AnnaMaria

 

裸でごめんなさい 2話

 

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ああ~!疲れた、疲れた・・・。
もうくたくたで何も考えたくない。

ここの処、連日残業続きでボロボロ・・・
明日のプレゼンがいくら大きいからって、もう部長ったら神経使い過ぎ。
そんなにあちこち気になるなら、自分でも少しやったらいいのよ。

でも、ま、明日もしも上手く行けば、このプロジェクトに関わっているメンバーとして、
ボーナスの査定くらい上がるわよねえ。
うしし・・・ここの処不景気で、上がるって言葉から遠ざかっていたから、期待しちゃう。


さ、とっととシャワーでも浴びて寝るわよ!


ったく、しけたビジネスホテルねえ。
何も夢がないわ。
仕方ないか、ここに泊まってる最大の理由は、明日の朝、
すぐ側にある取引先で間違いなくプレゼンするためなんだから・・・。

朝の6時半によそのオフィスに行くなんて、聞いたことないわよ。
一度、家へ帰りたいところだけど、ぎりぎりまで残業して朝一の仕事なら、
ここへ泊まった方が時間の効率は良かったかもね。


さあ、コンタクト外しちゃった。目が自由!
お顔のクレンジングから始めようっと。

あら、わたしの魔法のクレンジングがまだあっちじゃない。
よく見えないけど、バッグのポーチに入れたから大丈夫ね。

バコッ!痛い!ひ、火花が散ったわ!
何にあたったの?どうしてドアのノブがわたしの顔を直撃するの?
ちょっとしゃがんでたせいかしら、痛~~、もう最低!
自慢の顔が腫れちゃうじゃないの。

あ、あった、あった、さてクレンジングして、シャワーを浴びるぞっと。それにしても痛いわ・・・。


パタン。「?」 カッチャァンンンンン・・・・・・・。


「・・・え?」


何だか永遠に響きわたるような音がしたわ。


げ~~~っっ!!ここ、もしかして廊下?
今の音って、音って・・・ああ、やっぱりドアの閉まった音?


どうして?どうして、こんなことになるの?
このホテル、バスルームのドアと外へ出るドアが白くて似てたせいよ。

ぜ、全裸なのよ、全裸よ、バスタオルとクレンジングのチューブしか持ってないのよ。
どうしよう?人生最大の危機だわ。
どっか、廊下にフロントにつながる電話とかないかしら?

ない、ないわ!
今回、女はわたし一人だし、第一他のメンバーの部屋番号知らないもん。
やたらとノックして、全裸をさらすわけに行かないし・・・。

ああ、どうしよう?

仕方ないわ、あのフロントのオヤジ、超感じ悪かったけど、
ホテルって毎年何件か、こういう「オートロック事故」があるって言うじゃない?
だから、あいつにこの姿さらすのは悔しいけど、この場は恥ずかしがってる場合じゃないわ。
ここ、3階よね?
非常口の階段なら、それほど誰も使わないでしょ。


ほら、誰にも会わずにあと半階降りればフロントよ。

待って、あの声は何よ!


「部長、いいんすか?早く部屋に戻らなくて・・・」

「やあ、家でネットしようにも息子がPCを独占してるしな、
 最近はなんだか、かみさんまで夜遅くかちゃかちゃとPCを覗いておる。
 オレが使おうとすると、何だかんだ言って嫌がるんだ。
 それでも、この間良い所見つけちゃったから・・・お、コレだ!」

「こ、これはすごいですね。素人じゃないですか?ここ無料サイトなんですか?」

「もちろん!つなぐと金払えっていう有害サイトとは、違うよぉ。
 健全に楽しんで、心にトキメキを貰うってだけだよ。」

「おお、部長、これ動きますね。あ、こっち見せてくれてる。
 顔はよくわかんないけど、この巨乳はすごいですねえ。人間じゃないみたいだ、牛なみ。」

「うふ、まどかちゃん、い~よ~。どっかのペチャパイまどかと大違いだ。」

「栗原先輩ってペチャパイでしょうか?」

「こっちのばこ~ん、に比べれば、干しぶどうみたいなもんだろう。肌の張りだって違うし・・・」


く、くっそ~!
わたしのを見たことないだろッて、ここでこの姿で乗り込むわけにも行かないじゃないの!
あれって、エロ部長と、うすらハゲ課長と、隣の席の孝太郎君じゃない。
何だって部屋に帰らないで、こんな処で油売ってるのよ!


「お客さん、深夜ですから、もう少し小さい声でお願いします。」

「あ?ああ、すまんね。・・・とと、あともうちょっと見たら止めるからな。」


きゃ~~!!
わたしの宿敵のうすらハゲ課長はまた、部長のわきにへばりついて、一緒ににやついてんだろうな。
あのエロ部長、毎晩ネット覗いて抜いてるのかよ!
ああ、孝太郎君ひとりだったら、思い切って出て行って助けてもらうんだけど、
あいつらに見つかるくらいだったら、このまま朝までフロントを張ってた方がマシよ!

