ボニボニ

 

JUNIな生活  クラックーひび割れ― ④

 




ピンと張った筋肉の硬さが アタシに ジュニの緊張を教えた。



いつものジュニなら 全身で アタシに想いを伝えてくる。

愛しています 知っていますね? 
僕のものです ・・そうですよね? って。


だけど今日のジュニはアタシを抱いて 「何か」をじっとにらんでいる。

優しくだよってクギを刺したから 暴走しないように気をつけているけど
がっちりアタシを押さえ込んで 盗られるものかってミシミシに抱く。



いったい「今日」の何がジュニを こんなに張り詰めさせたんだろう。

アラン・ウェイかな?  
だけど 彼とは口をきいたこともないって ちゃんと言ったはずだよ。





アタシはジュニへ手を伸ばして 筋肉こぶこぶの腕に触れた。

ゥンって不満げに喉を鳴らすと ジュニの身体がビクッと揺れた。

「茜・・さん?」

思いのシャボン玉が割れたみたいに ジュニがきょとんとこちらを見る。
アタシは ここぞとばかりに アヒル口を尖らせてムクれてみせた。

「締め過ぎ」

「ぇ・・」
「苦しいから」
「?!」



ごめんなさい!  ごめんなさいっ 茜さん! 

イッちゃってたジュニが正気に戻って アワアワ 盛大に慌ててる。
アタシの上へ腕立てをして 子犬キュウンなお願い顔をする。

僕は ・・嫌いと言われますか?



まったくこの眼だ。 コイツこそ「狂暴」レベルの引力じゃん。

アタシはぎゅっとにらんでから 唇で キスをねだってあげる。


ジュニは ぱあっと嬉しげな 1000点満点の笑顔になって
クフンと小さな咳払いをひとつ アタシの唇をついばみ始めた。 


---------



身づくろいをして寝そべったジュニが アタシをそっと抱き寄せた。
背中からアタシを包み込んで 満足そうに息を吐く。

ねぇジュニ? そろそろ教えてよ パーティーでマギーさんが言ったこと。


「ジュニは コリアンと仕事しないの?」

「まだ憶えていましたか」
「気になったんだもん」

「・・・」



この国で暮らすコリアンは かなり親密なソサエティを持っている。

民族意識も強いから ジュニは コリアンだというだけで
韓国人のお金持ち投資家を クライアントにしやすいんじゃないの?


「あのさ。 それは・・アタシのため?」

「?」
「ほら韓国の人ってさ。 嫌日派も多いじゃない?」
「!」


そういうソサエティの中へ入ると アタシが嫌な思いをするとか
そういう事を もしかしたら ジュニは心配してくれたのかな。

パーティーでマギーさん会った時から 心の隅で気になっていたこと。

アタシは ジュニのチャンスや可能性を また邪魔しているんじゃないの?


「アタシ! ジュニと結婚した時から ちゃんと覚悟してるんだよ」

「茜さん・・」
「日本にも 嫌韓派はいたじゃん」

そういう人の事はさ 気にしないだけなんだもん。 大丈夫だよ。

「ジュニがもしかしてその アタシのために コリアンソサエティと
 つきあわないようにしているんだったら・・!」
「茜さん」



背中のジュニへ力説してたら ふんわり 後ろから抱きしめられた。 
鼻先で優しくうなじを撫でて ジュニが後ろから囁きかける。

僕が説明をしなかったせいで 茜さんに心配をかけましたね。


「コリアンをクライアントにしないのは 茜さんのせいではありません」

「でも・・」

「僕は。 いいえアボジもですが 昔から割とそうなんです」
「え?」
「コリアンソサエティから離れています。嫌っている訳ではないですけれど」



ジュニはアタシを抱き直して 頭にクシクシ頬擦りをした。
言ったでしょう? 僕ら家族は イ一族から離れて暮らしているって。

「一族って 親戚さん達?」

「はい。 コリアンソサエティの中には 様々に財閥の力が入っていますから
 不用意に人間関係を作らないようにしているんです」
「ぁ・・・」


“あいつらが欲しいのは ジュニなんだよ”


いつか河原でハルモニさんに聞いた話を思い出す。

“巨大企業を営む財閥にとって 喉から手が出る程欲しいのは金なんかじゃない。 
一族の事業の舵取りをしてくれる 「有能な」「身内の」後継者さ”



