ボニボニ

 

デビルマニアふたたび 2

 




【証言①】

ジュニと茜 ですかぁ? 
高等部からの仲ですよ。いきなり「茜さんの婚約者です。よろしく」って。
・・・ねーぇ? 驚いたわよね!
パパ同志が親友で たしか 7つと5つで婚約したってハナシ。


【証言②】

え? ジュニの大学? T大ですよ。 
でもその前は ハーバードにいたんだって。 頭いいの!
茜が心配で 日本へ来ちゃったって聞いたなあ。ハーバードの方がカッコイイのに・・


【証言③】

ジュニの独占欲? あ~ かなりイッチャッてるでしょ。
何でも 子どもの頃の事件が トラウマになってるらしいです。
茜に手を出したオッサンを ボコにして告訴されかけたのは けっこー有名。




「ふぅむ・・・」

思った以上だ。

事件、トラウマ、幼少からの執着。 卓越した頭脳と 「狂気」の愛。
アーキエンジェル(大天使)の清らかさと 凶暴さを併せ持つ 美しき魔獣。


「そしてあの 恍惚の笑みだ・・・」

まさに 奇跡のようなバランスで 彼は この世に実在する。
何とか彼の言動を  その 猛々しい“魔”の魅力を 
もっと つぶさに見たいものだ。

「鍵は やはりあの娘か」

美しい“魔”に較べると 陰影に欠ける気がするが 贅沢は言えん。
どうかして 彼女を呼び出す手はないだろうか。 しかし・・・



“おお シスター、 何か御用ですかな?”
“はい。 あの・・事務局からの通達なのですが”

学生を単独で呼び出すことに関して “ご家族の方”より申し入れがございまして。

“そのぅ うちは良家のお嬢様が多ぅございますので。男性の先生が学生に
 呼び出しをかける場合は 今後 事務局の応接室でお願いいたします“
“ぐ・・・”


さては 彼の者の計らいか。 ・・・さ、さりげなく予防線を張られたものだ。 

天使の如く大胆で、悪魔の如く緻密というわけだ。 
あぁそれもまた 素晴らしい。

それにしても どうするか。 大学は冬休みに入ってしまったし。

「高坂君の家のあたりで バッタリ 会ってしまうと言うのは どうだ?」



ぜ~んぜん 知らなかったけど デモーニッシュ酒崎教授が 
こうして策を練っている時に アタシが 電話をかけたわけで。

・・・これって いわゆる。 飛んで火にいる 高坂 茜?

------



「君から話だなんて なんと都合・・・いやいや! 私は 大歓迎だよ!」

あ~っはっはっはっ!

「・・・・・」



冬休みなのにすみませんと言うと 酒崎教授は 上機嫌で言ったもんだ。
お暇のある時にと遠慮したのに 翌日にでもいらっしゃいって。


「かけたまえ。 あ~今日 君のご主人は ・・一緒じゃないのかな?」
「あ はい。 この前は失礼しました」

残念だっ! かの大天使 狂気の魔獣。
微笑む時には花びらとなり 怒れば 吹き上がる焔になる。
「・・おお 奇跡の“魔なるもの”よ!」


「はい?」
「・・あ? いやこちらの話だ。 コホン、・・・で 何だったかな? 用と言うのは」

あのぉ 以前 講義のスライドで拝見した「地魔」のことなんですが・・

「うむ?」

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「地魔」の像を 貸してください。


アタシの唐突なお願いに 教授は ち~っとも驚かなかった。
ふぅむと 顎を撫でながら しばらく黙りこくっている。

アレを貸してもらえたら きっと タカミさん大喜びだよ。
アタシは大好きなタカミさんの 力に どうしてもなりたかった。
「あのぅ・・・・だめでしょうか?」



「・・・・“魔”の交換 か」

100分位(ちょっとウソ)考えた後で 教授は ポツリとつぶやいた。
「・・は?」

条件がある。

「君の持つ 美しき“魔”を 私に見せてもらえないだろうかっ!」

ゲッ・・!  “魔”って 何よぉ?! アタシが持つって・・?
「だ、だだだ・・だめですっ! アタシはほら ヒトヅマだし! 胸も無いから」


「あーあー違う! 君じゃない!」

「へ?」
ジュニ君だよ 君の ご・主・人! 彼の魔性が見たいのだ。
「ま・・・マショー・・ですか?」

何だっけ マショーって?

