ボニボニ

 

デビルマニアふたたび 3

 




「・・え? 出かけるんですか?」 


ママの隣で ペコリスの皮を剥いてたジュニが ポカンと呆れ顔で言った。
「どこへ?」
「なぁ~に 茜 どうしたの~お?」  


赤いタータンチェックのママと グリーンのタータンチェックのジュニ。
おうちイベントが大好きな2人は 朝から 揃いのエプロンだよ。

本当はこのエプロン。
ママが 「総ちゃんとペアルック~♪」って
パパの誕生日に買ったんだ。

だけど いい歳をしたオッサンに タータンチェックだけは勘弁してくれって

パパに泣いて拒否られたので ジュニが代わりに使ってんの。



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「出掛けるとは聞いていませんでした。 どこへ 行くのですか?」

え? あ・・いや・・・ちょっと。 ・・物を受け取るだけだから。

「ふぅん? 真由さんですか?」
「・・・え? ううん 美咲」
「築地まで? じゃあ 僕 車を出しましょう」




ヒエェェェェェ!!


「ううん! 電車の方が速いから! 大した荷物でもないし」
ジ、ジュニはママのお手伝いをして! アタシはいいから 絶対 そうして。 


「本当にすぐに・・。 12時までには 帰って来るから」
お昼 食べないで帰るから 何か作っていてくれるといいな。
「・・お昼までに」
「あ!そうだ。 ジ、ジュニの生パスタがいい。アーリオ・オリオ・・」



