかった。」


「しょうがないよ。
テヤンは大事に大事にかまってもらった末っ子だからね。
お兄ちゃんの屈折した心持ちはわかりませんよね。」


「ひどいな。実は自分だけ兄弟じゃなくて甥っ子だったていう、
そういう複雑な末っ子の屈折なら知ってるよ。」


「あらま。」


「それに・・・」

「ん?」


「いや、いい。」

「なによ。」

「いいって。」


「いやだ。気になるじゃない。 テヤン。言って。」


ん?と顔をのぞき込んでみる。


「今日はテヤンのお誕生日なんだからね、
言いたいことはなんでも言ってみて。」


わざと、小さな子に言うみたいに聞いてみる。


「誕生日じゃなかったら、言いたいこと言っちゃダメなの?」


「え?・・」


ほんとに駄々子みたいに返されると、びっくりしてしまう。



「いや。冗談だよ。ジョーダン・・・」


なんか、へんな感じになってきちゃった。


「テヤン・・・・
なんか、言いたいけど我慢してることある?」



その、慌てた感じはなに?


「いや・・・」


「なんなの?教えて。 テヤン・・・」


テヤンが私に言いたくて、でも言わないでいること?



ふふっと笑って、テヤンが私を引き寄せた。


「じゃあ言うよ。」

「うん。」


妙にドキドキする。



「僕の屈折はまだあるよ。」


「うん・・・言ってみて・・・」


「愛する人がママ業に忙しくて、
かまってもらえない夫の屈折。」


「え?・・・わぁ・・・」


すごくびっくりして・・・
なんて言ったらいいか、わからない。



「子どもの気持ちには、そんなふうに気づくんだから、
夫の気持ちにも気づいてくれない?」


「テヤン・・・・」


ほんとに、そうかも。
私はユイルとユファばかり見て暮らしてるかも。
それに、寝不足でいつも眠い私は・・・
このごろテヤンと・・・その・・



「なんてね。今日は誕生日だから、ちょっと甘えちゃった。」

「テヤン・・・ごめんね」

「だから、今から気づいてくれたら嬉しい」



急に唇が迫ってきて、

私はなんでうろたえちゃったのかな?
ほんのり開いた隙間に、咄嗟にチーズを放り込んでしまった。

テヤンはあっけにとられ「ん~~」と言いながらモグモグしちゃって苦笑い。


「誕生日の男をいじめないで。
でも・・・おいしいから許すけど。」

「ふふ。テヤンの大好きなモッツァレラ。
私の唇とどっちがおいしい?」


「こっち。」


テヤンが自分の口を指さす。


「わ、ひどい!」


「仕返しだ。」



テヤン・・・

ちょっと情けなさそうな苦笑いの顔も、好きだよ。

モグモグしててもやっぱり上品なその唇も、大好きだよ。


「ふふ。」


「チーズもおいしいけど、
サムゲタンもチャプチェもナムルもわかめスープも、
ほんとにみんなおいしかったよ。
アヤノ、すごいね。全部僕の好きなものばかり。
ありがとう。」


「いえいえ、なんのなんの。」


「ん?ナンノナンノ?」


テヤンには、まだ意味不明な日本語が存在する。



「“どういたしまして”ってことだよ。」


「わぁ・・・“どういたしまして”が、ナンノナンノ?」


「うん。」


「・・・・アヤノ。」


「ん?」


「このごろ忙しくて、毎日夜遅くてごめんね。」


「なんのなんの。」


「いつもユイルとユファのこと、ありがとう。」


「なんのなんの。」


「誕生日のお祝いに、チーズよりワインより妻を食べたい僕でごめんね。」


「・・・なんのな・・んの・・・」


そう来たか。
かわいいテヤン。

今日は誕生日だから・・・




「ここに座った瞬間から、
もう押し倒すことばかり考えていた僕で、ほんとにごめんね。」


「あは・・・なんのなんのなんの・・・ふふふ・・・」


テヤンが口に含んだワインを、私に注ぎ込む。
シュワシュワと、口の中がスパークする。


今日は誕生日だから・・・

なんでも許してあげるよ、テヤン。


「いきなりあなたの中に飛び込みたい僕でごめんね。」


「なんの・・・なんの・・・」


そんな間にも、テヤンの指は性急に動き出す。
いきなりのシチュエーションにもかかわらずちゃんと潤ってることを自覚して、
私は少し恥ずかしい。



「1回目は・・・ダッシュで駆け抜けちゃいそうな僕で・・・
ほんとにごめんね・・・」


「そうなの?
なんのなんの・・・2回目は・・・ゆっくり・・・ね・・・」


「ワォ!・・・ナンノナンノ・・・」


「それ・・・使い方違うよ・・・」


「・・・そう?・・・」


「テヤン・・・」


「ん?・・・」


「大好きだよ。」

「ナンノナンノ」


「だから違うでしょ!」



「あは・・・
僕も。愛してる。アヤノ。」


一度目のテヤンを受け止めたあと、
テヤンは私から出て行かなかった。

「くっついていたいんだ。」

やっとゆっくりキスをした。
やっとゆっくり服を脱がせ合って、
今度はゆっくりゆっくり、抱き合った。


そんな二人を満ち足りた脱力が包むまでには、
今日は少し時間がかかった。



そのあいだ、スヤスヤと深い眠りの森で遊んでいてくれた小さな二人。

それがきっと、二人からのパパへのプレゼントだね。




誕生日おめでとう。

テヤン、愛してる。

ずっとずっと。











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