入れ子になったロシアの人形? アニョ それはマトリョーシカだ。
筋肉のことをマッスルって言うから 
・・それか? マッショール って 苦しすぎだけど。


頭に45センチ角くらいの「?」マークを 乗っけたアタシに 
教授は 大きなため息をついて 講義みたいに話し始めた。

「良いかね?高坂君。 ジュニ君には デモーニッシュな力があるのだ」


花の如き容姿と 穏やかで賢明な性格。
しかし時として 君を発火点に 焔の如く燃え上がる。

「あれこそ・・・稀代の“魔性の美”。 人の形をした奇跡であるっ!」
「・・・はぁ・・」
「今一度。一度でいいのだっ! あの猛り狂う焔を この眼で見てみたい!」

「・・・・」




どうやら彼の狂気は 主に 君を原因として 起こるらしいね?

「だから ちょっと一芝居 付き合ってはもらえまいか」

例えばだっ!  誰かと内緒でデートしている所に 彼が出会わすとか・・
ナニ ちょっと焼きもちを 焼かせる程度のことで良いのだ。

「女の子はたまにやるじゃないか。 ちょっと彼氏を妬かせてみたり・・」
相手は うちの学生でも用意しよう。 ど、どうだね?
「・・・」

「そ、そうすれば あの地魔像を貸そう! Tシャツでも何でも 好きに作りなさい」





今度は アタシが120分位(ウソ) 返事を考える番だった。
「・・・・・」
タカミさんが あーんなに欲しがっている「地魔」。  だけど・・・


「すみません先生。 それは 出来ません」

「・・な・・んと・・?」

先生は きっと わかっていない。
ジュニは 本当にギリギリの所で アタシを想っているってことを。



ご存知なのかもしれませんが ジュニが 私にこだわるのは
小さい時の 不幸のせいです。

「何でアタシが ジュニの心に入れたのか。 自分でもよくわからないけど・・」
ジュニにとって大事な何かを あの時 アタシはあげることが出来た。

「“それ”は今でも彼にとって 絶対 失くせないものなんです」
「・・・・」



毎日 ジュニは怖れている。 “それ”を 失くしやしないかって。

結婚しても 一緒に住んでも ジュニの恐怖は消えはしない。
幸せだったある夜に 総てを 失くしたことがあるから

「愛してるって1000回言っても 1001回目が 無いのではないかと
叫びだしたい程の恐怖を ジュニは 心に抱えてるんです」

何時になっても神様は  アタシのジュニに 安らぎをくれない。


そんなジュニに“ちょっと妬かせる”なんてこと ・・アタシ 絶対出来ないです。

「・・・・・」

「ごめんなさい」

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・・悪かったね・・・ 
教授はとても静かな声で 何か飲まないかと アタシに言った。

教授の淹れてくれたコーヒーは 相変わらずの絶品だった。


美しい“魔”が 大好きなセンセ。
少し いや かなりの変人だけど 何か・・気持ちが解る気もする。

「先生・・?」
「うむ」
「アタシ・・先生のおっしゃる“魔”の魅力が ちょっと解る気がします」

それは そうだろう。 君の持つ“魔”は 一級品だからな。


「でもぉ 危険なトコロもあるけど・・ジュニは 悪人じゃないですよ」
「君 それは勘違いしておるよ。 “魔”は 必ずしも“悪”ではない」


むしろ本物の“魔”というものは 誰より正しく ピュアかもしれん。

不動明王は 凶暴な姿をしておるが あれは 衆生を救うためだろう?
護ろうと思う者がいて 立ち向かう相手が強いほど 
「・・・“魔”は 凶暴にも 美しいのだ」



ふうん・・

それって 何だかアタシが言う ラピュタロボットに似ているな。

アタシはやっと今頃になって デモーニッシュが 講義の時に
言ってたことが 解った気がした。


「どうも すみませんでした。 それじゃ・・」

ああ 待ちなさい。 「地魔」の話が まだだろう?

「え? だってアタ・・いえ私。 先生の条件を お受けできませんけど・・」
「いや その件はもういいさ。 「地魔」は 君に貸そう」

「本当ですか!!」

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やった! やった! やった~~あぁぁ!

デモーニッシュ酒崎なんて言っちゃって ごめんなさい!
教授はすっげーイイ人だっ!  タカミさんが 喜ぶぞ~~!

・・えへへ ゲンキンなアタシ♪


酒崎先生は「地魔」の像を 快く 貸してくれると言った。
“どうして君がジュニ君の 鍵なのかが 解ったから”って。

先生は クリスマス休暇に入るそうで
イブの午前中に 芸大まで 像を取りに行く約束になった。



だけど結局 この約束のせいで 

出ちゃったんだよね。  ・・・ウチの“魔”な方。

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