ボニボニ

 

My hotelier 36 - 停 電 - 

 




ソウルホテルの22時。 残業を終えた ソ支配人が 
うきうきとした足取りで 恋人の待つ サファイア・ヴィラへの坂を上る。

ドゥン・・・
鈍い音が どこからか聞こえ 周りから いっせいに灯りが消えた。


“あら?停電・・・”  

ソ支配人が 周囲を確認する。 見事に周り中の照明が 消えている。
“ブレーカーダウンじゃないわね。 じゃあ もうすぐ補助電力が立ち上がる。”

ソウルホテルは 停電に備えて 自家発電装置を持つ。
主要電力がダウンすると 一定時間を置いて 自動的に自家発電に切り替わる。

職場に混乱がないことを確認したジニョンは  坂を上がって行った。

----- 

サファイア・ヴィラは 暗闇だった。 月のある分 戸外の方が明るかったかもしれない。

「ドンヒョク・・・ssi・・・・いないの?」
―まだ 帰っていないのかしら?

あまりの暗さに  足の踏み出せないジニョンは 入口近くに佇んでいた。


すうっと・・・  後ろから 人の温度が近づく。  かすかな 煙草の匂い。
「・・・・・・・」
空気が動き たくましい腕が ジニョンを 背中から柔らかく抱きしめた。


大きな手が 頬をゆっくりと撫でる。 長い指が ジニョンの皮膚をすべる。
ゆっくりと ゆっくりと  指が 口元を通りすぎる。  
薄く唇をあけたジニョンが 引き止めるように 甘く 指にキスをした。

「僕じゃ・・・ないとは・・・思わない?」

大好きな ドンヒョクの深い声が 不安げに 少しかすれている。

「間違えない・・・ あなたの 手は。」


もう 肌が この手と指を 記憶している・・・ 
恋人から与えられる快感を おぼえてしまった自分の身体が
ジニョンは ちょっと 照れくさい。


― 電気・・・  まだ点かないの?

温かい掌が 首筋をすべりおりる。
襟元からもぐりこんだ手が なれた風に  柔らかなふくらみをつかまえた。

頬と 胸が ドンヒョクに 優しく愛撫されている。
ジニョンが ふんわり甘いため息を こぼした。

----- 

ブゥン・・と エアーコンディショナーの音。 ・・・電気がきている?

「どうして ここは 電気が点かないの?」 
「止めた。 ・・・ジニョンに 目隠しを するために。」

暗闇のなかで ジニョンの身体が 抱き上げられた。
「こんなに 真っ暗で 歩ける?」
「そうだね・・・  君ごと転ぶかもしれないな。・・・覚悟だけ しておいて。」


そういった割には 揺れもせず ジニョンは寝室に運ばれた。

「すごいわ。・・・ハンターは 夜の狩りもするの?」
「また ジニョン。・・・そんな口をきいていると 狩の獲物にしちまうぞ。」

----- 


寝室は 本物の闇だった。

眼をこらしても 恋人が見えない。 わずかな衣ずれだけが 彼の居場所を知らせる。

暗闇の中。 ドンヒョクの手が 慣れた仕草で ジニョンを裸にしていゆく。
「ドンヒョクssiは・・・私が見えるの?」
なんのためらいもなく 自分を扱う手を ジニョンが不思議がる。

「ん・・・? 見えないよ。 でも・・・
 君とピーナツをむく程度なら 眼をつぶっていても 出来る。」
「豆と一緒にしたわね。」
「もちろん 僕の大好物は 君だよ。」


さ  きれいにむけました。

失礼な恋人が楽しそうに言う。 すりすりと手を合わせる かすかな音がした。


ゆっくりと ドンヒョクの手が ジニョンの身体を 這う。

何も見えない 漆黒の中。

ただ ジニョンの肌だけが 恋人のすることを感じている。


しなやかな指が 唇をなぞる。  あごを持ち上げてキスをひとつ。

首筋をにぎり おとがいを そっと触る。

弦を弾くように鎖骨を奏でて そのまま丘を つかみにゆく。


「ドンヒョク・・・・ssi」 
「・・・・」

「いやよ・・・・。 こんなの。」
「・・・・どうしたの?」

甘い闇の中に ベルベットのような声がした。

「あなたの声が 聞こえない。」
「声?」

そっと ドンヒョクが入ってゆく。
「言葉は ・・・・いらないだろう?」


ジニョンが 身体をよじって逃げだした。
「なぜ?」
しっかりつかまえて もう一度 ドンヒョクが入ってゆく。
何も見えない闇の中 ジニョンの抵抗が強くなる。

ソ・ジニョン。 何を嫌がっている?
 
「どうしたの? ジニョン・・・愛し合おう。」
恋人の抵抗が ふっと止まる。 なんだ・・・そんなことか。


「愛しているよ。」

胸の下で ジニョンの身体が柔らかくなった。 ドンヒョクの動きに 身体をあわせてくる。
「ジニョン・・・愛してる。」

甘やかな声が流れだす。 可愛いな。そんな言葉が 欲しかったのか。
ねえ ジニョン。  いつだって 愛しているだろう?
「だって・・・ 今日は あなたが見えない。」

真っ暗闇の サファイア・ヴィラ。
コツをつかんだハンターが 低い声でささやきながら  愛しい人を泣かせていた。  


------ 

「・・・だから、今日は早く帰れるんだよ。 ジニョン 当直を代わってもらって。」

ソウルホテルのフロントカウンター。  客がいないのをいいことに
シン・ドンヒョクが ささやいている。
こちらを見ない同僚達の 耳が ウサギになっている。 


歯をかみしめてジニョンが 怒る。
「ちょっと・・・やめてよ! 聞こえるじゃない。」

「ジニョン・・・愛してるよ。」
「や・め・て・・ ってば。」

変なやつだな 昨夜は あんなに 愛してるって 聞きたがって・・・・
ジニョンが 慌てて 恋人の口をふさぐ。
こらえきれない同僚達が ぷっと とうとう吹き出した。


あんまりやると 噛みつくからな。 まあいい オ支配人に当直の変更を お願いしよう。
にんまり笑ったハンターの頬を ジニョンの指が ぎゅっとつねった。
「いたたた・・」


「今日は 余計な事を 言わないで!」

 ←読んだらクリックしてください。
このページのトップへ