ボニボニ

 

My hotelier 111. - プレゼント - 

 




天井に届きそうなほど 積みあげた 
僕の 3回目のルームサービスを見て ジニョンは 言ったものだ。



「高価なものがいいとは 限らないわ。」

着ていく所もないし お金の無駄です。 お返しします。


君が 僕に喰らわせた カウンターパンチ。
僕はあの時 自分の持っていた価値観が ぐらり・・と揺らいだ。

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「ドンヒョクssi! ドンヒョクssi!  オモオモオモ・・! 手伝って!!」


PCモニターを眺めていた ドンヒョクは
ふっと笑って 眼をつぶる。
奥さんが たったひとりいるだけで 僕の空間は とてもにぎやかだな。


エントラスを覗いてみると 
どうやって そんなたくさん持てたのかと 呆れるほどの大荷物を抱えて
下半身だけのジニョンが ヨタヨタしている。

慌てて 荷物を 受け取る。
「はぁ・・ 危なかった。 前が ぜーんぜん見えないんだもの!」


・・・・さすがの 僕も前が見えない。 よくここまで 運んで来たな。


「こんなに贈り物をくれなくても 僕は君に もう 十分イカレているよ。」
ドンヒョクssiに じゃ ありません。


両腕にかけた ショッピングバッグを振り回して
さあ こっちこっち。 
出来上がったばかりの ジェニーの部屋へ ジニョンがドンヒョクを押してゆく。
「プリーズ ジニョン! 僕は 前が見えないんだから・・・。」


ぴかぴかに光る 業務用の ハイカロリーレンジ。
スライド式で引き出せる 食品ストッカーは
大家族の食事でも 賄えそうだ。

「ここに 置いて。」


アイランドテーブルに どさりと荷物を置いたジニョンが
さあて と 張り切って 腕まくりをする。

サフラン・ナツメッグ・グリーンペッパー。
かつて同じ重さの銀より高価だった スパイス達。
エクストラ・ヴァージンオイルは アブルッツイ州オルソニアの特級品。

「全部 ソウルホテルの厨房で使うのと同じ 最上級品よ。 すっごく 高かったの。」


冷湿完全調節の ワインストッカーには シャトーの名品。
「ソムリエに選んでもらったの。ヴィンテージじゃないけど 料理に合わせるには最高よ。」


いったい ・・・君は 何を始めたんだ?
状況の読めないハンターは 慌てて ジニョンに問いかける。
「何って? プレゼントよ。  ジェニーの 引越し祝い。」
「プレ・・ゼント?」

そうよ。インテリアは 自分の趣味でまとめたいでしょう? 女の子だもの。
「でも 料理に使う材料や消耗品なら 嬉しいと思うの。」
「は・・・。」


はい これクレジットの控え。 
「ドンヒョクssiがくれたカードで買っちゃった♪」
・・・庶民的金銭感覚を 追求する君としては たいした出費だね。

「うふふ。 きっと ジェニー 喜ぶわ。」
良かったわね。 気前のいいオッパがいて。



ジェニーの部屋が出来上がり 選んでおいた家具も入った。
今日は ほんのわずかの荷物と共に 

ジェニーが 引っ越して来る。



ジニョンは 部屋部屋を歩き回り 小さなプレゼントを置いてゆく。
洗面所には ハンドソープや歯ブラシを詰めたバスケット。

「何で歯ブラシが 2本いるの?」
「スペアにね。 お友達が来た時も使えるし・・。」
「どうして オレンジとグリーン? ペアみたいで 気に喰わないな。」
「ああ・・もう うるさい。 カラフルで可愛いじゃない?  区別もつくでしょ。」


浴室には 色とりどりのオイルを詰めたバスタイムセット。
「ジェニーは ここの物が好きで よく買っていたから。」
「・・・・。」

縦に置いたり 横に置いたり
My hotelier。  君は すごく楽しそうだ。

確かにね。
あの時 君が僕につき返したプレゼントと 今 君が置くプレゼントは 別物だ。
君には・・ きちんと ジェニーの姿が見えている。



最後に 寝室のクロゼットを開けて ジャケットを一着ぶら下げる。
「それは・・?」
「ジェニーが雑誌を見て 憧れていたの。 ちょっと高いんだけど ・・いいでしょ?」

