ボニボニ

 

デビルマニア 1

 




ジュニが この頃忙しい。



大学院へ進んだアイツは またぞろ教授の研究発表を手伝っているみたいで
研究室にずっと詰めっぱなしで 
帰るのも 夜中過ぎや朝方だったりする。



だからアタシは これ幸いと 独身気分の夜を過ごしてるの♪


・・・なんてね。  ちょっと、嘘。

本当はアイツが隣にいないと 何だか うまく眠れない。
ジュニと暮らして1年ちょっと。
独りぽっちで過ごす夜が 落ち着かないようになっちゃった。


言わないよ。 

もちろん そんなコトを言ったら ジュニは心配で壊れてしまう。
それでなくてもあいつってば 例え1分でもアタシと寝ようと 
どんなに忙しい時だって 無理矢理 家へ帰ってくる。



“寝ている時にゴソゴソされると起きちゃうから 大学の仮眠室で休んでよ”

あいつの身体が心配で 憎まれ口をきいちゃうけど
ジュニはふんわり困った笑顔で すみませんって・・言うだけだ。

-----

 

“・・つまり「魔」というものには、力、パワーがあるわけです。
 人はデモーニッシュなものを恐れながらも、「魔」の持つ力に憧れる”

・・ふぁ・・・  眠・・・・・・



“屋根に鬼瓦を乗せたり 欧米の聖堂の破風に竜や怪物が飾られるのも そう。
「魔」の持つ力を借りて 厄祓いをしようとする・・”

・・・・・・・・・・・zz・・・・

・・・・・はっ! 
 

やっば! 今 完ペキに寝てた。

あ~あ~あ~あ~ このノート。
何を書いているんだアタシは? ・・・象形文字だよ。
しかし このセンセも どんだけ魔物が好きなんだか。


西洋美術の酒崎教授は ゲーダイかどっかの偉いセンセで 週に1回「出前」に来る。

大学教授と言うよりは まるで ドラキュラ俳優みたいな風貌。
いつもツーンと冷たい感じで ものすっご~く 気取ってる。

アタシたちはこの教授のことを “デモーニッシュ酒崎”って呼んでんの。
だってさ。 耽美だかなんだか知らないけど 
講義のテーマが 『美術に於ける「魔」の引力』だよ?




「くぉ~ら! この“船こぎ女”」

キャンパスをぼーっと歩いていたら 真由がうりうりと肘を突いた。
「・・バレた?」
「頭がぐわんぐわん揺れてたよ。 あれはデモーニッシュ酒崎も気づいたね」

オクサマ 夜が激しいんじゃありません?って。 真由っぺ・・・

花も恥らう乙女が 何て言い草だよ。


「この頃ジュニが研究で夜遅いんだ。 お陰で ついネット徘徊しちゃってさ」
1人の夜を満喫しているなぁって 真由が呆れ顔で言う。
「満喫」なんかしていない。 だけど アタシはエヘヘ・・って笑った。



「あ、デモーニッシュだ」

「え?」
見れば 少し離れた所に 酒崎教授が立っていた。
門の方を見たまま 放心したような顔をしてる。 いったい何を見・・ 「あ?」

「茜さん!」

タンッとガードレールを蹴って ジュニは真っすぐ駆けてきた。
正門脇の守衛室へ ウィンクみたいな挨拶をする。
アタシの所までやってくると 止める間もなく腕を伸ばして アタシを宙へ抱き上げた。

「ちょっ・・ジュニ!」

「茜さん! 発表が終わりましたよ」
淋しかったでしょう? 仕事が片付いたら いてもたってもいられなくて
迎えに来てしまいました。 早く家へ帰りましょう。 

“茜さんを 愛したいです”

抱き上げたアタシを下ろしながら ジュニはこっそり耳へ囁く。
げ・・ 真由っぺに聞こえるよ。 アタシはドギマギとまわりを見た。



「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「?」「・・?」
ナンだろ? デモーニッシュ酒崎教授が じいっと こちらを見つめている。

やばいなあ。 大学内で怪しからん!とか オコゴトを頂戴するのかもしれない。
ジュニは アタシの視線をたどって けげんそうな会釈を教授へ送る。

教授は奴に挨拶されると ギクリと 慌てて眼をそらした。

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・・やはり 白昼夢ではなかったのだ。

無垢と恍惚がないまぜになった 奇跡のようなその微笑。

あの日 礼拝堂のドアを開けて 静かに出てきた青年は
さながら アーキエンジェル(大天使)の降臨だった。
女子大に若い男が1人でいるなどと 昼の幻かと思っていたが。


