ボニボニ

 

My hotelier 46 - オンディーヌ - 

 




ソ支配人が プールに 落ちた。


彼女の災難のもとをただせば プールサイドを通って 新館への道のりを
ショートカットしようと 横着な事を考えたせいだったかもしれない。

盛夏を迎えた ソウルホテルでは ガーデンプールがオープンし、
週末ともなれば 子どもの声が にぎやかに聞こえる。

「キャアァ!」
ジャボーン!!!

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「インカムが水浸しだぞ。ソ支配人!
 お客様の それも 子どもに助けられるなんて どういうことだ!え?」

オ総支配人はカンカンで 頭から湯気の出る勢いだ。

「まあまあ・・だって ジニョンも気の毒よ。  
 プールサイドを走っている子に ぶつかられちゃったんだから・・・。」
イ・スンジョンが なだめに入るが オ支配人の怒りは納まらない。

「おまけにイルカフロートにしがみついて 乗ってた子どもを落としたんだぞ!
 あの子がもし泳げなかったら二人でブクブクか? え! ソ・ジニョン!」
「・・・・・申し訳・・ありません・・。」

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「・・・・泳ぎを教えてくれって?」

シン・ドンヒョクが 眉を上げる。
ジニョンが 泳ぎを? 珍しいことを言い出したもんだ。

「前に 教えてくれるって言ってたでしょう・・・。」
「もちろん。じゃあ ヘルスセンターで待ち合わせる?」

にこやかなドンヒョクに ジニョンはもじもじと 歯切れが悪い。
「ちょっと・・・あそこは同僚がいるし・・人に見られたくないのよ。」
「?」

じゃあ、こうしよう。夜ならどう?
遅い時間のガーデンプールなら 誰にも見つからないよ。

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熱の引かない夏の夜。 ひとけのないガーデンプールは 
ホテルの明かりに 水を揺らしていた。

その中を 音もさせずに ドンヒョクが泳ぐ。
滑らかに水が割れ 長い尾を引く波だけが 泳者のスピードを物語っている。
力を抜いて優雅に泳ぐハンターが 何度目かのターンをした時 恋人がやってきた。 


「ドンヒョクssi・・・」

水着にパレオを巻いたジニョンが なんだか 照れくさそうだ。
「遅くなっちゃった。ごめんなさい。」
シャワーで濡れた髪が 額に貼りついて 愛らしい。

ジニョンとプールに落ちた日を ドンヒョクが楽しく思い出す。

「おいで。水も冷たくないよ。いい気持ちだ。」


うん・・・と素直にうなずいて ジニョンがパレオを外す。
一瞬 ハンターが息をのんだ。

すらりと美しい肢体を シンプルなワンピースの水着が包む。

―この水着の下まで 知っているはずなのにな・・・。
ドンヒョクは 憧れの人に出会った少年のように うろたえた。

「ドンヒョクssi・・・・?」
ステップを降りたジニョンが 途方にくれて両手を伸ばす。


―そうして水に浸かっていると 君はオンディーヌー水の精―のようだよ。


「さあ来て。 僕につかまって。」
溶けるような微笑で ドンヒョクがジニョンを抱き寄せる。
たくましい腕に包まれて ジニョンも少し安心する。

「ちゃんとつかまえてね。本当に泳げないの。」


「ジニョン、ジニョン、力を抜いて。身体を伸ばせば 沈まない・・・。」
僕のカナヅチ・オンディーヌ。 今夜中に・・・浮けるようになるだろうか?
ジニョンは想像以上に水が怖いらしい。浮かせようとするだけで身体が固まる。
「ふぅ・・・」


―それにしても・・・素敵だな。 
水着に包まれた彼女の姿を ドンヒョクが盗み見る。 
細い腰の綺麗なライン。 そこからのびる脚は きゅっと見事にしまっている。

不届き者のコーチは つい職務を忘れ 思わずジニョンを抱きしめた。

「オモ・・ドンヒョクssi?」
「ジニョン・・・愛している。」
横抱きにして唇を奪う。水に落とされては大変と 恋人が腕をまわした。


チャポ・・・ チャポ・・ チャポ・・

静かなプールサイドに寄せる波が 小さな水音を たてる。
大切なジニョンをしっかり抱えて ドンヒョクが深いキスをする。
「ドンヒョクssi・・・」

身体の力がだんだん抜ける。ドンヒョクに そっと腰を支えられただけで
水の上に ふわり ジニョンの身体が浮いた。

「きれいだな・・・ジニョン。水の精みたいだ。」
耳元でドンヒョクがささやいている。恋人の甘い言葉にうっとりしているうちに
ふっと身体が進み出す。
「あ・・」
水に横たわるジニョンに 腕枕をしたまま ドンヒョクがすいと泳ぎ出した。

ソウルホテルの夏の夜。 獲物を浮かべて ハンターが泳ぐ。
なすすべもない獲物は 引かれるままについてゆく。

「泳げるって・・こういうことなのね。不思議な気分。」
「素敵だろう? 僕としては 君の中を泳ぐほうが もっといいけどね。」
「ま・・・」

くるり。 
いるかのように ドンヒョクが ジニョンを抱いて身体を返す。
今度は仰向けになったドンヒョクの胸に ジニョンの頬が乗る。
「足を ゆっくり動かしてごらん。ゆっくりでいい。」

風も止まった夏の夜。
芝生が月の光を浴びて 銀色の棘になっている。

ソウルホテルのガーデンプール。 2匹の美しい獣が 
水の中 くるりくるりと 身をかえしながら
夢見るように 黒い水面を進んでゆく。

「ねえ、ジニョン。今日はこれくらいにしようか。・・・後はイメージトレーニング。」
「イメージ・・トレーニング?」
「シーツの上なら 溺れないよ・・・。」

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サファイア・ヴィラの夜遅く。ドンヒョクが恋人を抱いている。 

「ジニョンの水着姿 素敵だったな・・。本当にオンディーヌみたいで。」
「泳げない水の精って 情けないわね。」
「平気だよ。僕に抱かれて泳げばいい・・・。」
「・・・ん・・」

・・・まったく ドンヒョクssiはうそつきね。 
シーツの上でも 溺れるじゃない。
「あ・・・」

水につかって冷えた身体が 彼に火照らされて 熱くなる。
くるり くるり
プールの中でそうしたように 2人は ここでも抱き合いながら
気持ち良さそうに 身体を反す。

「・・・ジニョン。」 

―水着を脱いだ オンディーヌ。
今度は 君が僕の湖。 深く深く 沈めてくれないか。


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結局のところ ちょっぴり ジニョンは泳げるようになった。

マタニティスイミングのイ・スンジョンとやってきたプールで 
ジニョンが成果を披露する。
「ん~まあ・・・、泳げるようになったのは 認めるわ。
 やればできるじゃない?・・・でもなんで 背泳ぎが途中でひっくりかえるの?」


ジニョンの泳ぎは 変わっている。

すうっと背泳ぎで泳ぎ出し ひとかき ふたかき
くるりと反ってクロールになる。

「これは その・・・・ちょっと 教わり方に問題があったから。」
ジニョンが もじもじ赤くなる。
「バラ300本に習えばいいのに・・・ 彼の泳ぎはきれいだって 
 ヘルスセンターのインストラクターが言ってたわよ?」



イ先輩。その人に習ったせいなのよ・・・。ジニョンがもっと赤くなる。

顔を見られないよう背けながら 愛しいコーチを思い出す。



―水に浮くのって素敵だわ。 あなたに 抱かれているみたい。

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