ドンヒョクが すいと歩み寄る。
いきなりの強い抱擁。 大きな背中から はみ出したジニョンの手が あたふたと揺れる。

「く・・・苦しいわ。 ドン・・ヒョク・・ssi。」
「・・・。」
「どう・・した・・の・・。」


うかつな事に 目元が ゆるんでしまったんだ。
ジニョンに笑われたくないから こうして 胸で 目隠しをしている。

「ね・・え ドンヒョクssi・・・たら。」
「ジニョン。」
「ええ。」
「ベッドに行こうか?」

ダメに決まっているでしょ! もう! はなして。 ジェニーがじきに来るんだから。
「邪険で 冷淡な妻だな。」
「あのね・・・。」

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妹 ジェニーが やってくる。

僕と ひとつ屋根の下に 暮らすために。



シン・ドンヒョクの狼狽ぶりを ジニョンが いたずらそうな横目で見る。
―もう 100回くらい 時計を見ているわね。


そんなに気になるんなら 外で待っていれば?
呆れた妻のからかいに
そうしよう と ドンヒョクが真顔で立ち上がり ついに ジニョンが吹きだした。

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ソウルにも 春の気配がやってきて 
戸外には 柔らかな風が ゆるゆると吹いている。


妹を迎えるには うってつけの日 だな。

のどかな陽を肩に 眼をめぐらせたドンヒョクは 少し先の 黄色く揺れる枝に気づいた。


「ケナリ・・・。」
花の名など いくつも知らないハンターが
ケナリ(れんぎょう) とその名を言えたのは 
遠い昔の庭先に それが揺れていた記憶を 持っていたからだった。

あの花を ジェニーの部屋に飾ってやろう。
つかの間 10歳に戻った彼が 低い枝へと手を伸ばした時
庭守人が 陽気な声をかけた。

「花盗人はとがめないと言うが そんなに大きな枝ごと とは乱暴だな。」
「ガーデナー?」


何だい 理事さんが花なんか。 ジェニーへのプレゼント?
「それじゃあ いいところを切ってやるよ。」
花バサミを取り出した ガーデナーが ぱちりぱちりと枝を切る。
やがて 軽くひと抱えほどの  黄色い花束が出来上がった。

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ドンヒョクssi 外にいなかった?


あら?
どうしたのかしら?
ジニョンとジェニーが 首を傾げる。


ともかく荷物を運んでしまいましょう。
手伝いについてきた イ主任とジェヨンに ジニョンが声をかけた。


カチャリ・・・・

そっと 開く玄関ドア。
腕いっぱいの ケナリを抱えたドンヒョクが もじもじと中へ入ってきた。

「ドンヒョクssi?」
「オッパ?」
どうしたの それ?  すごくきれい。 
「ジェニーに やろうと思って。 ・・・この花  昔 あったんだ。 東海のうちの庭に。」


ただ 切っただけ。 リボンもない枝に
妹は 吸い寄せられるように 歩み寄る。
20年の時を越えて 兄が 過去から 家の花を持ってきたとでも言うように。

「あ・・りがと・・う・・オッパ。」


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ジェニーは もう寝たかな。


ベッドの中にジニョンを置いて ハンターは うろうろ歩いている。


僕は 設計の注文を間違えた。
向こうの窓が こちらから見えるようにしておけば ジュニーの様子がわかるのに。
「プライベートに干渉しないって約束で 同居したのでしょう?」  
「干渉はしない。 ただ もう寝たかな と思っているだけだ。」
「ま・・・・。」

この人 ハーバード出の 秀才だったはずよね?



「でも さすが兄さんね。 私が ヒーコラ言って買ってきた 山ほどのプレゼントより
 ドンヒョクssiが庭先で取ってきた ケナリの方が 喜ばれたわ。」

ふ・・・。 
うつむくドンヒョクが 薄く笑う。
プレゼントを贈ると言うことは 幸せなものなんだな。

かつて 目にとまった女の気を引くために 僕が 与えた 高価な品々。
もう 誰に何を贈ったのかすら 憶えていない。
だけど僕は 今日 ひと抱えのケナリに 泣きながら笑ったジェニーを  きっと忘れない。


くるりと 向き直り 得意げに眉を上げたドンヒョクが
ベッドで待つ愛しい人へ指を立て 高らかに 勝利宣言をした。

「ジニョン?  高価な贈り物がいいとは 限らないんだ。」


ねえ。 君にも プレゼントをあげようかな。
「え?」
これは どこにも売っていないよ。 ハンターはにこにこと 獲物の横へ滑り込む。
ジェニーばっかり可愛がるって 焼きもちを 焼かれないように。

「妹には決して あげないものを ・・・ね?」
「オモ。」
「受け取って くれるだろう?」

愛しい人の返事を待たず 大きな贈りものが ジニョンの上へかぶさってゆく。
「Made in USA だよ。」
「原産地は 韓国のくせに。」
「文句を言うな。 返品は 受け付けない。」

シーツの波間の 睦ごと。
ドンヒョクは じゃれるように逃げる白い身体を しっかりと押さえつけてゆく。 



ジニョンと ジェニー。
 
大切なものをふたつ手に入れて 幸せな夜のハンターは  いつもより 少し饒舌になっていた。

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