AnnaMaria

 

裸でごめんなさい 4話

 

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「孝太郎くん、私もそろそろ今日は帰るわ。」

「お疲れさまでした。
 栗原先輩、ほん~の一杯だけビール飲んで帰りませんか?」

「え?どうしようかなあ。」

「昨日から長かったですよね。明日もありますから、ちょっと気分換えるだけです。
 一杯だけならいいでしょう?」

くたくたなんだけど、でも喉が乾いてるような気もするし、
部長ヌキでちょっとだけ引っ掛けるならいいかも。

「いいわ、じゃ、ホントに一杯だけね。」




二人で入ったのは、地下鉄を一駅乗った乗換駅のダイナー。
会社の近くでもいいけど、誰かに見つかったり合流したりすると帰れなくなる。
私がそう言って、二人共通の乗換駅にあるダイナーのカウンターに、
生ビールのジョッキを前にして並んで座ったのだった。


「お疲れさま~!」と言って乾杯すると、冷たいビールがじゅわ~っと喉に沁みる。

旨いわ~!

「栗原さん、ここんとこ連日遅かったですよね?すごいですね。
 こう言うのも何ですが、女性でここまで頑張るのって大変じゃないですか。感心してます。」

「うっそ~、呆れてるんでしょ?」

「いえ、ホントに感心してます。ただ、こう会社にいる時間が長いと、彼氏ができる暇もないでしょう?」

わかりきってる事、聞かないでよ、もう!

「そうね。そのせいかどうかわからないけど・・・」

と、曖昧に笑ってごまかす。

「あの・・・本当に不躾な質問なんですけど・・・」

急に声が低くなったので、自然と彼の方に耳を傾ける形になる。

「・・・怒らないで下さいね。あの、まどかさんのブラのサイズは幾つなんですか?」


ぶぶっ、思わずビールを噴きそうになった。
何てこと聞くのよ、全く!そのままの気持ちで彼を睨みつけると、


「いえ、すみません、ホントに。
 ただ、まどかさんは細身だから全然ないんじゃないか、って言う人がいて、
 僕はそんなことないって言ったんですけど。

 いや、実はうちの弟が下着メーカーに勤めてて、二人で歩いてる時に、
 『お、あれは75のB、あっちは80のD、あれはヌーブラだな』とかって色々言うんですよ。
 仕事柄、気になるらしくて・・・。
 そのうちに何となく僕もそういう目で見る事もあって、
 その線で言うと、まどかさんはかなりある方じゃないか、と・・・」

と、こちらをちら、と覗き込むので、
思わず、まどかは胸を手でかばってしまった。


「すみません、ホントに失礼なこと言いましたね。勘弁して下さい。」


昨夜、あのままの姿で孝太郎君の目の前に現れていたら、何と言ったかなあ。
やっぱり、って感心してくれたかしら?それとも・・・
ああ、バカバカ!何考えてるのよ!


「・・・ひみつよ。」

まどかはつんと前を向いて、ビールを飲み直した。


「ひょっとして・・・75のDじゃないですか?」耳元で小さい声で呟かれる。


「!」 何でわかるのよ!

