ボニボニ

 

ハルモニ  4

 




3時間もおしゃべりをして 晩餐はやっと終わりになった。 


ハルモニさんはさすがに疲れて 自分の部屋へ引き上げてゆく。



「茜? 明日の朝は ゆっくり寝ていていいよ。」
晩にはその ちょっと 親戚の者が来るから。 

「顔だけは見せてもらうよ。 ・・・まぁ 楽しくはないだろうけどねえ。」



ドキ・・

ハ、ハルモニさん?  えーと それは どういう意味でしょうか?

アタシはとっても気になったけど ハルモニさんはそれ以上 何も言ってくれない。

やれやれ お腹いっぱいになったと言いながら
お供の人に手を引かせて立ち上がった。
「あぁ 茜 お風呂のことやなんかは さっきのミンジュにお聞き。」


去り際にハルモニさんは立ち止まり ぞっとする程冷たい きれいな笑みを浮かべた。

「そうそう・・・ ジュニや。 お前は さっさと自分の部屋へお行きね♪」
「わかっています!」





・・・・・わかっていない。

シャワーを使って部屋へ戻ると もう お床が延べられていて
布団の上には 当然のような顔をしたジュニが 片肘をついて待っていた。

「・・・また 窓から入ったの?」
「? 他にどこから来るんですか?」


ジュニってば。 パジャマのズボンいっちょで 何で 裸なのよ。
「え? だってシャワーを浴びたし もう寝るでしょう?」
茜さんは いつもみたいに 僕のパジャマの上半分を着ればいい。

「・・・ここへ泊まるつもりなの?」
何をいまさらと言わんばかりに ジュニは 不思議そうな顔をした。
当然でしょう。 僕たちは結婚したのですから 離れてなんか寝たくないです。

「茜さんも 知らない家に独りぽっちでは不安でしょう。 ・・・ね?」

柔らかく問いつめるジュニの眼に アタシは 言葉が返せない。
そりゃ・・ね。 本音を言っちゃうと アタシだってちょっと心細かった。



いらっしゃい♪  いつもの夜と同じように ジュニは 自分の横を空けて呼ぶ。

あ・か・ね さん
気持ち良さそうに転がって ジュニってば 長ぁい腕をいっぱいに広げる。
天使みたいに優しい眼で 悪魔みたいに甘い声で   ・・・ズルいよ。 

「さぁ・・」


アタシ 今 ぜってー 顔が茹でダコだ。 
ひょっとして 湯気なんかも出ちゃってると思う。

誰もいないのに周りを見まわして。 眼をそらしたまま 横へすべりこむ。
待ち構えていた腕が巻きついて おっきな胸の中へ 引きずり込まれた。
「ふふ やっと来ました。」 

ジュニの使うローションが香って 見上げると こめかみにキスが来る。
アタシは一応 口を尖らせてみたけれど ちょっと・・顔がユルんじゃったな。 


「うふふ・・ まだ結婚詐欺って 怒っているんですか?」
アタシをぎゅうっと抱きしめたまま ジュニは 陽気に身体を揺らす。
詐欺だなんて 言わせませんよ。
「僕は ちゃんと 茜さんを幸せにします。」 



ね・・え ジュニ その手を止めて。

「親戚の人たちのこと・・聞かせて・・よ。」

しないしないしない。
服を脱がせる悪魔な手から アタシは 一所懸命逃げている。
奴は アタシの抵抗なんかものともしないで・・。 何だって そんなに器用なのよ!




「だめですよ。 今夜は 大人しく抱かれてください。」

茜さんを手に入れて この家に帰るのが 昔からの夢だったんですから。
両肩をがっしり捕まえたまま ジュニは ものすっごいキスをする。
 
んくんくんくんく・・・・

「ぷ・・・ぁ・・・」
「うふ 心から愛しています。茜さんは?」
「・・・・・知らな・・。」

んくんくんくんくんくんくんくんくんくんく・・・・・
「あ・か・ね・さ・ん・は?」
「・・・・好き・・。」
「良くできました。」


脚を開いてくださいと ジュニは アラレもないことを言う。

いやって言おうか 迷ったけれど
奴があんまり嬉しそうに 幸せそうに 抱きしめるから 
アタシは ちょっぴり膝を開けて。 弾ける笑顔に 知らんぷりをする。

ジュニは身体で腿を分けて 愛しています ともう一度言った。 

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ねえ ジュニ。  ・・・アタシの声 外へ聞こえなかったかな・・

「? 何で そっちを向いているんですか? 僕の方へもたれてください。」
「やだ。」
うふふ・・・
「な・・何よっ!」
「良かったですか? いっぱい声が出て 僕はとても嬉しかったです。」

ぎゃーっ! ジュニなんかだいっ嫌い! 放せっ!

「放しませんよ。 親戚のことを教えると言ったでしょう?」 
「あ・・?」



ほら 頭を上げてください。

アタシへ腕枕を差し入れながら ジュニは もろく不器用に笑う。

言いにくいこと?  でもアタシ ・・・もう解ってしまったみたい。

「アタシ。 多分 親戚の人に 歓迎されないんでしょ?」
「茜さん・・・。」




結婚詐欺なんて言ったけど ホントはアタシ 薄々感じていたかもしれない。

韓国の方へのお披露目を ジュニパパが さりげなく先送りして
準備が大変と笑った時 何かが少し 不自然だった。

「ジュニ?」

盛りあがる筋肉をなぞりながら アタシは ぼんやり聞いてみる。
ジュニは ゆっくり視線を寄こして 雨の夜みたいに微笑んだ。




「・・何にも 心配いりません。」


知っていますね?
アボジもハルモニも 茜さんのことを とても喜んでいます。
2人が喜んでくれたら 後は 関係ありません。

僕たちは一族の中で 離れ小島に住んでいるような存在なんです。
「離れ・・・小島?」
「ええ。」

僕は 茜さんが嫌なら 親戚と義絶してもいいと言いました。
「あれは 冗談ではありません。」
ハルモニは本家の一人娘ですが イ一族とは 半分義絶しているようなものです。


ジュニの手が ゆっくり ゆっくりアタシを撫でる。
『イ一族』。  
ジュニの口から出てくる言葉が 物語じみて耳に響く。
ウチなんか伯父ちゃんも叔母ちゃんもいるけれど 『一族』って 感じじゃないなぁ。



ジュニは 腕枕をそっと抜くと 片肘をついてアタシへ向き直った。
「茜さん。 ハルモニって 意地っ張りでしょう?」
「え? うん・・。 ふふ すごく親切なのに そう思われたくないみたいだよね。」


ハルモニは 他人に誉められたり いい人と思われるのが死ぬほど嫌いです。

おまけに気難しくて倣岸で・・って。 ジュニは ガンガン悪口を言う。
だけどそういうジュニの顔は ふんわり愛しげに 微笑んでいるじゃん。

「ハルモニは 誹謗や中傷にさらされても 傲然と顔を上げて来た人です。」


誹謗と中傷・・?

それは 一体何のこと?
どうしてハルモニさんが そんな目に遭うの?
アタシは話が見えなくて ジュニの瞳を覗きこむ。


大きな手でアタシの腰を抱き寄せて ジュニは おでこにキスをした。




「・・・茜さん? ハルモニの家 まるで料亭みたいでしょう?」

「? ・・う・ん。」
「この屋敷は  日帝占領時代に実際 料亭として使われていたことがあるんです。」
え・・・?


深い息。 ジュニは危うい笑顔を揺らして アタシの頬にひっそりと触れた。

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