2つ目の朝。 きわめて 現実的な問題に突きあたる。
「・・・お腹が空いたね。」
ランニングから帰ってきたドンヒョクが、そういえばという風に言い出した。
-ひょっとしたらターミネーターかと思っていたけど、
人間だったみたいね、ドンヒョクssi。
「お腹が空いたね」ですって? ペコペコよ 私は。
昨日はフルーツしか食べていないんだから。
でも そんな事を言ったら、貴方はきっと言い出す・・・
「ねえジニョン、ルームサー・・・」
「絶対だめ!」
-ルームサービスで食事なんて、まったく冗談じゃない。
シン・ドンヒョクがソウルホテルに戻った一昨日の夜から、
ジニョンは、サファイア・ヴィラを一歩も出ていないのだ。
それが意味する事を、・・・きっとホテル中の人が知っている。
ジニョンは、今や、空腹と絶望を抱えていた。
一体どうやって もう一度支配人席に戻ったらいいのだろう・・・。
「帰るわ私。そっとここを抜け出して、どこかで食事をしましょう。」
「僕はかまわないけど・・・。
帰るのは、その、暗くなってからの方がいいんじゃないかな?」
「オモ?・・・どういう意味?」
半眼で睨むジニョンに、珍しく照れくさそうなドンヒョクが言う。
「僕から見ると・・とても素敵なんだけどね。でも今の君の外見は・・、
明るい戸外に出て行くには、ちょっとエロティック・・過ぎるかな。」
「?」
「その、何と言うか。素敵なんだけどね・・、
恋人とずいぶん濃厚に愛しあったという風な、疲れが、顔にね。」
「!!」
息を飲んで、両手で眼の下を覆ったジニョンが、ああとつぶやく。
「最低。」
「ルームサービスを。」
「『マクドナルド』へ行ってきて。」
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空腹過ぎて動けないよと、悪魔の様な恋人が言う。
「じゃあ、こういう解決策は? 一人分だけオーダーしよう。
皆の知らぬ間に、君は帰ってしまった、ね?」
そんな話が通るかしらという疑問を、厳しい空腹が押し流す。
受話器を取るドンヒョクの姿が何だかかすむほど、ジニョンはお腹が空いていた。
「朝食を。オムレツとシ-ザーサラダ、ベーコンはカリカリに。」
-料理長が作ってくれないかな?最高なのよ、彼のオムレツ。
「あとは、パンと果物とコーヒー」
-コーヒーはジェニーに煎れてもらって、・・ね。
「そう、え? いいえ一人分です。お願いします。」
-そう、そう、そう。
「一人分を、・・ダブルサイズで。」
キャアアアアア!!
いったい何を言うのよシンドンヒョクssi私に何か恨みでもあるの冗談じゃないと、
機銃掃射の様にまくしたてる声が、受話器を通して厨房の中に響き、
料理人達が、どっと笑った。
サファイア・ヴィラのテーブルに置かれた「一人分の」モーニングプレート。
銀のカバーを持ち上げると、
お皿の中にはオムレツが2つ。ハートの形に置かれていた。
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”・・・お休み中すみません。ソ支配人はまだそちらにおられますか?”
お昼近く、フロントの当直が緊迫した声で電話をしてきた。
ただならぬ様子に笑顔を納めたドンヒョクが、君にと受話器をジニョンに渡す。
「どうしたの?・・・トラブル?」
「イ支配人が倒れました。」
「!」
幸せそうにお腹を撫でていたイ先輩の顔が浮かび、ジニョンは息を飲む。
「流産?!」
「いえ、それは。・・・でもあの。」
「今日、夕方から、電機産業協会のレセプションね?」
「はい。・・・あの、総支配人はジニョンに言うなと。」
「10分で行くわ。」
叩く様に電話を切ったジニョンが、ハッと振り返る。
ドンヒョクがゆっくりうなずいた。
「行っておいで。オ支配人を病院に行かせてあげなくちゃ。」
パンプスを拾い集めて洗面所に駆け込もうとしたジニョンが舌打ちをする。
「ああ!チッ! ・・私の眼の下の隈、そんなに酷い?」
「・・・すまない、嘘だよ。行っておいで。」
憶えておきなさいよと言い捨てて、
きりりと髪を上げたジニョンが走ってゆく。
オ総支配人は、愛する妻を死ぬ程心配していることだろう。
僕に出来る事は 祈る位だろうか。
教会に行こう、とドンヒョクはドアを開けた。