ボニボニ

 

My hotelier 38 - 迷惑な隣人 - 

 




欠かすことのない朝のジョギング。
最後の坂を上る時  ドンヒョクは いっぱいにピッチを上げる。


サファイア・ヴィラの前で ゴールすると・・・ 誰かが 彼のミネラルウォーターを 
勝手に開けて 飲んでいた。 スポーツウェアを着た 恰幅のいい男性。

「?・・・・・ あ!」

「お!! これは 『ジニョン泥棒』の シン・ドンヒョクじゃないか。」
「ミスター・ジェフィー。・・・どうしたんですか こんな所で。」
「しばらくソウルホテルに滞在だ。ここは 君の住処なのか。 じゃあ 私は当分隣人だ。」
    
  ゴクゴク・・

「僕の水ですよ・・。」
「あ? ああ ここは君のヴィラなんだな。自分の棟と間違えた。
側近が用意してくれたのかと 感違いしたよ。 すまないな! ご馳走さま。」

― こいつ よっぽど人の物を持っていくのが 好きなんだな。

「あ! シン・ドンヒョク。私が ソウルホテルに滞在していることは 他言無用に頼む。」
「・・・・・・ええ。」

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「ミスター・ジェフィー? なんだか わからないけど。 『潜伏』するんだって・・・。」

政治家さんも いろいろ大変なんでしょうね。
退勤後に 顔を出したジニョンが  疲れた疲れたと 上機嫌でジャグジーへ向かう。
「ジニョン、風呂で本を読むな。 また眠って おぼれるよ。」

「しかし なんだって 隣なんだ? 気にいらないな。」
「・・・しょうがないでしょう。そこしか 空きがなかったんだもの。」


ドンドンドン!!!

「何だろう? チャイムがあるのに・・」

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いきなり 巨体を部屋に押し込むようにして  ミスター・ジェフィーが入ってきた。

「すまん!シン君 ちょっと 君のヴィラに 隠してくれ!!」
「え・・? いや だめです。  困りますよ。」

強引で鳴らした 大物政治家は ドンヒョクの制止も聞かずに 入ってくる。

「あいつらが帰ったら すぐ戻るから。その間だけだ。頼む!」
「・・・・いったい 何ですか?」
「国家の一大事 というわけだ。君には わからん。」

まったく 招かれない客のくせに  中に入るや ぬけぬけと酒でも出せと言う。
仕方なしに水割りを出しているとき ・・恋人がふんわりバスローブ姿で 出てきた。
「ドンヒョクssi。 ペリエを・・・ オモ!」

「おっ! ソ・ジニョン!」

きゃあぁ・・と ジニョンは寝室に逃げ込み 閉じこもる。
呆然としたミスター・ジェフィーが やがて にんまり笑顔になった。

最悪の展開だな。 ハンターが ためいき顔でうつむいた。 


「おい!シン・ドンヒョク! 君らは まだ婚約中だろう? 」
大物政治家が それはそれは 嬉しそうだ。
「嫁入り前のジニョンに 手を出したのかぁ? けしからんな。私の想い人に・・。」


―・・・・僕の尻尾を つかまえたつもりか?

うつむいたままのハンターが 薄っすらと笑う。
ドンヒョクが 負けず嫌いの顔をゆっくりあげる。 こういう奴らには 弱気に出ないほうがいい。


「もちろん 手も 足も 出しましたよ。」

ドンヒョクは 悪びれもせず それは魅力的に微笑んだ。 

「僕は アメリカ市民ですからね。 韓国の倫理観にはうといんです。
 ええと‥婚前のセックスは この国ではいけない事になっているんですか?」

「・・・・な・・・!」
「結婚まで お預けじゃ大変だな。 ねえ ミスター・ジェフィー・・・・?
 『勤務時間外』のジニョンはね ・・・最高ですよ。 肌なんか 吸いつくようです。」

