AnnaMaria

 

This Very Night 第26章 -囚われの身-

 

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「ここはどこ?」

「僕の家」

「でも・・・!」

「『でも』はなし。医者がすぐ来るからね」

そう言うと、フランクはジニョンを抱き上げて家の中に運んで行った。




本当に、それからすぐに医者がやって来た。
フランクは医者と深刻そうに話をしている。
二人はかなり打ち解けた間柄のように見えた。


     ・・・フランクのかかりつけのお医者様なのかしら?・・・


二人は彼女の足が支えてある傍らに座って、足の状態について熱心に意見を交わしており、
議論に集中していた。
彼女自身に対しては二人とも特に関心を払わず、彼女の表情にも気持ちにも、
別段気を遣っている様子もなかった。


     ・・・わたしなんてここにいないみたいね・・・。


彼女は壁紙の複雑な模様にでも目を向けるより他なかった。
すこし戸惑っていて、どこを見ていたら良いのかわからない。



やがて医者がこちらを振り向いて、にっこりと微笑んだ。


「あなたにこんなダメージを与えたところを見ると、
 犯人は120キロ近くあったに違いありませんね。
 あなたの足の形が少し変形しています。靭帯が切れて、くるぶしもひねっています。
 相当期間休養を取る必要があるでしょうし、その間足に一切負担をかけてはいけません。
 治るまでは安静が必要です。

 初期治療は今済ませましたから、消毒薬をおいて行きましょう。
 明日病院に来て下さい。足にギプスをはめなければなりません」


そう言うと、医者は帰って行った。

彼女は途方にくれてしまった。


     ・・・ギプス!

     この3日のうちにどうやって韓国へ帰れると言うのかしら?
     わたしがまたしてもニューヨークで怪我をしたことを知ったら、
     お父さんはわたしを永久に閉じ込めてしまうかもしれないわ。

     もし帰りの飛行機の便を遅らせるとしても、ソンジェはもうニューヨークを発ってし
     まったし、わたしがくつろいで滞在できるような親しい友達が、それほど沢山ニュー
     ヨークにいるってわけでもないし・・・どうしよう・・?


彼女は自分の不運を嘆いて、ため息をついた。はあ・・・。



フランクがやって来て、彼女の隣にかがみ込んだ。


「ねえ、どうしてため息なんかついたの?」


彼女は自分の不安を打ち明けた。


「おばかさんだな。君は僕とここにいればいい」


     ・・・何ですって?・・・

     ここにいるなんて絶対に不可能よ。
     わたし、フランクとそれほど親しいわけでもないじゃない!

     あの・・・あのキスはそんなことまで意味しているわけないわ、
     それとも、してるのかしら?

     それに、あなたには思いつきもしないことかもしれないけど、男と女には違いがある
     のよ。
     今だって、すごくトイレに行きたいのに、どうやってあなたに言えばいいの?
     自分で思いつくまではそれほどでもなかったのに、
     今は・・・本当にすぐに行かなくちゃならなくなって来たわ。
     ああイヤ!どうしたらいいのかしら?・・・




ドンヒョクは彼女が落ち着かないのを感じ取った。
彼女はソファに座って、一方の足を支えた状態だ。
両手を固く握りしめて、体を小刻みによじったり、揺らしたりしている。
顔が真っ赤で、苦しそうな表情をしていた。
彼にはどこが悪いのかわからなかった、気分が悪いのだろうか?


「大丈夫?気分が悪いの?」


彼女は首を横に振った、が、すぐに小さく縦にうなずいた。

ドンヒョクには彼女の言いたいことがつかめなかった。


「話して、どんなこと?」


彼女はこれ以上我慢できなかった。
恥ずかしそうにドンヒョクの方へにじりよった、彼も彼女の方に耳を傾けた。
彼女はそっとささやいた


「わたしトイレに行きたいの!」


ドンヒョクは今にも吹き出しそうになったが、何とか引っ込めた。


     ・・・僕の可愛いおチビさん!・・・


すぐに彼女を抱き上げるとバスルームに連れて行き、トイレの便座の上に下ろした。
彼女は頭を垂れて、自分のドレスを見つめたまま、彼と目を合わせないようにしていた。


「まだ僕の助けが要る?」


彼女はついに顔を上げた。
彼女の瞳の中に火花が散り、彼をにらみつけると大声で言った。


「あなた・・・あなたったら、早く出て行って!」


いかにも彼女がきまり悪そうにしているのを見て、
彼はもう自分の笑いを引っ込めることができなかった。
バスルームを離れると、心の底から大笑いした。



ジニョンは彼の笑い声を聞きながら、考えた。


     ・・・わたしがこんなに恥ずかしがっているっていうのに、
     なんであんなに楽しそうに笑わなきゃならないの?
     ああ、全く本当に。
     この人といる時のわたしっていつも、優美さのかけらも、淑女らしいイメージも全く
     ない時ばかりね。なんて間が悪いの!・・・


