ボニボニ

 

My hotelier 123. - 先生のおしおき - 

 




ソウル郊外。 
工場の敷地にシルバーメタリックの車が停まり 2人の男が 降り立った。

すらりと立った長身の男は 腕を組んで建物を見据え
横に立つ小柄な男が PDAを見ながらささやく言葉に 時折 軽くうなずいている。
「O.K.レオ。 後は外観を2.3枚 撮っておけ。」
Yes,Boss♪


「おい! お前ら!!」

いきなりの怒声に シン・ドンヒョクは眉を上げ 静かな顔で振りかえる。
その眼の強さに 男の方がたじろいだ。
「・・・お・・お前ら! 人の工場に入り込んで な、何してんだ!」

買収に来やがった奴らだな! ここの工場は 絶対 渡さねえぞ!
いきり立つ男は 見れば まだ若者だった。
“出来の悪い教え子”の1人か。ドンヒョクの口元が 薄く笑う。

「君が 経営者か?」
「しゃ! ・・・社長は おめえらなんかに 会わねえよ!」
「いや多分 僕たちに会う方が得策だな。 案内しろ。」
「何だと!」


この野郎! 思わず腕を振り上げかけて 若者はそのまま 固まった。
まっすぐに 自分を見つめるビジネスマンは 
若者が 今まで一度も見たことのないほどの 迫力とオーラを身にまとっていた。



「ウチの若い者が 失礼をしたのではありませんか?」

応接室に現れた社長は 困惑顔で ドンヒョクたちに聞いた。
真面目な奴なんですが どうにも少々やんちゃでして。


弟の不出来を恥じるように 大柄な社長が頭を掻く。
きっとこの社長は 何か格闘技をする男なのだろう。
ハンターは すり潰されて普通の倍に膨れた 社長の耳を見つめていた。 

「いえ 快くご案内いただきましたよ。 ・・シン・ドンヒョクです。」
「存じ上げております。 有名な M&Aのプロの方ですよね?」
「知っている?」

零細工場のオヤジでも 経済誌くらいは読みますから。 アメリカでご活躍とか。
「貴方のようなプロには 私の工場の買収など 赤子の手をひねるようなものでしょう。」


ため息とともに うつむいた社長は 平静を装う努力をする。
ふ・・ とハンターの薄笑い。 どうやら 誤解をされているようですね。
「僕が来たのは この工場が外資に吸収合併されることを 阻止するためです。」


この社長も 若い頃は やんちゃだったタイプかな。
まじまじと見開かれた 大きな目玉をながめながら ドンヒョクはゆっくり足を組む。
熱血先生も大変だよ。 きっと ガチンコでヤリ合うんだろう。
「くっくっく・・。」
「・・・あの・・・。 ミスター・シン?」


我が社は本当に貧乏で とても貴方のような方を雇える余裕はありませんが?

「そうでしょうね。 でも 私の経歴を 多少ご存知なのではありませんか?」
「ええ・・。確か 敏腕のレイダースで ご結婚されてこちらへ移住したと。」
「妻の父親が ソ・ジョンミンです。」
「!! ・・・先生?」

「時間が惜しいので 仕事の話にさせていただけますか?」

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「合併?!」

ハンターの言い出した言葉に 社長がいきなり気色ばんだ。
私の会社を助けに来たと言ったじゃないか。 「合併を受けろ」とはどういうことです?


御社は製品の質もいい、十分競争力があるメーカーです。 ただ少々コストプッシュだ。

「人的なリストラをせず経営を安定させるには 業績を拡大するのが一番です。」
M&Aを仕掛けてきている相手は 外資の電子機器メーカーだし 販路も多い。


「“対等合併”なら悪い話ではありません。 こちらからも株買収を仕掛ければいい。」
10%位 買えばいいんじゃないかな。
涼しい顔で 資料を投げるハンターに 社長はますます困惑する。
「で、ですが・・。 そんな資金は 調達できません・・。」

御社と外資が組んだら かなりいい事業体になります。 投資としては 悪くない。
「出資者を見つければいいのでしょう?」

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娘の職場など ゆっくり見る機会はなかったからな。


ソ・ジョンミンは興味深げに ホテルの裏を歩いている。
従業員通用口に立つパパは まるで 生活指導の教師のようだ。
バタバタと 遅刻間際に来る者たちを 腕を組んで見つめている。


「オモ! パ・・パパったら! こんな所で何しているの?」
「ジニョン。 お前も支配人なんだから もっと早く来るようにしなさい。」
婿殿は とっくに仕事に出て行ったぞ。まったく お前は昔から・・。

「きゃああ!やめてやめて!もう! ここは 私の職場なんですからね!」


お願いだから 大人しくしていて! 今日は 早く帰るから!
周囲の笑いを気にしながら 汗を飛ばしてジニョンが去る。
娘の背中を見送ってから 先生は ふむ と歩き出した。

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「まったく失礼ですよ ドンヒョクは。 いつも 突然来て。」

レディ・キムは機嫌が悪い。 その頬が 少しだけ 赤い。


「胡瓜の美味しい季節ですから。 ところで? レディは確か・・。」
「黙って。」
「“殿方と2人きりでは会わない” 主義では なかったでしょうか?」
「お黙りなさい!」

ぷん と きれいなふくれ顔。 今日のお姫様は 立場が悪い。
ティーテーブルの向こうには 大きな身体を必死で縮めて 真っ赤なドアマンが座っていた。 
「き、今日私は・・その・・個別休でして・・。」


「“レディと2人きりで会うことの出来る男” は 僕だけだと思っていたのにな。」
「・・・コホン。」

完璧がパンにはさまっているような 見事なキューカンバー・サンドウィッチを
上機嫌で齧りながら ハンターが ミスターソウルホテルにウインクをする。
純情なドアマンは 湯気の出るほど赤くなって すまなそうに恋人を見る。

