Lusieta

 

続・この場所から バレンタインバースディ 後編-2

 

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また仕事をばっくれた。今日までの人生で二度目だ。

二度とも、マミ、お前のせいだ。


成田に着いても、パニック状態で、

どこを探したらいいのかわからなかった。

いや、もういないのかもしれない。

ふつう、予定通りに出発するよな。

ここで待ってたりしたら・・・・

よくあるドラマチックな展開だけど、

普通はないんだよ、あんなこと。



俺たち、ちゃんと二人っきりで会ったのは1回だけだ。

そんなヤツのために留学をやめにするなんてな。

なにやってんだ、俺。


それに、マミの気持ちは、ほんとはもう冷めてたのかもな。

俺、バカだ。




いないよな、マミ。




「サトちゃん!」



     あ・・・いた・・・



「マミ・・・・」




勝手に足が動いて、勝手に腕が伸びて・・・

人が行き交う通路の真ん中で、

マミを抱きしめた。


こんなこと、俺がするなんて・・・

マミはちゃんと応えて背中に手を回してきた。

あの夜と同じ、細い腕。



俺の胸に埋もれたままでマミが言った


「あれからすぐに来てくれたの?」


「あぁ、飛んできた。」


「私のために?」


「あぁ、お前のために。」


「うれしい・・・・」


「行かなかったのか。」


「だってサトちゃんが行くなって言ったもん。」


「よかったのか。」


「自分が言ったくせに、そんなこと言わないでよ。」


「すまん。俺のせいで。留学やめちまうなんて。」


「・・・留学?」


「マミ・・・・」


「・・・・」


抱きしめると、ちょうど俺のあごのあたりに、

彼女の髪飾りがチクチクあたる。


「なんでこんな格好してんだ?ドレスなんか。

 これじゃ撮影か、結婚式にでも行くみたいだ・・・・」

「うん、友だちの結婚式だったの。」

「へ?・・・・」

「新婚旅行の見送りにきたの。」

「えぇ~~?!!」

「サトちゃん・・・もしかして・・・留学って・・・」

「あぁ・・・はぁ~~?・・・じゃあ、やめたのは?」

「三次会。」

「・・・あぁ・・・」




     ・・・・・・・





タクシーの中で、マミはずっとクスクス笑っていた。

俺はなんだか自分のとった行動が、あとになって恥ずかしくて

どうしても憮然とした顔になってしまう。


マミは、そんな俺の顔をのぞき込んではいじっている。

鼻をつまんだり、頬をつついたり、
油断するとキスまでしそうな気配だ。


「やめろって。」


マミはやめない。

うれしくてしょうがないふうだ。

いつまでもやめないから、その両手をつかんで動けなくした。

マミがもがく。

つかんだ両手を胸に抱いた。


「観念しろ。」


マミが動きを止めた。

全身を預けるようにして、俺にもたれかかる。



     そうだよ。マミ。

     そうやって誰かに全部を預けてみろ。

     ひとりで頑張るな。

     お前なんかに全身でもたれかかられたって、

     俺はびくともしないんだ。

     わかったか。



     マミ・・・





      ー ー ー ー ー ー ー ー ー
 






薄闇の中に散らばる布が、俺を責めるように浮かび上がる。

彼女からはぎ取るようにして、その場に落としたひとつひとつ。


ドアを閉めた途端に、ぶつかるように唇を合わせた。

もつれながらベッドにたどり着いた時にはもう、

二人とも、最後の布一枚になっていた。



     少し、乱暴だったか・・・・

     自分を抑えられなかったよ。

     あんまりお前が欲しくて、どこへもやりたくなくて・・・・

     そして、ここに来てくれたことが、
     あんまりうれしくて・・・・



     少し驚いて、身を固くした一瞬があったこと、
     気づいてたよ。

     ごめんよ、マミ。

     でも、今俺の胸の中で眠るお前の顔は安らかだ。

     たぶん・・・幸せなはず。

     だから、許してくれてると、勝手に思っていいか?




       ーーーーーーー




さっきから、いろいろいたずらを仕掛けてるのに、
まだ起きない。

もぞもぞと身じろぎするだけで、目は開かない。

いいか、0時ちょうどに、絶対起こすからな。




そのときが近づいた。

俺一人でカウントダウン。



  ・・・・・5・4・3・2・1・0



そっと、その白い首に銀のくさりをつけた。

お前の鎖骨の少し下あたりで揺れるはずの、

アンティークなペンダントトップはアメジスト。



     誕生石って、このごろ流行らないか?



     お前はきっとブランドの高価なものを
     たくさん持ってるだろ。

     だから、小さな店で買った手作りのペンダント。

     全然高価じゃないけど、

     こんな素朴さと控えめな輝き、
     実はお前に似合うと思うよ。



     マミ、誕生日おめでとう。

     こんなに安らかな寝顔で、
     お前がこの日を迎えていること、

     俺のガラじゃないけど、誰かに感謝したくなる。



     バレンタインデーが誕生日だなんてな。

     同情するよ。

     今日の主役はお前だからさ、
     チョコをねだったりしないよ。

    
     チョコなんていらないから

     明日も、明後日も、その先もずっと

     こうして・・・・

     俺の胸で眠ってくれないか。

    

     マミ・・・

     なぁ、返事してくれよ。



     起きろよ・・・

    

    
     オイ・・・

     コラ・・・


     起きろ!



     マミ・・・



          鼻、つまむぞ!


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