「ふぅん?」



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か・な・り・・ やばい。

多少 不自然だったけど ま、まあなんとか 誤魔化せたよね?
Xマスカードか何か買い忘れたとか 思ってくれてるといいけれど。


だって 教授は明日から 外国に行ってしまうんだもん。

今日受け取っておかないと 
年明けの 夏物コレクションに間に合わない。


ジュニに隠しごとをするのは ちょっと 気が引けたけれど・・

しょうがない。 ジュニは「デモーニッシュ酒崎」の名前を聞くだけで
ピクッて・・ 頬が揺れちゃうんだ。。



「えーと・・ゲーダイはぁ 上野からでも行けるかな」

ともかく 像をお借りしたら さっさと帰って・・ローストチキンだ。
アタシは おーし!って張り切って 広い公園を歩き出した。

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「・・・・・」

「・・・・」


アタシの出かけた後のこと。 
ジュニは ペコリスを剥く手を止めて じっと何かを考えていた。
ママは チキンをキンバクしながら 横目でジュニを盗み見ていた。

コト・・ン・・


ジュニは黙って手を洗うと うつむきがちにエプロンを取る。

「ママさん。 ・・あの・・僕。 ちょっと 用事を思い出しました」
「・・・・」

すぐに戻って 手伝います。
ジュニのヤローはためらいがちに キッチンを出て行こうとする。
チキンを縛り上げる手を止めずに ママは ジュニへ声をかけた。


「・・・心配を させたくないからだと思うなー」

「え?」

茜のこと。 何 嘘ついてるのかは知らないけれど
「ジュニちゃんに 心配させたくないものだから 内緒にしているんだと思う」
「ママさん・・」

恥ずかしそうに ジュニが 笑った。

「わかって います」


でも だからこそ・・ 心配なんです。
僕に内緒にしてしまったから 何か 困ったことになっても 
「茜さんはきっと 僕に 助けを求めない。 ・・それが 怖いです」


はぁ・・・

縛り上げたチキンの具合を 縦横斜めにチェックしながら
ママは 静かにため息をついた。
「茜が社会に出て行ったら こんなことは もっと増えるわよ」

「・・そうですね。 僕も 慣れていかないといけないのですけど・・」


駅までチャリでかっ飛ばせば 茜のバスくらい 追い越せるわ。
「だけど今夜は ジュニちゃんが 鱸のカルパッチョを作る役だからね」

「はい!」



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・・・・や、やっぱり “魔”なんか ご遠慮したい。


酒崎先生の教授室で アタシは ヒクヒク引きつっていた。
ウチの大学のセンセの部屋も たいがい不気味だったけど。

ゲーダイにある この部屋は ごく控え目に言って“バケモノ屋敷”だ。

ふえ~ん・・・ 怖ぇよ~・・・・
涙がちょちょぎれそうなんですけど アタシ。


「おぉ “魔”に捧げられし処女 高坂君か。 よく来たね」って・・・
いや あのアタシ バージンじゃないですし。 
「お望みの「地魔」はあれだ! かまわん。 持って行き給え」


これで君は 2つも“魔”を従えたな。 あ~っはっはっは・・・ 

いちいち シェイクスピアの芝居みたいに 
酒崎教授はご大層だよ。
アタシは 先生が指し示した「地魔」像を見て ぎょっとした。


こ・・れ でかくね? 

写真で見たときはそうでもなかったのに
これでは 近所の「大村庵」に置いてある 特大招き猫くらいある。

「あのぉ これは ブロンズですか?」
「うん? いやスチールだな 鍛鉄。 中は空洞だよ」
「はぁ・・・」


持てるかなあ。 大き目のスタイリストバッグを持ってきたけど
ぎりちょん。 入らない かもしれない。

アタシは 「地魔」に近づいて 相撲の立合いみたいに腕をまわす。

よぉいしょーっと 威勢良く持ち上げたら
思った程には重くなくって アタシは バランスを失った。
「こ! 高坂君っ!」


きゃあぁっ!

ガタガタガターンッ・・・   ゴロン・・


バンッ!!

・・・え? バンッ?

何が起きたか解らなかった。 アタシは 床に尻餅をついて
脇には 「地魔」が転がっている。
酒崎教授は アタシの前へ ひざまずく様な格好で

そして なぜか扉を開けて ・・・そこに ジュニが立っていた。

「え・・・ ジュニ?」
「ジュニ君」



「・・・・・・」

タンッ・・ タン・・・と床を鳴らして ジュニのブーツが歩を進めた。

アタシと教授の視線の高さは ジュニの 長い膝下で
ものすご~く優雅な身のこなしで 歩み寄って来たヤツは
アタシの傍へ 片膝を付いた。


・・・大丈夫ですか?

「え? あ うん。 あの・・・ジュニ。 これはね」
「つかまってください。 立てますか?」

ふんわり腕を差し入れて ジュニは アタシを抱き起こした。
いったい 何でこの場所に ジュニがいるわけなんだろう?

・・・・はっ!  やばいっ!!

「おお、ジュニ君。 今 高坂君が」
「・・・・・・・」


・・・ごきゅっ・・

酒崎教授の 息を呑む音が アタシの所まではっきり聞こえた。

アタシを抱え起こしたジュニは 酒崎教授へかがみこみ
肩先から 青い焔を立てながら とても静かに囁いた。

・・・貴方は 立てますか?

「・・ジ・・ジュニ君・・」


わしづかみ。 教授の両襟を握ったジュニは 
デモーニッシュがつま先立ちになるまで その身体を引き上げた。
「何を・・ なさっていたんですか?」


パクパクパク・・・

ああああ 神様!
アタシは 自分が白目になって わたわた踊っているのを感じる。
はははは早く 誤解を解かなくちゃなのに 言葉が 口から出てこない。

だけど デモーニッシュ酒崎は 思いもかけない事を言った。

「茜君は 素敵な娘だな・・」


「!」


きゃあぁぁぁっ!! 