その後、居間に戻ってからも、彼女の顔はゆでたエビより真っ赤だった。
親指を落ち着かなくしゃぶると、うつむいたまま彼に言った。


「すみませんが、わたしをホテルまで送って下さい。
 あなたの家にいるわけにいかないわ。
 わたしのスーツケースや荷物なんかは全部ホテルにあるし、
 それに、わたし・・・わたし、よく知らない男の人の家になんかいられない。
 わたし・・・」


ドンヒョクは何度目になるかわからないくらいの疑問を自分にぶつけた。


     ・・・なぜ神はこの女性をこんなにも愛らしく創られたのだろう?

     もし君が・・・・君が以前あんなにも僕と親密に過ごしていたのを知ったら、
     お互いを抱きしめて、何百もの熱いキスを交わしていたことも知ったなら、
     どんな風に思うのかな?・・・


彼は彼女の抗議を完全に無視して、

「僕はこれから何か君が食べるものを用意してくるよ」

そう言うと、背中を向けて出て行った。




自分をホテルに送り返す気などまるでないのは、はっきりしているようだった。
動きが著しく制限されているので、ジニョンに選択の自由はない、彼女は囚われの身なのだ。


     ・・・ああ!・・・


次第に、とても居心地が悪くなってきた。
メイクも涙でくずれてきたし、今もイブニングドレスを着たままだ。
汗でなんとなく体がべたべたして気持ち悪いし、何よりお風呂に入りたかった!
でも、医者が足を絶対に水に濡らさないように警告していたではないか。


     ・・・なんて日なのかしら!・・・


彼女は急に疲れて眠くなって来た・・・



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僕が戻って来てみると、君はすっかり眠り込んでいた。

僕もソファにもたれて、君の顔に自分の顔を近づけてみる。
眠っている間に、君をじっくりと眺める機会を逃したくない。


眠っている君は無垢な子供のようだね。
チョウの羽のように羽ばたくまつげは、今は静かにじっとしている。

睫毛の数を数えてみる。
指の裏がわで君の頬を優しくなでてみる。
それから、君の耳元に近づいて、そっとささやく・・・


「行かないで。僕を置いて行かないで。今度は君を行かせないよ」


ソファに半分横たわったまま眠り込んでいる君を見ていると、つい微笑みがうかんでしまう。

本当に子供みたいだ。
無防備で、無垢な子供だけがこんなにたやすく眠りにおちることができる・・・


「僕の大事なおちびさん!僕のねむり姫・・・・」


君の髪を留めていた髪留めを外した。

艶やかな髪が絹の薄物のようにふわりと肩に落ちる。
結いあげてあった髪もほどくと、はらりと肩の上に広がり、僕の手の上に柔らかな髪が触れる。
あまりに柔らかい感触に、どうしてもこの場を離れることができない。

もう少し君が楽に眠れるように、ドレスをゆるめた。
僕の手は、君の顔に触れると、そのまま愛らしい体の曲線にそって動いていく。


   ・・・僕のねむり姫をなぐさめてあげたいな・・・


それから、そっと君を抱き上げると2階に運んで行った。
ベッドの上に横たえると、君の顔から眉をひそめたような表情は消え、
ずっとリラックスしているように見えた。
寝息が規則的に聞こえて来る。


「ここのほうがずっと気持ちがいいと思うよ」


僕の愛を君に刻みつけるように、おでこにキスをする。


「おやすみ、僕の天使!よい夢を」


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出典
Original in Chinese by Jenny Lin
Translated into English by happiebb
Translated into Japanese by AnnaMaria

2004/7/15 ~ 2004/7/29, 2005/10/25 dreamyj
2004/8/5 ~ 2004/9/8 BYJ Quilt (by happiebb)
2004/8/8 ~ 2004/9/8 2005/11/30 hotelier 2002(by happiebb)

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