「まったく! 貴方も そんなに赤くならないで! それでは悪戯男の思う壺でしょう?」
「も・・申し訳ありません!レディ・・。」
「もぉ! だから ペコペコ謝るのは おやめになって!」


あっはっはっは・・
なんて可愛い恋人たち。 半世紀を超えて叶った恋に
こらえ切れないドンヒョクが笑い お姫様の柳眉が持ち上がる。


「ねえ。 ところでレディ?  本日は少々 投資に関してご相談がありまして参りました。」

からかいすぎて 本当に怒らせては大変。  ハンターは 一瞬で笑いを引く。 
韓国有数の資産家であるレディは 
年若いボーイフレンドが見せる ビジネス用のクールな表情が 気に入った。

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「まったく。 父親が泊まりに来ていると言うのに ドンヒョクは何をしておるんだ。」


ジェニーさんの 心尽くしの夕食が冷めてしまったじゃないか。
夫の帰宅が遅いのはお前のせいだと言わんばかりに ソ・ジョンミンが怒っている。
ぶりぶり文句をいう父親を ジニョンは うんざり顔で見る。
「パパ・・。ドンヒョクssiは すごく忙しいのよ。」

大体パパが 忙しい彼に何か用事を押し付けたんでしょう?
娘のささやかな抵抗を パパは 都合よく無視をする。
「夫たるもの 家族で食事する時間を 大事にせんでどうする!」
一家の団欒は だな。 先生のお説教が始まった時に ドアチャイムが ポゥンと鳴った。


「遅かったな ドンヒョク。 飯が 出来ておるぞ。」
「おっ帰り~!オッパ。 すぐ温める?」
「ん? いや 酒でも もらおうかな。」

レディのお屋敷のハイ・ティーで 少々サンドウィッチを食べ過ぎたんだ。
ゆるめかけたネクタイを 慌ててもう一度締めなおし  婿殿はパパに笑いかける。
「レディ? ・・女性か? お前は今まで 女の家にいたのか?」
「あ・・はい。」


シン・ドンヒョク!!

割れんばかりの 胴間声に ジニョンが何ごとかと飛んでくる。
ぽかんと立った新米夫に パパがいきり立っている。

「女の家でサンドイッチを喰いすぎただと?! ジェニーさんの料理はどうする?!」
「あの・・ お義父さん。」
「ジ・ジ・・ジニョンという妻がいながら 女の家でサンドイッチだと!」
「いえ その。」

「私はそんな息子を持った憶えはない! そこへ直れ! 腕立て伏せ100回だ!」
「パパ!!」

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46.47.48・・・・・

「ねえ? ドンヒョクssi。 パパにはちゃんと説明するから そんなことをしなくても。」
ワイシャツの腕をまくり 腕立てをするドンヒョクに ジニョンがしゃがみこんで言う。

55.56.57.58.・・・・
「構わ・・ないさ。 ちょっと・・腹ごなしも・・したかったし。 君も こうして腕立てを?」
74.75.76・・
「女の場合は “いいというまで両手を挙げておけ”なのよ。」
「それは・・ 上腕筋の・・いいトレーニングだな・・。」 

・・・98.99.100!
「は! やれやれ。 これでおしおきは終了だ。」


スーツのジャケットを片手に下げて ドンヒョクが居間にやってくると
ジョンミンは むっつりと グラスにウィスキーを注いだ。

「終わったのか?」
「はい。 100回。」
「夫たるもの 家庭の団欒は 大事にしなければいかんぞ。」
「・・・すみません。」
「まあ 飲め。」

カラカラと 氷を揺らして 息子がウィスキーを飲んでいる。
その端整な横顔に 義父は 小さく戸惑いながら聞いた。
「その女は その ・・・美人なのか?」


グラスの縁からドンヒョクが眼を上げる。 面白そうな光が宿る。
「美人ですね。 でも ジニョンより少々年上です。」
どうかご心配なく。 妻に 後ろめたいような関係ではありません。
「そうか・・。」


お前ほどの男なら さぞ誘惑も多かろう。 だが どうか ジニョンを忘れないでやってくれ。
「あいつは お前を心から愛しているんだ。」
「僕もです。」
「!」
「命がけで幸せにすると お義父さんに約束しました。」


カラカラ・・と 男2人がグラスを揺らす。
「ドンヒョク。 もう少し飲め。」
「はい。」

息子と酒を飲むのが 長年の夢だったんだ。
「いいものだな。」 
ほろ酔い加減のジョンミンの言葉に ドンヒョクの胸が 温まった。

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「ああ さすがに 腕が疲れた。」

ジニョンの上に腕立てをして ハンターは 甘えた愚痴を言う。

「先生と来たら 問答無用だもんな。」
「あのぅ・・ ドンヒョクssi・・・。」
もじもじと ジニョンは身体を起こし 夫をそっと横たえる。

「パパってば わからずやでごめんなさい。 腕・・。 揉んであげましょうか?」
見事に筋肉質な腕を ジニョンの白い手がさすってゆく。
ぷっと吹き出したハンターは 愛しい人を捕まえて 自分の胸に抱き上げた。

「オモ!」
「ではお言葉に甘えて。 今夜は 君が上と言うことだね。」
「そ、そ、そんな事 誰も言っていないでしょう?」

ちょっと待ってよ! ドンヒョクssi!
真っ赤になった可愛いジニョンが じたばた もがいて逃げようとする。
君を可愛がらないと おしおきだって きつく言われていますから。

「お義父さんには 逆らえないよ。」
澄ました顔の婿殿は  きっちり妻を捕まえて いそいそパジャマを脱がせ始めた。 

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