「き、君! ・・・ええと 高坂君だったか」

「はい? 教授」
あー そちらの青年は 誰かな?
「僕ですか?」
奴が いっちばーん聞かれたい質問。 初めましてイ・ジュニと申します♪

「茜さんの・・」
きゃああああ! ジュ、ジュニ!
「それ」は この教授には 言わなくてもいいから。


「君を・・先月 礼拝堂で見かけたような気がするのだが?」
「はい。毎月こちらの教会で告悔をさせていただいています」
「告悔・・・懺悔か!」



天使の懺悔。

一点の穢れもなく 澄んだ瞳をしたこの青年が 罪を犯すとでも言うのか?
祭壇脇のあの小部屋で ベルベットの如き その声で
犯した罪を密やかに 苦悩と共に告白するのか・・・おぉ。


「・・・・あ・の~ぉ 先生?」

・・はっ!
「いや なんでもない。引き止めてしまったね。 行きたまえ」
あー、高坂君。 講義中に居眠りはいかんよ。

ひぇぇぇ 「ど、どうも すみませ~ん!」

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あ・か・ね・さん♪


んくんくんくんくんくんく・・



ジュニって奴は ひょっとして 前世が千手観音だったのかもしれない。
片手で頬をつかまえて とんでもないキスをしているくせに
アタシの服はいつのまにか ベッドの下に落とされている。

・・ぷ・・わ・・・

「ふふ 可愛い涙目です。 この先もいいですね?」
・・お夕飯まで 時間がないよ・・
「大丈夫です」


ご挨拶程度で 我慢します。
アタシへ馬乗りになったまま ジュニは えいっとTシャツを脱ぐ。
逆三角形の怖いような胸が ブルートみたいに盛りあがって見えた。

ふぇ・・・・
ジュニィ どんだけムキムキだよ。
優しげな顔に見とれているから 凶暴な身体に驚いてしまう。
わかっているけど このギャップには なかなか慣れないアタシなのだ。

アタシの顔色が変わったので 奴は 慌てて抱きに来る。
両腿の間をくぐるようにして アタシのお腹をすべり上がる。
視界いっぱいにジュニの顔。 キスで 誤魔化そうとしているでしょ?

「怖くないです 優しくします。 ね?」



・・・・・ぁ・・・・

背中を大きくしならせて ジュニが アタシに入ってくる。
アタシいっぱいに挿し入れて 満足そうに息を吐く。
「は・・ あぁ 愛しています。 茜さんも?」

返事は?返事は?返事は?って そんなにがくがく揺らさないで。

アタシが甘い声をもらすと うふふってジュニが嬉しげに笑った。




「・・・茜さんの先生。 僕に 何か用があったのでしょうか?」

やっとアタシに好きと言わせて ジュニは 幸せいっぱいの顔。
お腹の上へアタシを乗せて 大事そうに撫でている。
「なんか バリバリに凝視してたよね?」

「知っている人に 似ていたのかもしれませんね」
「ジュニみたいな人は いないと思うよ」

ラッコの子のようなアタシの前に 隆と盛りあがった胸筋がある。
思わず 撫で・・と手を這わせたら ジュニの白い歯がきらめいた。

「もっと欲しいですか? お夕飯を食べないと ママさんに叱られます」
「・・ち、ちょっと触っただけだもん」
「茜さんは甘えん坊です。 可愛いなあ・・ふふふ」


だから違うって言っているのに ジュニのヤローは聞いちゃいないよ。

身体を返してアタシを敷くと ぎゅううって抱きしめた。

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「あー、そこの。 ・・高坂君」

「は?」
ちょっと 手伝ってくれまいか。
デモーニッシュ酒崎は 講義用のプロジェクターを指して言う。
じゃあアタシもと真由が言うのに 「1人でいい」って断わった。


ナンか・・怖いな。このセンセ。

教授の部屋までついて行ったら 血を吸われるんじゃないだろうか。
ビビッたアタシは これみよがしに 大きな声で真由に言った。
「あ、あのさ! ジュニが来たら センセの手伝いしてるって言って!」

ピク・・・

デモーニッシュの眉が上がる。
「・・・・イ・ジュニ君が 来るのかね?」

「た、たぶん来ると思います! 帰りに寄るって言っていたから」
だからアタシの血を吸うなんて事は・・考えないで下さい センセ。
アタシは牽制のバリア光線が 教授に見えますようにとマジで祈った。



酒崎教授の部屋ときたら まんま 悪魔の館だった。

変てこな魔物の置物に 目玉お化けに似たルドンの絵。
大体 カラスの剥製なんか 何の研究に使うのよぉ・・・。


“い、一瞬でも早く用事を終えて 早くここを出なくっちゃ”
アタシは ちびっとベソをかきながら 必死でプロジェクターのコードを束ねる。

だけど うぇーん・・

教授ってば。 2つのカップにコーヒーを注いだ。

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