AnnaMaria

 

This Very Night 第23章 -チェロの音色-

 

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美しい朝、日差しがカーテン越しにこぼれて部屋にあふれている。

ジニョンは目を覚まし、カーテンを引くと、ため息をひとつついた。


     ・・・ああ、お日さまがとってもきれい・・・


彼女はシャワーを浴びると、化粧テーブルの前に座ってメイクをした。
彼女はいつも軽めのメイクが好きだった。

鏡の中の自分をしばらく見つめ、そっと手を伸ばし、鏡に映る自分の唇に触れる。

昨夜のキスを思い出した。
彼がくれた、到底忘れられないような抱擁と気が遠くなるようなキス。
あんな経験をしたことは一度もなかった。


しっかりと抱きしめられた時、
彼の力強い体と、そのまま彼に引き寄せられていく自分を感じ、
自分がどこの誰なのかも忘れてしまいそうになった。

今でも、彼の唇が引き起こした気持の高まりを感じることができる。
彼の香りがまだ頬の辺りに漂っているような気がして、
ジニョンは自然と顔が赤くなった。


     ・・・あの人はたぶん、本当にわたしに気があるのね・・・


彼の表情も行動も、すべてがそう彼女に告げているように思えた。


     ・・・彼はとっても特別な人だわ。

     頭が切れて、教養があって、品もある。
     その上、とても高い学歴の持ち主。
     まあ、それに彼はすごくカリスマ性があるわ!
     とても魅力的な人・・・
     あの人が怯むものなんて、たぶんこの世に無いわね・・・


振り返って自分はとジニョンが考えてみると、やや弱気で、物事に正面から向き合う勇気が欠けていた為に、
いろんなことから逃げ腰だった。

時々、自分の人生にうんざりすることがある。
他人の期待通りの人生を生きることに嫌気がさしていたのだ。

大人になったからと言って、物事がもっと自由で今までより良くなったというわけもなかった。
まるで、いつまでも終わらない話のように、彼女がそこから逃れる道もない。
他人の夢見た人生をただ生きていた。

時々、これが自分の本当に望んでいることなのか、
自分の考える真実の愛や夢は何なのか、と疑問に思うことがある。



ジニョンは友達がうらやましかった。

たいていの友達は朗らかで、行動的で、独立していて、
自分の望む場所で男性に対して、自分自身でちゃんと対処できていた。
彼女たちは他の人たちが何を言おうと恐れていないように見えたし、
自分の望みをかなえることに、まっすぐに向かっていた。


     ・・・彼に似合うのは、きっとそんな女性でしょうね。

     でも、彼はわたしを口説くのにものすごく積極的だわ。
     力強くて、強引で、どんどんわたしに近づいてくる・・・

     彼の紡ぎ出す魔法に、どんどん引き寄せられるわたしを感じる。
     どうしようもなく、無防備に彼の腕の中に倒れこんで行くよう。
     それはうっとりするほど甘い気分・・・


     けれど少し戸惑いも、不安もあるの。
     なぜ彼がわたしに惹かれるのか、
     あるいはわたしのどこが彼を惹きつけているのかがわからない。

     でも、彼が本当のわたしを知らないことはわかっている。
     本当のわたしを知ったら、たぶん失望して去って行ってしまうでしょうね・・・


     いいえ!本当のわたしを知って幻滅させるなんて事はさせないわ。
     だって、わたしがニューヨークを離れたら、全ては過去のことになるのよ。
     あの・・・めくるめくようなキスもただの思い出に、美しい思い出にかわる。

     何年かして、ある日道を歩いていて、ふと
     この短い火花の余韻がわたしたちを温めることがあるかもしれないけど。

     そう、わたしが韓国に帰ったら、わたしの生活も全て元に戻っていくのよ・・・





ジリン!電話が鳴った。


「よく眠れた?」


     ・・・彼だわ・・・


「あん、とっても。ありがとう」

「僕に感謝?何にありがとうを言ってくれたの?」

「ええと、あの・・・」


     ・・・何て言ったらいいのかしら?
     言葉が見つからない・・・


彼は少しかすれた声でこう尋ねた。

「少しは僕を恋しく思ってくれたかな?
 僕は君のことばかり考えていた。ずうっとだ・・・」


     ・・・わたしの心臓の鼓動がまた、どくんと激しくなる
     どうして、この人はこうも率直に言うのかしら?・・・


彼の柔らかい声が電話の向こうで響いた。

「ランチを一緒にどう?君を迎えに行くよ」

「ああ、だめなの。
 わたし、教授とお会いする約束があって、一緒に中華料理をいただく予定になっているの。
 教授がわたしを迎えに来て下さるのよ」

「君は僕より教授の方が好きなの?」

「あ、いえ・・そう言う訳では・・・」

「はは、ごめん!冗談を言っただけだよ。では、午後にまた会おう」



ジニョンは彼の笑い声を聞いた。


     ・・・彼の笑い声を聞くと、胸がドキドキする。
     なぜだか、彼の声は楽器の奏でる音色のように聞こえるの。
     チェロの響き・・・・低く、絶えず心に響く音。
     それはいつまでも消え残って、わたしを優しく撫でてくれるような響き。

     オーケストラが全体で演奏している時、
     チェロの音色はそれほどはっきりと目立たない。

     でも一度演奏が終わると、
     チェロの響きはいつまでもわたしの頭と心に余韻を響かせる。
     ずうっと長く心に響くチェロの音を、
     わたしはステージを包むひだを織り上げる魔法のように思っていた。
     演奏が終わってからもずっと長く、わたしの頭の中に反響し続ける。

     そう、彼の声はあのチェロの音色のよう。

     もし、わたしが彼から離れてしまった時、
     あのチェロの音色をそう簡単に心から消し去ることができるかしら?・・・



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出典
Original in Chinese by Jenny Lin
Translated into English by happiebb
Translated into Japanese by AnnaMaria

2004/7/15 ~ 2004/7/29, 2005/10/25 dreamyj
2004/8/5 ~ 2004/9/8 BYJ Quilt (by happiebb)
2004/8/8 ~ 2004/9/8 2005/11/30 hotelier 2002(by happiebb)

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