「ちょっとN.Y.に 行ってくる。」
まるでプールにでも出かける様に ドンヒョクがアメリカに行ってしまった。
「・・・どれ位?」
「1週間位かな。短期間の移動は、疲れるだけだから嫌だけど、行かないと片付かなくて。
ジニョンと離れていたくないから・・・、急いで用だけ済ませてこよう。」
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シン・ドンヒョクが行ってから、
ソ支配人は、オフィスのPCに、ログインパスワードをつけた。
離れたジニョンを恋しがるドンヒョクが、とんでもなく情熱的なメールをくれるので、
ロマンス好きのイ・スンジョンが、うきうきと寄ってくるのだ。
「ねえ・・、バラ300本。今日は何て書いてきた?」
「知りません。」
「“ジニョンssi! 君の温もりのない街にいる事が、どんなに辛いか君にわかる?” あ・・素敵」
「!!」
ジニョンの耳が真っ赤に染まる。
「・・・・・パスワード、盗んだわね。」
「・・ジニョンって、本当にお馬鹿さんよね、
『ドンヒョク』なんてパスワード・・、設定する間抜けが、どこにいるのよ。」
おっほっほと イ支配人は笑い、哀れなジニョンは唇をかんだ。
その週は、呪われたように次々とトラブルが起き、
ソウルホテルのソ支配人は バタバタと走り回る事になった。
・・・でも、そのおかげで恋人を待つ時間が切なくならずに済んだのだと、
一段落した仕事の後で ジニョンは、思い知らされた。
「ドンヒョクssi・・・」
サファイア・ヴィラに彼がいる時も、数日会わない事は いくらもあったのに。
今、切られる様な寂しさにとらわれている自分に、ジニョンはなんだか呆然とした。
―ああ、私。 いつのまにかあなたと こんなにも寄り添っていたんだ ・・・。
―早く 帰って ・・・・こないかな。
ジニョンは 子どものような泣き顔になった。。
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カチャン・・・。
真っ暗なサファイア・ヴィラの鍵を開けて、ジニョンがそっと入って来る。
フットライトだけを点けた暗がりで、恋人の匂いを欲しがって
ジニョンが深く息を吸う。
誰も居ない部屋の中に、かすかにドンヒョクの香りがする気がした。
そっと寝室に忍び入る。
皺一つなくメイキングされたベッドが、何だか憎らしかった。
半暗がりを ゆっくりと
ジニョンの影が動いてゆく。
寝室のクローゼットを開くと、ドンヒョクの服が下がっていた。
―これはあの日ロビーで着ていた服。彼が永遠にチェックインしてくれた日・・。
スーツを そっと抱きしめる。愛しい彼の匂いに、涙がこぼれた。
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「抜け殻じゃなく、中身の方を抱いてくれないか?」
「!!」
心臓が口から出るほど、ジニョンが驚く。
「オ、オモ・・・。 ドンヒョクssi。」
「ただいま、ジニョン。」
首を傾げて、嬉しそうなドンヒョクが笑う。
「寂しかった?」
「・・・い、いつ帰ったの?」
「たった今。荷物を解いたら 電話しようと思ってた。」
シャワールームにいたのだろう。ドンヒョクはバスローブ姿だった。
「・・そうそう、お土産があるんだよ。」
慌てて涙を拭くジニョンに、気づかないふりをして、
ドンヒョクがトランクから、シルクのガウンを取り出した。
なめらかな真珠色の、美しいガウン。
「僕のシャツを着た君も、すごく可愛いんだけど、ね。
レオの奴に景気よく見せてやるのは、もうやめてくれ。」
「・・・まっ」
「今度、僕達の浮気現場に踏み込むときは、これを着て出ておいで。」
久しぶりに聞くドンヒョクの軽口。
ジニョンは嬉しくて ふふっと笑う。
「素敵なガウン・・・。」
「着ちゃだめだよジニョン。今夜の君に、ガウンはあげない。」
彼の言う意味を理解したジニョンは、にらむつもりで・・・微笑んでしまった。
赤くなって嬉しげなジニョンが ドンヒョクには たまらなく愛しい。
「・・・ジニョンの身体も 寂しかった?」
「!・・・・・。」
恥ずかしくなって 慌ててうつむく恋人を
ドンヒョクが からかうように覗き込んで笑う。
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「ああ、そうだ!
これならジニョン ・・・着てもいいかな。」
いたずらそうに眉を上げたハンターが、
チェストから、ひらひらとした物を取り出した。
ジニョンの笑顔が固まる。 ベビードール・・・。
「・・・そんな・・下品な物は捨てたって、・・言ったじゃない。」
「そう思ったんだけど、ね。 ゴミ箱の先には、スンジョンさんがいるだろう?」
「・・・うそつき。」
「下品に、野卑に、むさぼりあう夜も、・・きっと刺激的だよ。ねぇ?ジニョン。」
「・・・嫌よ。」
「もちろん! 僕は、君の嫌がることなんかしない。」
そうさ 当然だろう? 僕は 紳士だ。
「さて・・、では、ジニョン。
これを着るのと 何にも着ないのと、どっちにする?」