どうだと言わんばかりにハンターが自慢をし  ミスターが 思わず ゴクンと喉を鳴らした。

「もちろん こればっかりは 奥様をお貸しいただいても 絶対お渡ししません。」

ぬけぬけと 言い放たれて 政治家も口が閉まらない。
ペリエの瓶をつかんでドアを開け これで最後と ドンヒョクが言いすてた。

「では 失礼します。 彼女をベッドに待たせておりますのでお構いしませんが。
 どうぞ お好きなだけ 潜伏なさっていてください。」

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してやったりと 寝室に入るドンヒョクを  鬼より怖いものが待っていた。
めらめらと 瞳に怒りを燃やしたジニョンが 仁王立ちしている。

「誰が 吸いつくような肌なのかしら? ドンヒョクssi?」
「・・・聞こえましたか?」
「あなた・・・。 私の世間体というものを 完全に無視しているわね?」


でもジニョン。 気の毒に この状況では 得意のマシンガントークは出せないな。
なんといってもリビングには VIPなトドが 潜伏中だ。

「あの状況じゃ 居直るしかないだろう? 別に悪いことじゃない。」 

唇をかんで ジニョンがにらむ。
―ジニョン。 君 鼻から吸えるだけ息を 吸うつもりだな・・・。

肩を震わす恋人が 気の毒だし可愛いしで  ドンヒョクは笑いそうだ。
ここで笑ってはいけない。 リスクマネジメントのできるハンターは眉根を寄せて深刻ぶる。


コンコンコン・・・

控えめな ノック。

「ソ支配人? ・・・・もう “お取りこみ中” かな?」
「あ! いえ。 ミスター・ジェフィー!! ・・そんなんじゃないです! ・・けど。」
おたおたと ジニョンがドアに張り付く。

笑いのない しっかりとした声で ミスター・ジェフィーが 扉ごしに話かけた。

「どうやら もう隣も大丈夫みたいだから 私は帰るよ。・・・・ジニョン、
プライベートな時間にお騒がせして 本当に申し訳なかったね。許してくれ。」
「え・・・。 いいえ ミスター・ジェフィー」

「こんなことがあったからって 僕の担当を降りるなんてしないでくれよ。
 君の笑顔が見たくて 私は ソウルホテルに 来るんだから。」
「あ・・・はい。」

ドア越しのお客様の言葉に もじもじとジニョンが 頭を下げる。 ドンヒョクが微笑んだ。

さすがに政治家は上手いな。 ジニョンの弱みを知っている。


「君の 手の早い婚約者は なかなか 面白い奴だな。気にいったよ。
 じつはうちのダーリンが パーティ以来 シン君にべたぼれでさ。
 潜伏先をソウルホテルにしろと言ったのも 彼女なんだよ。」
「・・・・・ま。」
「君らも仲が良くて結構だ。 うらやましくなったから 私もダーリンを呼び寄せようかな?」
「ふふ・・。」

じゃあな、と ドタドタ音をたてて 政治家が去っていった。


ポリポリと ジニョンが鼻のあたまをかく。
ドンヒョクは シャツを脱ぎ 先にシーツにもぐりこんだ。


「ジニョン おいで。」

ジニョンが 恋人を振りかえる。自分のために開けられた場所を見る。
「おいで。」
有無をいわせない口調で ドンヒョクが呼ぶ。
ちょっと唇をとがらせてみてから ジニョンが 横にすべりこんだ。

「やっと 邪魔者がいなくなったね。」
ハンターの大きな身体が嬉しそうにかぶさって  ジニョンはケンカの続きを忘れてしまう。
「愛しているよ。」
「・・・・ドンヒョクssi・・」
「ジニョンは 本当に最高だよ。 肌なんか 吸いつくみたい。」
「・・・人には 言わないでよ、もう。」

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『新党結成!最大勢力の誕生』

隣のトドのにこやかな顔が 新聞一面を飾る。
オレンジジュースを飲みながら記事を読み進んでいたドンヒョクが
端っこの小さな記事に 眉をあげた。

“愛妻家で知られたミスター・ジェフィーが 支持者のパーティでぬけぬけと言ったひとこと。
 「家内は 最高だよ。肌なんか吸いつくようなんだ。」
この言葉に 居合わせた女性支持者は きゃあきゃあと大うけ・・・“

「は!!」

やられたよ。彼も 大したプロじゃないか。  ドンヒョクが愉快そうに笑った。

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