ボニボニ

 

My hotelier side story - ギャルソンヌ -

 




シン理事が テーブルを離れた。 
ギャルソンヌが カップを下げに行く。

― また 残してる・・・・。

コーヒーカップの隣に置かれた 小さなシルバープレート。 
中に 小ぶりのマカロンが一つ 手付かずのまま 置かれていた。

ギャルソンヌが唇をかむ。

食べてもらわなくては どんなに美味しいお菓子も 意味が無い。

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ソウルホテルの カフェラウンジ。 ゆったりとしたソファの間を 
ギャルソン姿の女性が しょんぼりと歩く。

コーヒーに 一口だけのプティフールをサービスでつけるのは 彼女のアイデアだった。

「うちのマカロンは一つ幾らだと思うんだ? コストプッシュだ!」

上司がいう言葉を尻目に 半ば強引に 彼女が始めた企画だったが
来客率のアップと パティスリー部のマカロン販売70%増という結果を出した。


―当然よ。 彼のマカロンは絶品なんだもの。

ソウルホテルのパティスリーで マカロンを焼くのは 彼女の恋人だった。
「皆 マカロンっていうと馬鹿にするけどさ。 きっちりできたマカロンは芸術なんだぜ。」
きらきらとした瞳で そんなことをいう恋人を ギャルソンヌは尊敬していた。


―いつかは2人で 小さなパティスリーを持って 私が 喫茶室を 担当して・・・

ギャルソンヌは そんな 淡い夢を見ていた。


でも、シン理事が マカロンを食べてくれない。
甘いものが好きじゃないという彼は 「絶品」のマカロンに見向きもしない。

「料理長ってば 新作メニューを作るたびに ムキになって理事に試すんだ。
あの人が認めたら それは美味しいって ことなんだよ。」
恋人が そう言っていた。 だから彼女は なんとか理事に食べてもらいたかったのだ。

―・・・食べてくれなきゃ 味はわからないもの。

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「僕は 甘いものが苦手だから・・・・。 次回からは これつけなくていいですよ。」
新聞越しに 理事が微笑んだ。

ギャルソンヌの 顔がひくりと ゆがむ。
「何か?」
「・・・いえ ・・・・・かしこまりました。」
「?」

理事はコーヒーを飲みながら ゆっくり新聞を見ている。
ギャルソンヌの 絶望に  ドンヒョクは気づかない。


―もう・・・ 理事に マカロンを出すことさえも できないわ。
悄然と トレーを抱えて 彼女は 定位置に戻っていった。


やがて ドンヒョクが席を立つ。
ギャルソンヌは ため息をついて テーブルを片付けに 歩き出した。

「オモ! ドンヒョクssi。 これからご出勤?」
インカム片手に 通りかかったジニョンが 笑いかける。
「ジニョン!いいところで会えたね。 ・・・今日はヴィラへ来る?」

恋人達は 楽しげに 2人の予定を合わせていた。

“はぁ・・・・・”

がっくりと テーブルを片付けたギャルソンヌが トレーを捧げて 歩き出す。
「ね、ね! それ ドンヒョクssiの残したやつでしょ?」

仕事に戻るジニョンが ギャルソンヌに声をかけた。
「ええ・・はい。」

パクン!

「!!」
チーフには内緒にしてとウインクをして ソ支配人がマカロンをつまみ食いしていった。


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「・・・だから 僕は甘いものが苦手なんだよ ジニョン。」

「うう~っ!チッ! 何言ってるのよ! このマカロン すごく美味しいのに。
これ 絶対シャンパンに合うって ピンときたんだもの。う~ん やっぱり合うわ! 試してみてよ。」

サファイアヴィラで フリュートグラスを 振りながら ジニョンが ドンヒョクを責めている。


「絶対! 美味しいから 試して。」
「マカロンだろ? 知っているよ。 何が悲しくて そんな甘ったるい・・・・」


ジニョンを見たドンヒョクが 一瞬あ然とする。 やがて みるみる笑顔になった。

恋人が かわいい唇に ちょこんとマカロンをはさんで誘っている。

「えぇと  ・・・・・いただきます。」

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「あの・・・・。 申し訳ないけれど あれ もらえないかな?」

照れくさそうな理事に ギャルソンヌが顔を上げる。
「はい?」
「あの・・・ マカロンを さ。」
「は・・・・? ええ! はい理事 喜んで!」

彼女は いそいそと トレーを差し出す。
小さな菓子を ポイと口に入れて 理事が微笑んだ。


「これ ・・・とても美味しいね。甘さが軽くて 涼やかだ。」

「あ・・・? はいっ!はい! ありがとうございます!!」

―甘いものも たまにはいいな。 コーヒーの苦味が引き立つ。
上機嫌で ドンヒョクが席を立つ。



その後姿へ 天にものぼりそうな気分で ギャルソンヌが 深々と頭をさげた。

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