「・・そっかぁ・・」

「僕がコリアンをクライアントにしないのは 茜さんのせいではなくて。
 本当を言うと イ家の懐刀と呼ばれた・・僕のハラボジのせいです」
「ハルモニさんの旦那様?」

書庫で会った“あの人”だ。  アタシは心の中で思った。

冷たく笑って ゆっくりとまばたきした超イケメンおじさん。



「ええ。 ハラボジは優秀な事業家で 韓国の金融界では伝説の人物です」

「伝説って・・」
「ハラボジは 伝説の相場師です」

彼は朝鮮戦争の動乱に乗じて先物取引で莫大に儲けて 主家の姫との婚姻を

「金でもぎ取ったと言われています」
「・・・」

「ハルモニとの婚姻を親戚に認めさせるために した事なんでしょうけど」 




僕が研究者でいる間は 誰も話題にしなかったのですけれど
投資ファンドに勤め始めた頃から コリアンソサエティで噂になり始めて。

「噂?」

「自分では分からないけど 僕は 他人から見るとハラボジに似ているらしく
 年輩の方の中には 僕のことを「ジホの生まれ変わり」と言う人がいます」
「生まれ変わりぃ?!」

僕は生きているハラボジに会っているんですから 生まれ変わりの訳がないのに。



「そ、そりゃあ孫だから! 似ているって言えば 確かに似てるけど。
 ジュニと あのハラボジさんは 全っ然違う人だよ」
「?」

ジュニはアタシをくるりと回して ちゅう~っと嬉しげにキスをした。

「フフフ茜さんたら ハラボジを見たことがあるみたいな事を言います」

げ・・・ (見たんだよ)


「いや あの! ハルモニさんに写真を見せてもらったから」
「そうでしたね」
「ハラボジさんは 気難しそうじゃん。 ジュニは冷たい感じじゃないし」

「僕の方が好みですか?」

「・・それは 妻に聞くことじゃないよ」
「フフフ」



ジュニはアタシ引き寄せて 自分の上へ腹ばいに乗せた。

話しながら アタシの背中からお尻を ゆっくり大切そうに撫でる。
コリアンソサエティには 「ジホの孫」に投資したい人がいるんです。

「ジュニなら儲けさせてくれるだろうってこと?」

「ええ。 でもそういう人は 儲かる方へどんどん資金を動かします」



僕は 未来への貢献度が高い科学に パトロンを作りたいと思っていますから
ハイリターンを求めるマネーゲームとは違う投資をしたいです。

「僕が コリアンをクライアントに持たないのは それが理由です」


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・・そんなことになっているなんて アタシ 全然知らなかった。

ジュニってば 今や親戚だけじゃなく コリアン投資家からも狙われてるのか。

距離で比べればアメリカは ソウルからずっと離れているけど
アタシ達は日本にいる時より もっと韓国と関わっている。




アタシの背中を撫でる手が だんだん 愛撫になってきた。

ジュニ? アタシが眼を上げると ジュニがまっすぐ見つめていた。


「茜さん。 僕 相談があります」

「相・・談?」

「はい。 この前から考えていたことです」
「なに・・?」
「そろそろ ベビーを作りませんか?」

「!」



僕達 あれこれ忙しくて 結局韓国の親戚に結婚披露をしていません。

「そこまでしないと思いたいですが 親戚の中には 僕達の仲を裂こうと
考える者がいるかも知れない」
「えー!」


「ベビーが産まれれば 親戚達もさすがに諦めるだろうと思います」
「・・・」

「茜さんもF.I.Tを卒業するし ステップを1つ上がりました」
「・・・」

「ハルモニは相変わらず やいやい言っていますし」
「・・・」



何よりも 僕が 茜さんとの愛の結晶を欲しくて仕方ないんです。

ジュニは嬉しげに頬を染めて アタシのお尻をそっとつかむ。
バースコントロール無しに茜さんと愛し合うのは きっと すごく素敵です。


「だめですか?」

「・・・」



考えてくれませんか? 茜さん。

ジュニは 首をちょっと伸ばして アタシのこめかみへキスをする。

愛しげで 優しい ジュニの微笑み。
アタシは奴のムキムキの胸へ うつぶせたまま絶句してしまう。



ベビー? 赤ちゃん? このタイミングで?

そりゃあジュニは仕事も憶えて バリバリに「リア充」だろうけど
アタシはやっとこカレッジを出て 世の中に出られるかなってレベルだよ。


ああでも アタシが仕事をしたいと言えば ジュニなら完璧なサポートをする。

何より あのハルモニさんと魔女弟子が「育ててやる」と言い出すよ。




お尻を撫でていたジュニの手が 後ろからアタシのそこへ触れる。

だめですか?って 長い指がアタシの中へ話しかける。

ずるいよ。 考えなきゃなのに チュクチュク潤んだ音がするから
アタシはあぁって言ってしまって ジュニは・・・すっかり有頂天じゃん。


大きな肩が寝返りを打って あっという間に2人の位置が替わる。

ジュニは アタシが「データ処理中」マークを クルクルさせているのを見ると
アタシの奥へ身体を埋めて ゆっくり考えてくださいと言った。

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