思わず、びっくりして彼の顔を見てしまった。
あ、こんな顔したら、認めてるのがバレバレじゃない!もう・・・・

慌てて前を向いたら、孝太郎君が笑い出した。


「ははは・・・、まどかさんって可愛いですね。
 嘘がつけない人なんだな。」

「からかわないでよ。」

「からかってませんよ。本当にそう思ってるんです。
 いつも一生懸命で可愛い人だなって。」


可愛い?わたしが?
わたしの方こそ、あなたが可愛い、とは思ってるんだけど。


「孝太郎君も可愛いわよ。」

「え?やだな。男が可愛いって言われたら、終わりですよ。
 もっと違う風に見て欲しいな。」

「例えば、どう言う風に?」

「そうですね、頼りがいがあるな、とか、男っぽいな、とか・・・」


今度は彼の方が俯いてしまう。うん、可愛いよ、確かに。
そう思ったら、まどかは声を立てて笑ってしまった。

ちょっと傷ついた感じで

「笑うなんてひどいな。僕は本気で言ってるのに。」

「ごめんね、でも孝太郎君のこと、信頼してるの。」

昨夜もあなた一人だったら、助けてもらおうと思った位だったもん。

「本当ですか?うれしいなあ。じゃあ、今日のところはソレで我慢します。」


なんだか真面目な横顔を見せて、ビールを飲み干しているので、それ以上追求するのは止めた。
疲れているせいか、アルコールの回りが早いようで、
これ以上飲むとカウンターの席に座っていられなくなりそうだから、やはり一杯でやめる事にした。


「え?本当に一杯だけなんですか?」孝太郎君は少し不満そうだったが、

「いいです。次に期待します。まどかさん、今度はもうちょっとシャレた所で飲みましょう!」

「そうね、それもいいかもね」またも適当に流して聞いておいた。



翌朝、家を出る前に、何を着ていこうか、かなり悩んだ。

あの神待里って人、もしかしてデートに誘ってくれたのかもしれないし、
単に会社の中の話を詳しく聞きたいだけかもしれない。
あんまり期待して頑張ったように思われるのも悔しいし、
連れて行ってくれた処に全くそぐわないのも、恥ずかしい。

大分悩んだ末に、袖の部分に透け素材を使った、やや切れ込みの深い黒のトップに、
光沢のあるスカートを合わせて、ベージュのヒールの靴にした。
絶対に、会社でジャケットを脱がないようにしなくちゃ。
できれば、あとでストッキングを履きかえたいな。

ああ、それも大げさな心配かしら?
何だってこんなに気を使ってるの、バカみたい。

自分にそう言い聞かせて家を出た。





プロジェクトが具体的に動き出したせいで、その日も目が回るように忙しかった。
確認事項も、作成資料も山積みで、あっと言う間に午前中が飛んで行く。
小会議室をひとつ専用にして、小さな打ち合わせを一つ一つこなして行った。

神待里はまどか達の課の近くに専用の机が一つ用意され、時々そこに戻っては来たが、
多くは社内外の人間と打ち合わせに出ていて、朝から一言も言葉を交わしていない。

午後一番で、昨日のプレゼンに関わったメンバーそろっての打ち合わせを行う。


「あれ?栗原さん、そう言えば何だか今日、雰囲気違いますね。」


会議室に入ってきた孝太郎君が開口一番にそう言う。
ハゲ課長が向こうの席から、こっちを見たのがわかった。


「別にいつもと変わらないわよ。」

「そうかな?何だか、お洒落ですよ。上から見下ろすと、ちょっとヤバいかも・・・」


まどかは慌てて、ジャケットの下のトップを引っ張り上げた。
神待里がほんの一瞬こっちを見たようだが何も言わなかった。

この状況って、連絡してこれる感じじゃないかも・・・。

打ち合わせの最中、資料をめくりながらもそんな事を考えていた。




5時になっても、まどかの携帯には何の連絡もなかった。

う~ん、今日は難しいかな。
さすがにそう思い始めた頃、携帯の着信があった。


“連絡が遅くなってすみません。
 日本橋の『○ンダリン・オリエンタルホテル』ロビーに7時に待っています。神待里。“


これって去年新しくできたホテルかしら?
彼の席の方を見ると、そこには居ない。
携帯をポケットに入れて、ビルの道路側に面した非常階段の方へ歩いて行く。


“了解しました。栗原”


返信を押すと、何だかちょっとため息が出る。
さあ、ハゲ課長に何か押し付けられないうちに、今日はどうにか帰らなくっちゃ。
ストッキングを履き替える時間くらいはありそうだわ。

浮ついた表情を隣の孝太郎君に見られないように、静かに席に戻った。

ああ、何だかドキドキする・・・。

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