ボニボニ

 

My hotelier side story - ハウスキーパー  -

 




―おかしいな。 何回考えても 記憶にない。


「いったい どこへ しまいこんだ・・?」



口元で 手を組んで ハンターがじっと考える。
タイムリミットは あと11時間。 もうこれは 別の手を考えなくてはだめかな。

ドンヒョクが 気持を決めかけた時 
サファイア・ヴィラのドアが カチャリと開いた。

「?」
「キャッ!!」
「 ・・・まあ 理事!」


ハウスキーパーの2人が 大げさに胸を押さえて驚いている。

「すみません。 理事が いらっしゃるとは。」
「・・てっきりもうお出かけかと思って・・失礼しました。」


慌てて退散しようとするハウスキーパーに ドンヒョクが微笑んだ。
「どうぞ・・ お仕事をなさって下さい。
 今日は僕 ちょっと調べたい事があって 出かけるのを伸ばしていたんです。」

僕がいては お邪魔でしょうから。
ドンヒョクは 灰皿をつかんで ベランダへ出る。
胸元から取り出した煙草に火をつけて 煙の先に 先ほどからの疑問を置いた。


ジニョンが好きだと言った 女性ヴォーカリスト。
めったにライブをしない彼女が 小さな店の舞台に立つと聞いて
内緒でチケットを手配した。


今夜ジニョンとデートする時に 連れて行ったら 喜ぶだろう。
しかし そのチケットが 見当たらない。

「いったい どこに 置いただろう?」


ほぅ・・・ と紫煙を吐き出して ドンヒョクが考える。
ぼんやりと 部屋の中に眼をやると 
サファイア・ヴィラの室内を ハウスキーパー達が きびきびと動いていた。

2人一組。 シンメトリーに立ち動いて ベッドをメイクする。
家具を磨き上げ ゴミ箱を空にする。
流れるように 手際よく 2人は作業を進めてゆく。


―ソウルホテルのハウスキーパーは 実に楽しそうに仕事をするな。
 機嫌よく自宅を片付ける 清潔好きな奥さんのようだ。


1人が 机の上の書類を まとめる。
もう1人がすばやく 机上を拭きあげる。 
机の横のクズ入れを空にして置き直し きちんと元の位置に書類を置く。

「!」

突然 1つのイメージが ドンヒョクの脳裏を打った。


机におかれた書類の山。 その上に置かれた チケットの封筒。
そうだ 一昨日はあの上にチケットがあった。 ・・そして?
一昨日は いろいろなデータ書類を 机の上に拡げていたのだった。

ドンヒョクが つかつかと部屋に入る。
ハウスキーピングの2人が 何事かと見る。

引き出しから封筒を1枚取り出した彼は 書類の上に無造作にそれを置く。
キャビネットからファイルをいくつか取り出して 机の上に拡げる。

「?」
「?」

いったい理事は何を始めたの?知らないわ。 2人は眼と眼でおしゃべりをする。
ドンヒョクは バタバタとファイルを動かし・・・ 
その動きに揺さぶられて 封筒がするりと 机から落ちた。

ポフ・・・

落ちた封筒は 見事に クズ入れに納まる。
「・・・・。」
ドンヒョクの 眉根が少し曇った。 こういう事かも 知れないな。


「理事? あの どうかしたんですか?」
心配そうな ハウスキーパーが ドンヒョクと封筒を交互に見る。
「何か ・・大切なお手紙でも失くしたのですか?」

きっとそうだ こういう事が起きたのだろう。 ちょっと僕は うかつだった。
昨日の掃除の時に あの封筒は 捨てられてしまったに違いない。
ジニョン。 君を 喜ばせてあげたかったのにな。

「いいえ。大した事ではありません。気に なさらないで下さい。」

-----


ソウル市内の 洒落たカフェで ドンヒョクがジニョンを待っている。
大きなガラス窓の外には 
気の早いクリスマス・イルミネーションが きらめいている。

「ドンヒョクssi・・!」
「今日は早いね。25分の遅刻だ。」
愛しい人を迎えて ハンターが陽気に軽口を言う。
いじわるね。デートだからおしゃれをしていたら 遅くなってしまったの。

僕のために?それは光栄だね。向かいの席に座ろうとするジニョンを
ドンヒョクが手を引いて 自分の横に座らせる。
「そのワンピース とても良く似合う。待った甲斐があるな。」


「ああ そうだ。これをあなたに」

ジニョンがいきなり思い出して ドンヒョクの前にソウルホテルの封筒を置く。
「何?」
「中身はわからない。 ハウスキーパーが 理事にって。」

「あ・・。」
受け取った時の予感通り 中には失くしたチケットが2枚入っている。
そして 小さな走り書き。


“ゴミは もう一泊いたします。”

なあに? と ジニョンが 覗きこむ。
「ジニョン。 “ゴミは もう一泊いたします”って どういう事かな?」
「まあ。 ホテル専門のハンターさんでも 知らない事はあるのね。
 お客様がチェックアウトしたあと その部屋のゴミは1日だけ 保管されるのよ。
 大事な物を あわてて捨ててしまうお客様がいるから。」

一流ホテルなら そういうシステムの所は 結構あるわ。
世の中 うっかりさんが多いのよね。

「・・・まったくだね。」

さあ じゃあ行こうか。 そろそろ始まる頃だ。
「あら 始まるって何が?」
「行ってからの お楽しみ。」


―ありがとうソウルホテル。 君たちは やっぱり最高だ。

ねえねえ どこへ行くの?教えてよ。
せがむ彼女に腕を回して 恋人たちが 夜の中へと歩いていった。

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「うふふ いいことすると 気持が良いわね。」
「そうね。で・・あーあ 理事たちはライブディナーか。羨ましいわね。」
「じゃあ アタシたちも“でなー”しない? いつもの屋台で 一杯。」
「うん 行こ行こ。」
気の良いハウスキーパー達は いつもの屋台に足を向ける。
呑み助の2人は3日とあけず この店の 焼酎&おでんを楽しんでいた。


「いらっしゃい! 来た来た。お大尽2人。」

屋台の店主は ホクホク顔で お馴染みさんを歓迎する。


てきぱき注文を投げながら 2人が テーブルに腰掛ける。
「なあに? お大尽って。」
「お金は無いわよ。給料日前でピーピー言ってんだから。」

陽気に笑う2人のそばに ドンとケースが積みあがる。
「な・・によ・・これ。こんなに頼めないってば。」

御代はもう済んでるよ。 焼酎100本。おでんを100皿。電話でご注文だ。
あんたら 当分ただで飲み食い出来るよ。
「“助けてもらったうっかり者”から 心ばかりのお礼だってさ。」

「きゃー! 理事だ!」
「どうする? 奢ってもらっちゃ まずいかな?」
「まずい? おうおう! うちのおでんが まずいわけないだろ!」
「そうよね・・せっかくだから。 うまい話は。」
「ありがたく・・。」

うふふ・・と 笑う2人連れ。 


その頃ライブディナーの2人も うふふ と頬を寄せていた。

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