どうしよう?
あのエロそうな声からして、まだまだ止めそうもないわね。

さっきの廊下に戻って、万が一、孝太郎君ひとりが戻ってくれる可能性を待つか。



戻ってきたものの、どうしよう。
だ~れも通りそうもない。
取りあえず、この廊下の奥の切り込みにでも隠れるしかないわね。

消化器、邪魔!あ、でも動かして、非常ベルとか鳴ったらもっと悲惨だわ、そっとしとこう。
女性客が偶然通りがかってくれるのが最高なんだけど、
この時間じゃ、もうとっくにチェックインしてお休みだろうし。


うう・・・あれからどのくらい経ったんだろう?
20分?もっと?ああ、全然わかんない!
何だか、寒くなってきたわ。そりゃそうよね、バスタオルしか羽織ってないんだから。
誰か、誰か助けてよ~!

待って?誰か来た?女?あり得ないか。
でも、この際男でもいい。大恥をさらすなら、知り合いより赤の他人の方がいいわ!

立ち止まった。一人みたい。あ、一人だわ。
よし、神様、仏様、イエス様、どうか、この状況を助けて下さいませ!


「あの・・・すみません」


ああ、聞こえたかしら?
何せ、メガネもコンタクトもしてないから、ぼうっとシルエットが見えるだけ。
でも立ち止まってる。

コツコツ・・・あ、行かないで!


「お願い・・・・助けて下さい」


行かないで、あなただけが頼りなんです・・・。
あ、足音がこっちに向かってくるわ。私が見えるかしら?
いきなり全部見せて逃げ出されると困るし、いえ、ボディに自信がないワケじゃないけど、
この状況にいきなり会うと、あちらには覚悟ができてないだろうし・・・

ああ、こちらに来て下さったのね。
嬉しい!ありがとう、ありがとう、ありがとう・・・!

あ?引いてる?何か、いわゆる「プロの売春婦」とかだと思ってる?
違うの、違うのよ、シロートよって、ここで言ってもしょうがないわね。
フロントに突き出す気かしら?


「お願い、助けて下さい。フロントを呼ばないで・・・」


今、あすこには会社の上司と後輩と、もしかしたら、同僚もいるかもしれないの。
よく見えないけど、背の高い人ね。わたしの目の前にネクタイがあるって事は・・・・。

お願い、とにかく逃げないで。
ああ、バスタオルが落ちそう・・・。


「いや、僕はそういう趣味じゃないですから・・・」

「違うの、助けて欲しいんです。お願いです。」


ああ、頭がパニックで、どこから説明すればいいのか・・・
ええっと、実は・・・


♪チン・・・♪

え、チン?チンって、ああ、あいつらじゃない、声が聞こえる、孝太郎君ひとりじゃなかったんだわ。
どうしよう、今見つかるわけには絶対に行かないわ!

お願い、誰か知らないけど一緒に隠れて・・・こっちに来て。
ああ、それでも見えるかしら?どうしよう?
全裸なのよ、全裸!
お願い、見られないようにここに隠して・・・。


う~ん、この人何かいい匂い、結構良い男なの?
顔、よく見えないけど、メガネかけてる?
若いのかしら?声からすると、オヤジじゃないみたいだけど・・・。
ああ、怖い、こんな姿をあいつらに見られたらどうしよう?
もう、会社になんていられないわ。

ん?結構逞しい胸。男性的なのね?
でも、顔を見上げる勇気が出ない、コートの中に埋まりたい!
消えたい!怖い!


「では、部長!明日はよろしくお願いします。」

「おう、こっちこそ頼んだぞ。絶対遅れるなよ。」

「はい、お休みなさい・・・」


行った?行っちゃった?
これで見られる心配もなくなったけど、望みも消えたのね。


「ありがとう」


この異常な状況に対応して、わたしを匿ってくれて有り難う。


「いやいい。礼を言われるようなことじゃない・・・」

「じゃ、あなたのお部屋に連れていって」

「え?」

「お願い、ここにいたら、すぐに見つかっちゃう・・・」


そうよ、どっちにせよ、何とかして自分の部屋に戻らなきゃならない状況は変わらないもの。
もう、ここはこの方にすがるしかないわ。
お願い・・・


「わかった。いいよ。でも声をたてないようにして・・・」

まあ、優しいのね。でも、ため息をついたのが聞こえたけど・・。

もちろんよ、見つかりたくないのはわたしの方なんだもの。
ああ、有り難う、見知らぬ方。
あなたに神の加護(どの神様だかわからないけど)がありますように。


ん?ぼうっとして見えないけど、笑ったみたい?
え?コートを貸して下さるの?何て親切な方。
ああ、嬉しい、助けてくれそう・・・神様、この方を遣わしてくださって有り難うございます。
もう少しだけ、お助け下さい。


