ボニボニ

 

Birthday story 2010 後編

 




・・・茜さん? あの 茜さん? そろそろ 動いていいですか?


「ダメ」

「えっ?!」

「Get out」
「えええっ?! “出て行け”って 何故ですか?」
「どーしてもっ!」


アタシは カンカンに怒っている。 ジュニは トホーにくれている。

ジュニの誕生日なんだから ケンカなんかはしたくないけど。
だけどニンゲンには 事をうやむやにしてスルーしてはいけない瞬間がある。 

アタシにとって・・それは 今だ。


わかってる。 たぶんジュニはアタシより 軽く1,000倍アタマがいい。
そしてきっと自分のことより “茜さんのため”を一番に考えてくれる。

でも ジュニ?   問題はソコじゃないよ。 

アタシ達は 祭壇で誓ったんだもの 「一緒に人生を歩きます」って。


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ジュニとアタシは来年から アメリカで暮らすことになっている。

ジュニは「世界に貢献(!)する人」になるため
サイエンティストから転身して ビジネスの勉強を始めるという。

アタシはジュニにくっついて 向こうで暮らすこの機会を利用して
ファッション業界のすみっちょで働くための勉強をしよう と計画してた。

なのに・・・



「茜・・さん」

ジュニは 呆然と身体を引いて そのまま行儀良く正座になった。

身長180㎝の ローマ彫刻みたいな裸身が ちんまり座る姿は可笑しいけど
こっちはすごく怒っているから 笑ってあげるヒマはないのだ。

アタシはコットンの上掛けをかき寄せると 正面からジュニをにらみつけた。


「“あなたの妻”は激怒中」

「ぇ・・」

「どうして向こうで住む場所を ジュニが1人で決めちゃうの?」
「?」
「どうして ジュニが就職することを アタシは今日まで聞いていないの?!」
「・・・」


途方にくれた 息づかい。 

ジュニは多分いろんなことを アタシのためを考えて決めたはずだから。 ・・でも


「結婚したらそーゆーのは全部 “2人の問題”でしょ ジュニ?」
「!」

ジュニが重たいバッグを持って アタシの手を引いて歩くんじゃなくて
それぞれが 片方ずつ持ち手を持って 1個のバッグを運ぶんだよ。

「たとえジュニが1人でバッグを持って アタシの手を引く方が速くても さ」




「・・・」

ジュニはあ然とした顔で 2,3度まばたきした後で
きれいな頬を赤らめて “2人の問題”と つぶやいた。


「茜・・さん」

ジュニがふんわり微笑んだ。 僕は 心得違いをしていました。
今の僕には 茜さんと言うパートナーがいてくれるんですね。

「足手まといのパートナーだけどさ」

「いいえそんな! 子どもの頃から 何でも自分ひとりで決めてきたから僕」

「ジュニは何でも上手く出来るし ジュニパパは・・マイペースだもんね」 
「僕達はもう 2人なのに」
「フン♪ 少しは反省したかね」



反省しましたーっ!!

「うっわ!」

バカみたいに喜色満面のジュニが フライングアタックで飛んできた。

アタシはがっつり抱え込まれて シーツの海へ沈められる。
茜さん!僕は嬉しいですっ!! って。 ちょっと!アタシまだ許してないゾ。

抵抗したけどジュニのヤローは もう幸せいっぱいで聞いちゃいないし。


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本当にもぅ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ!!


って。  感激してずんずん責めるから アタシは・・ちょっと気が遠くなる。

うふ♪僕たちは2人でひとつですって この体力魔人の筋肉男は
自分との体力差も考えずに “2人で”ハゲシク愛を確かめ合ってくれて。

アタシはジュニの腕の中で 洗濯機「強」で洗われた布みたいになった。


はーっ・・ はあぁ・・ はぁ・・・


「大丈夫ですか?」

「・・・ちょぃボロ」
「すみません。 僕 嬉しくて夢中になってしまいました」

こういうことも“2人の問題”ですから 茜さんの意見をちゃんと汲まなくては。

「もう少し愛撫してもいいですか?」
「・・そういうことは聞かなくていいから・・」
「加減が難しいものですね」


「茜さんがN.Y.の学校に行くから 大学で学ぶのを先送りした訳じゃないですよ」

ジュニは背中からアタシを抱いて のんびり胸をさすりながら言った。

満ち足りて 幸せそうなジュニの吐息。 
大きな手がうっとりと アタシを撫でる。


「もちろん N.Y.の企業を選んだのは 茜さんのことも考えてですが」
「・・・」
「ビジネスの現場を知ってから大学で学ぶ方が 本当に効率がいいからです」

茜さんがバチェラーコースを終えるまでの期間 僕は企業で仕事を憶えて。

「僕が大学院へ戻る時には・・・茜さんもついてきて欲しいです」

「・・・」

「・・ボストンにはN.Y.みたいなファッションビジネスがないですけど」
「・・・」
「コースを修了すれば僕もN.Y.へ戻るつもりですし。 それに」

その頃になったら 僕達もその。

「・・・ベビーとか 考えてもいいですよね?」
「!」
「あ!もちろん! 茜さんが良ければです」



ジュニは用心深く腕をまわして アタシを 深く抱き寄せる。

茜さんが怒って逃げようとしても 僕を 簡単に振り払えないように。

まったく だから嫌なんだよ。 ジュニの考えに結局 アタシも納得するんダモン。

「で? ジュニが今度働く先は いったいどんな所なの?」
「投資ファンドです」

組織規模はそんなに大きくないですが 専門度の高い投資に定評があるんです。

「何でジュニは そんな所を知ってるの?」
「アボジの知り合いです。 時々 アボジにアドバイスを求めてきたりする方で
 僕が仕事を覚えたいと言ったら喜んでくれて」

(縁故かよ・・)

「今日 大爺様が言っていた 「うちのN.Y.支社」ってのは?」

「三友商事のN.Y.支社です」
「げ・・・」
「大爺様はあの会社のトップを勤めた方で 今でも名誉顧問だそうです」
「・・・」



なんか あんまりレベルの違う世界で 話をするのもイヤになってくる。

才能の資本主義ってのも ある みたいな気がするよ。
持てる者はいよいよ多くを持って アタシは 井戸の底でお空が遠い。


「・・・・」

「茜さん?」
「・・・・」
「これから僕はどんなことでも 茜さんとちゃんと話し合っていきます」
「・・・・」


だから 僕とこの先の人生。 一緒に歩いて下さいね。

ぎゅううううっ・・って ジュニの腕が 指切りみたいにアタシを揺らす。
アタシは 奴の決意を聞きながら ぼんやりとただ揺さぶられてた。



アタシの未来は どーしたってジュニの都合に合わせることになる。

そしてあっちは「世界に貢献」級で  こっちは地べたのパンピー級。

もちろんアタシも 頑張って夢に向かって歩くつもりだけど
アタシは ジュニとの階級格差に ・・めげずに生きていけるのかな。


ジュニはアタシが大人しいので どんな顔しているのかと心配になったみたい。

腕の中でアタシを回して 探るように顔を覗きこむ。

アタシは ドアップのきれいな顔を じーっと40秒凝視してから
何かを聞きたいように少し開いた ジュニの唇へキスをした。

「あの・・僕 もう少し愛し合いたいです。茜さんはいかがですか?」



だからソレは相談しないで いつもみたいに“いいですね?”と言って欲しい。

アタシは 自分勝手にそんなことを考えながら ジュニに抱きついた。


fin

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