Lusieta

 

続・この場所から バレンタインバースディ 後編-1

 

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なんで俺は、マミを部屋に連れて帰ったんだろう。

うまく説明できない。


ただ、あのまま帰したくなかった。

また一人で泣くに決まってる。

泣くなら俺の胸で泣かせてやりたかった。


いや、違う・・・・

俺がマミを離したくなかったんだ。

マミをあのままずっと、胸に抱いていたかった。





    ・・・・・・・・・・






ソファで寝るという俺に、

お願いだからベッドで一緒に寝てと言った。



「じゃあなんで私を連れて帰ったの? 私、そんなに魅力ない?」


「んなわけねぇだろ。我慢してるに決まってんだろ。」


マミは、とたんに笑顔になって抱きついてきた。



「無理してるだろ・・・」


「そんなんじゃないってば。

もう・・・ここで断られたら、私はどうしたらいい?」


「マミ・・・ほんとに・・・いいのか?」


「早く一緒にねようよ!」





あけっぴろげで大胆なイメージを裏切って

震えるマミがいた。


「大丈夫か。」


「うん・・・・」


「マミ、初めてか・・・」


「んなわけない・・・・」


「冗談だよ・・・」


「私、なんだか体が堅いんだって。」


「・・・・そう言われたのか・・」


「うん。」



     あの男、許さねえ




俺は用心深くゆっくりと、彼女がほぐれていくのを待った。

透き通るような肌がうっすらと染まり、

やっと溶け始めた体は、

あまりにも細く柔らかく、そして温かく・・・



誰かを抱きながら、こんなに胸が震えたことはなかった。

お前を壊しそうで怖いのに、夢中になってしまう。

俺は・・・やさしくできているか?



揺れている間もずっと俺を見つめていた目が、ふと一瞬宙をさまよって

半開きの唇から甘い吐息が漏れた時、

俺のほうが泣きそうになった。


あとはもう我慢できなくて、

お前に包み込まれる温かさと切なさに身を任せた。






ゆっくりと過ぎる、安堵と弛緩のひととき、

隙間なく肌を合わせて、背中からマミを抱いていた。



「ごめん。私、見かけ倒しで。

上手によくしてあげられなくてごめん。」


「なに言ってんだ。お前、バカか。

俺、もうメロメロだったよ。

夢中だったよ・・・」




お前が、また泣いた。

俺はたまらなくなって、

その細い体をもう一度愛した。

未明の闇の中に、浮かび上がる姿は、

白い天女のようだった。






そして・・・

その朝、目が覚めるとマミはいなかった。

テーブルの上にメモを残して。



     サトちゃん、ありがとね。

     昨日サトちゃんに会えて、ほんとによかった。

     ずっと付き合ってくれてありがとう。

     はじめからおわりまで、
     サトちゃんは王子様みたいだったよ。

     
     それから、

     やさしくしてくれてありがとう。

     あんなに幸せなのは初めてでした。
          


     私はものすごく凹んでました。

     もちろん今もだけど。

     でもね、昨日とは全然ちがうの。

     なんだかもう全然ちがいます。

     うまく言えないけど、また頑張れそうだよ。

     サトちゃんのおかげです。

 

     んでね、ほんとに元気になったらまた会ってくれる?

     弱いときに守ってもらって癒してもらうんじゃなくて

     ちゃんと復活して元気になってから、

     普通のサトちゃんと普通のマミで会いたいんです。

     今度は私から誘ってもいい?

     
     きっと連絡するから、そのときは逃げないでね!

     超ハイスピードで復活の予定ですから。






携帯の番号もアドレスも、

なにも教えあわなかったことを後悔した。

会おうと思えばすぐに会えると思っていたんだ。



     マミ、朝別れて、俺はもうその夜に会いたかった。

     お前は、違ったのか。

     超ハイスピードって、どのくらいだ。

     ちゃんと言ってくれないと困るよ。




その後、マミはどこからも姿を消した。

テヤンが知っていたアドレスも番号もつながらない。

マンションも引き払った。






     マミ、あんまり潔すぎて驚くよ。。

     どこ行ったんだ。

     無理してないか。


     無理してると言ってほしい。

     助けを待っていると言ってほしい。


     それとも復活して、もう俺なんかいらなくなったか。


     俺はこんなに夢中になってしまって困ってるのに、     

     マミ、お前は俺に会いたくないか。

     たった一晩のことなんか、もう忘れたか。


     俺は・・・

     俺は、お前に会いたい。

    
 


ある日、テヤンからメールが届いた。


「マミの連絡先です。
 本人にはサトウさんに伝える了解をとりました。
 留学を考えているようです。」


礼の返信もせずに、すぐにマミに電話をかけた。


「もしもし・・・」


「俺、サトウ。」


「あ・・・サトちゃん・・・」


「お前なぁ、なんでいなくなる!!探したんだぞ!」


「え?・・・」


「何で言わなかった。俺はそんなに頼りにならないか。

 俺は会いたかった。すっげぇ会いたかった。

 お前は俺のことなんか忘れたか・・・」


「忘れたりなんかしないよ。」


「じゃあ、なんで!!」


「あの・・・・」


「マミ!」


「やっぱり自信なくて・・・」


「自信?・・・・」


「たった1回のことで、しつこくされるといやかなって。」


「なんだよそれ・・・」


「なんか、私、重いでしょ。

 見かけ倒しだし、ほどよくスマートにできないし・・・」


「なんだよそれ!きっと連絡するって・・・待ってたんだぞ!」


「ほんとに、私に会いたいと思ってくれた?」


「あぁ、ほんとにほんとにすっげぇ会いたくて・・・・

 おぃ・・お前なぁ・・・」


「私も・・・」


「え?・・・」


「サトちゃん、私も・・・」



     マミの周囲が騒がしくて、声がよく聞こえない。



「マミ、よく聞こえない。今どこだ。」


「成田。」


「え?!成田ぁ~!」


「うん。」


「なんでだ。お前、行くな!!
 
 そこにいろ! 動くな。行くな!

 今そっち行くから、そこにいんだぞ! いいな!」 
    

「・・・サトちゃん・・・」

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