ここ、どこの部屋だろう?わたしの部屋の近くよね、きっと。何しろ見えなくて。


「ああ、助かった・・・」


安心で泣き出しそうだわ。

あ、彼がこっちを見てる。そうよね、まだほんの第一段階だもの。


「さ、とりあえず部屋に入ったよ。これからどうするの?」


いけない!座って落ち着いてる場合じゃないわ。


「あの、もしお持ちなら、お洋服を何か貸して欲しいんですが・・」


ソレをお借りしたら、とっとと出て行きますから。
ああ、バスタオル落ちそう・・・!

これを貸して下さるの?ああ、服だわ!


「ありがとう、本当に助かります!バスルームをお借りします」


ああ、とにかく全裸じゃなくならないと何も出来ない!

大きいTシャツね。
ずいぶん洗いざらしたみたいで首ぐりがゆるいけど、そんな贅沢言ってる場合じゃないわ。
ああ、下着もつけずにコレをお借りしたら、洗わずにすぐに返すって訳にいかないわね。


「コートをお返ししますね。」


何だか、呆然としてこちらを見てる?
ま、無理もないけど。ああ、コート、クローゼットに掛けなきゃね。


「あの、助けて頂いて有り難うございました。本当に助かりました。
 さぞ、迷惑でしたでしょ?どうか、許して下さい」


頭を下げまくったけど、困惑しているみたい?
そりゃ、無理もないです。わたしのせいです。


「君、いくら要るの?」

「え?」


え?お金?何でそういう提案になるの?まだプロだと思ってる?
それとも何か誤解して、助けてくれようとしてるの?


「いえ、大丈夫です。お金は要りませんので・・・後は自分で何とかできると思います。」

「金は要らない?少しなら助けてあげられるよ。」


何だか、札入れを出してるみたいだけど、本当にいらないんです。
服が欲しかったんです。


「ご好意はうれしいです。でもこれ以上、ご迷惑をかけられませんから・・・」


何だか、納得してない顔つき。(よく見えないけど)
まさか、やっぱりプロだと思っててついでに食べよう、とか思ってるのかしら?
それとも、わたしの悩殺ボディにクラクラ来ちゃった、とか。

え~!困るわ、わたしそういう女じゃないのよ。
結構いい男みたいだけど、いくら何でも・・・・・できません。
とにかく、次はここを出ないと・・・。


「このお洋服、お返しできないかもしれませんが・・・
 今、手元に何もなくて、お礼ができないんです。」

「構わないよ、礼なんて・・・。ま、座ったら?」


どうしよう?ここで断ったら押し倒される、とか?


「のりかかった舟だ。詳しくなくて良いから、事情を聞かせてくれないか。
 その顔も冷やした方がいい。」


は、そう言えば、顔のここがさらに熱くなったような・・・腫れてるのかしら。
さぞ、酷い顔でしょうね。ああ、心配して下さってるのね、ごめんなさい。

訳って?この人に今更全部言うの?
単に、シャワールームとドアを間違えて、廊下に締め出されましたって?
顔もシャワールームのドアノブにぶつけただけですって?
言えないわ。さっきなら言ったけど、もう服もらっちゃったもん。


「ごめんなさい。言えないの。聞かない方がいいと思います。」


何か、お礼するべきよね。
何かなかったかしらってバスタオル一枚で飛び出したんだから、
後はこの体しか・・・え?ちがうわよ。


「これ、ブランドものだから、少しは何かになるかもしれません。ご迷惑代として・・・」


そうよ、一応カルティエのリングだし、自分で買ったヤツだから後腐れもないわよね。
一生に一度の危機を救って下さったんだもの、これ位、惜しくないわ。


「ありがとう、助けてくださって。一生忘れないわ。本当にあなたは良い方ね。」

「君・・・いらないよ、こんな・・・」


いいの。どっかのブランドショップにでも売り飛ばして、小銭に換えて!
わたしの体よりは安いはずよ。

本当に感謝してる。わたしの人生最大のピンチを救って下さってありがとう。

きゃ、抱きついたけど、すっごい筋肉質。けっこう好きなタイプかも。
ああ、もっとまともな状況で出逢いたかった。
でもあなたにだけは、もう絶対に、一生、二度と、金輪際お逢いしたくないわ。


「じゃ・・・」


廊下、誰もいないわよね?やった!後はあの不景気そうなフロントのオヤジと交渉よ。
ああ、疲れた~~!・・・・

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