ボニボニ

 

My hotelier 48 - ショートスリーパー - 

 




腕立てをした身体の下へ ドンヒョクが 愛しげに問いかける。

「ジニョン。・・・もう 寝たい?」

ジニョンは半分夢の中で それでもなんとか 薄目を開ける。
「・・・ん・・ドンヒョクssi・・・まだ だめ?」
「いいよ おやすみ。」
そっと額にキスをあげる。 明日はオフだ ゆっくりおやすみ。
ジニョンの意識が逃げてゆく。
「・・お・・・み・・なさ・・・・・」

スウ・・スウ・・
沈んでしまった恋人の横に そっと身体を落として ハンターが満足げにため息をついた。

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ショートスリーパー。 ―あまり眠らない性質―のシン・ドンヒョク。
3時間も寝れば 平気でいられる。
もっと若いときには 睡眠2時間位の生活もあった。


―寝ている間に 世界が無くなりそうだったから。

ぼんやり ドンヒョクが考える。

かつて彼には「寝ている間に世界が無くなった」経験がある。
目がさめた時 そこには 何もなかった。
家も 父親も 自分の名前さえも・・・

―だから眠るのが嫌いになった。  眠りは・・ 僕をおとしいれる『罠』だった。

ビジネスの世界に身を置いてからは 眠りは『恐怖』になった。
自分が止まっている間に 相手が仕掛けたトラップが
目覚めた自分をがんじがらめにする気がして 休息など出来なかった。
 
―休息は 自分にENDマークが出た後で 腐るほどすればいい。

・・・そんな風に 思っていた。


「ん・・・・ド・ン・・・・」
むにゃむにゃと ジニョンが寝返って わき腹に鼻をすりつける。
ハンターが 眉を上げて薄く笑う。


―幸せそうだね・・・My hotelier。

ジニョンと一緒の夜を手に入れて ドンヒョクは眠る時間が少しだけ増えた。
彼女は 寝るほど楽はないという。
いくら僕が引き止めても。すぐに うっとりと 沈んでゆく。
眠りは 僕の恋人の大好きな親友だ。


―寝ぼすけジニョン・・・。 僕も 君の世界に入れてくれないか? 

ジニョンを抱きしめて 眼をつぶる。
何もいらない。たったひとつの宝物は 腕の中だ。
恋人の柔らかな寝息。眠らない男に ゆるやかな眠りがやってくる。

ゴソゴソ・・

寝相の悪いジニョンが動く。
半分くらいの覚醒の中で ドンヒョクが 安堵する。

―うるさいジニョン・・  僕の腕の中に 居るんだね。

もぞもぞと ジニョンが「寝やすい形」を探す。
ああしたり こうしたり 
やがて自分と恋人の間に 最適の隙間を見つけて 落ち着いて眠る。

ジニョンが時々動くので ドンヒョクは安心して眠れる。
僕の大事な宝物は 誰にも奪われていない・・・。
温もりを確かめているうちに ハンターの眠りが深くなってゆく。

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サファイア・ヴィラの早朝。

ドンヒョクがゆっくりと目を覚ます。 何だか少し 胸が重い・・?
視線を落として ふっと笑う。
ひどいぞジニョン。 僕を枕に使ったな。

ドンヒョクの胸にうつぶせて 恋人が くうくうと眠っている。
規則正しく吐く息が たくましい胸を撫でている。

―弱ったな。 ランニングに行かないと・・。

そっと ジニョンを動かす。 
眠り姫が 「枕」から引き離されまいと ぎゅっと 腕をまわした。

―やれやれ。日が高くなってから走ると 暑いんだけどな。 

「しかたがない。“枕の分際”で 我がままは言えないか。」
恋人を片手で撫でながら ドンヒョクが笑った。


ねえ ジニョン。

僕はこの頃 眠ることが 気持ちいいと 思うようになった。
君を抱きしめて眠れば 世界は決して無くならない。

誰かが僕に トラップを仕掛けて
それで負けてもかまわないと思う。
僕には 一番大事な宝物があればいいし。
「敵」がどれほど札束を積もうと 僕の宝物は お金では買えない。

ねえ ジニョン

眠りは今 『罠』でも『恐怖』でもなくなった。
眠りは・・・ また君を愛するまでの 甘い休息だね。



恋人を抱きしめて ドンヒョクはうっとりと 頬ずりをする。
「・・・ん。ドンヒョクssi? 起きたの?」
ジニョンが 片方だけ 目を開ける。

寝ぼすけジニョン。 目は覚めた?
半分の眠さを楽しむように 恋人が 僕におでこをつけた。


おかえり。 君が 眠りから帰って来た。

じゃあ また今日も 君を愛しはじめよう。

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