それからは もうめちゃくちゃだった。 

ジュニは 教授の両足が宙に浮くまで ギリギリ胸倉を締め上げるし
アタシは泣き泣き すがりつくし



・・そして教授は 半分失神しながら 至福の笑みを浮かべていた。


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・・・すみません。

僕はてっきり先生が 茜さんを襲っていると 思い込んでしまいました。


「まぁ あの状況じゃね」

アタシが「地魔」像にバックドロップをかけて 勝手に1人ですっころび
とっさに助けようとした教授が 間に合わなくて 倒れ込んだなんて。
「ジュニじゃなくても わかんないと思うよ」


アタシはちらりとジュニを見て すんでの所で 吹き出しかけた。

しょんぼりしている ジュニの肩から「地魔」の角が覗いてる。

結局 アタシのスタイリストバッグに 像は全部入らなくて
ジュニは すんげー怖い顔だけが飛び出たバッグを 背負うはめになった。
「ごめんね ジュニ。 嘘ついて・・」


心配させたくなかったんだ。

上目遣いにもじもじ言うと ジュニが 軽くキスをした。
「ちょ・・人が見るよ」
「僕たち 夫婦なのだから平気です」


「わかっていましたから 嘘じゃないです」
茜さんは 僕に嘘がつけるほど 器用な人ではありません。
もちろん ママさんにもバレていました。

「心配しているから 帰りましょう。 僕 カルパッチョを作らなきゃ」

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Silent night, holy night

All is calm, all is bright
Round your Virgin Mother and Child
Holy infant so tender and mild
Sleep in heavenly peace
Sleep in heavenly peace・・



茜さん・・ 茜さん? どうして僕を見ないのですか?

ロウソクの灯で ジュニの身体に ゆらゆら影が揺れている。
シーツの上へ 片肘をついて ジュニがアタシの髪をすく。
「僕の身体 怖がらなくなったはずなのにな・・」

・・・・ジュニじゃなくて その 後ろぉ・・

「え?」

振り向くと 床に置かれたバッグから 不気味な「地魔」が覗いている。
揺れるロウソクの灯で見ると 何だか今にも動き出しそうだった。
「・・ああ」

ジュニは 何でもなさそうに パジャマをつかむと放り投げた。
パジャマは見事に「地魔」にかぶさり 間抜けな形のカバーになった。


・・・投げちゃったら 着られないじゃん。

「パジャマは要りません」
今夜はどうせ茜さんに 着せるつもりはありません。
「げ・・」
「明日はバイトお休みでしょう?」

イブのミサに行かなかったから 明日 教会へ行きましょう。
その時 ちゃんと睦まじくしていると 神様に報告するために。
「僕たち 愛し合いましょう♪」



うっとり微笑むジュニの頬が アタシの胸をすべってゆく。

指が アタシの潤みを探って ちゃんと 返事の音がしているのに
ずるいよ。知らんぷりして続けるから 鳴き声が いっぱいこぼれてしまう。

・・・や・・ぁ・・・ジュニ・・・


ふふ・・だめです。 茜さんは 僕に嘘をついたから 
欲しいと言ってもあげないし 助けてと言ってもやめません。
さあ もっと脚を開いてください。

時々 灯りがふるると震えて ジュニの瞳を光らせる。
大きく開いた腿の間へ 秘めやかな笑みが沈んでいく。

アタシは 悲鳴を上げながら 餓えた魔ものに歯を立てられた。


・・・ジュニィ・・

ちょっぴり怖くなったので 子猫の声で 腕を伸ばした。
「・・? どうしました?」

・・・キスゥ・・
しょうがないなあ 甘えちゃ駄目です。
「今日は 僕 デモーニッシュな感じに迫っているのに・・」

でも んくんく・・

ねだられたジュニは嬉しげに 頬を包んでキスをくれた

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“すばらしい・・・” 


あの凶暴と 猛る焔。 狂気を抑えた氷の瞳。

いいものを見た。 何という美だろう まさに 至福のひと時だった・・





酒崎教授がうっとりと 自宅のベッドへ沈んだ頃

アタシは魔獣の腕の中で 愛撫に 鳴き声を上げていた。

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