Lusieta

 

続・この場所から バレンタインバースディおまけ  寂しいキューピット

 

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ーーーーーside テヤン



今日の撮影はハードだった。

もうこんな時間だ。

夜中に雨が雪に変わるかもしれないと、天気予報が告げていた。



アヤノにメールをしようとしたら

着信も受信メールも、すごいことになっている。

着信は7件、メールは5件。

そうか・・・

打ち合わせの時にサイレントマナーモードにしたままだった。

アヤノは、電源が切られてるほうが安心だという。

電源が切られないまま、留守電にもなっていないと

なにか急なことが起こったのかと、

だんだん心配になってくるのだと。



「もしもし・・・」


「ごめん。心配した?」


「うん。」


「ごめん、打ち合わせの時にサイレントにしちゃってて・・・・」


「無事なんだね。」


「うん。無事です。」


「じゃあ早く帰ってきて。」



アヤノの声が変だ。



「どうしたの? アヤノ、泣いてる?」


「うん、ちょっとね。」


「ごめん!そんなに心配してたの?」


「違うよ。うれしくて・・・・」


「えっ?」


「あのね、サトちゃんから伝言。空港で、ちゃんとマミを捕まえたって。」


「あっ!」


「よくも騙してくれたな!って」


「あは・・・」


「ありがとなって。」


「・・・そっか・・・」


「マミちゃんが空港にいるって知ってて、
留学なんてウソついたの?」


「うん。」


「すごいね、テヤン。」


「そう? ちょっとギャンブルだったけどね。よかったよ。」


「テヤン。」


「ん?」


「早く帰って来て。」


「うん。もう少しだけかかるかも・・・」


「お願い。すぐに帰ってきて。」


「アヤノ?」


「キスしたい。テヤン・・・」


「・・・・あぁ、僕も。」







   ーーーーーーーーー







信号の赤がもどかしかった。

“急ぐ時こそ慎重にね。”

アヤノのくちぐせが浮かぶ。

なのに

“すぐに帰ってきて”と言う。



     あなたのせいだよ、アヤノ。

     早く帰りたい。



     わかってる、あなたの気持ち。

     複雑なんでしょ。
 
     10年の間、ずっとあなたを守るようにして、

     そばにいた人。


     その人の幸せがうれしくて、

     泣いてしまうくらいうれしくて・・・・

     でも・・・

     寂しいんだよね。



     そうでしょ。



     僕がキスしたら、寂しくなくなる?



     他の人を想って寂しいあなたを、
     早く僕の胸に閉じこめたい。



     そして、何度もキスをする。

     あなたの心が、僕だけでいっぱいになるように。

     





   ーーーーーーーーーー






「やっぱり雪になったね。」


僕のシャツ1枚を羽織ってベッドを抜け出し

窓辺に立つあなた


「寒いでしょ。」


ブランケットでくるんで後ろから抱きしめる。


「これじゃテヤンが寒いよ。いっしょにね。」


ブランケットから顔だけ出してくっついてるふたり

すこし滑稽な姿を、窓ガラスが映している。




     ・・・・・・・





帰り着いてドアを開けると

いきなり胸に飛び込んできたアヤノ。

やっと靴を脱いだその場所でキスを重ねた。

そしてふたりとも、止まられなくなってしまった。



“僕とキスしたかった?”


“うん。早くテヤンと・・・キスしたかった。”


“待ってた?”


“うん。待ってた。”


“僕を愛してる?”


“うん・・・テヤン・・・愛してる。”


“誰よりも?”


“誰よりも・・・誰よりも・・・”


僕は、いつもより少し性急で、少し乱暴だった。



     これは嫉妬なのか?

     こんな気持ち、あなたには言えない。

     だから、あなたも

     寂しい気持ちを

     僕に言わなくていいよ。




声にならない思いを注ぎ込むように

あなたへと向かった。

そこはいつものように温かく僕を包みこんで、そして苦しめた。

終わりたくないのに、あなたとこうしていたいのに、

必死に踏みとどまろうとするのに、

こらえきれず終わりへと突き進んでしまう僕を

あなたは優しく受け止めた。







    ・・・・・・・・・・





あなたがじっと暗闇を見つめている。




     雪を見ているの?

     それとも、ガラスに映る僕たちを?




「あの二人も、雪、見てるかな・・・」


「うん。見てるよ、きっと。」


「私たちみたいに?」


「うん。」


「・・・・・・」


「いや、見てないかも。」


「なんで?」


「だって、もし僕がそんなシチュエーションになったら、

もうアヤノしか目に入らなくて、アヤノだけを見ていたくて・・・

朝までずっとあなただけ見てる。窓の外なんてどうでもいい。

そうだよきっと。

恋のはじまりだからね。」


「・・・そうだね・・・恋のはじまり。」


「うん。」


「テヤン。」


「ん?」


「やっと・・・サトちゃんが幸せになる。」


「うん・・・・」


後ろから抱きしめる腕に力を込めた。



     

     自分で気づかないままだろうけど

     あの日、実はあなたが、

     恋のキューピットだったね。


     
     キューピットさん

     寂しくならないで・・・・









日付が変わった。




「テヤン、今日はバレンタインデーです。」


「そうだね。」


「かわいいチョコ買ったの。

今あげたいな。いい?」


「うれしいな。でも、今はいいよ。」


「えぇ~!・・・・そこにあるんだけどな。

明日の夜は二人とも遅くなるし・・・・

今あげたいんだけどな。」


「ありがとう。それじゃあいただきます。

でも、その前にもう一度アヤノをいただきます。」


「は?・・・」



やっとすこし太りはじめたあなたを、

まだまだ余裕で抱き上げて、

ふたり、またシーツの波に沈んでいった。



     こんどはゆっくり、やさしく・・・・

     そう、

     チョコのように甘く

     あなたをとろけさせる・・・・

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