ボニボニ

 

JUNIな生活  クラックーひび割れ― ⑥

 




“彼の相手がこの女”?! という 声にならない非難の声に

アタシは ジュニとつきあった最初の時から 延々と殴られ続けてきた。


だ・か・ら  今さらアラン・ウェイに何か言われたとしても 

それがどれほどごもっともでも アタシは絶対 簡単には 
凹んだりなんかしないんだから。




アラン・ウェイは思う存分 衝撃のカミナリに打たれてしまうと

やがて ハァとため息をついて アタシを冷たい横眼で見た。



「お前 まだ学生だろ?」

「学生結婚は違法じゃないでしょう?」


「・・もしかして お前ン家が大金持ちで・・」
「おあいにく様 パパは普通のサラリーマンです。 血統書付きのド平民」
「そんな感じだよな」

「ついでに言うなら  “過ちで子どもが出来て責任取った婚”でもありません」

「・・まさか幼なじみ じゃないよな」


・・・グ・・・・



アタシが返事に詰まっていると 面白そうに成り行きを見ていた
マリエラさんが横っちょから ジュニに聞いた話をした。

アカネのハンサムダーリン・ジュニは 5歳のアカネと婚約したのよ~。

「5歳?!」

「いやまぁ。 それは 子どもの口約束だけど」
「うわぁ最悪。 ・・初恋か」 



ガックリ肩を落としたアランは それでも 仕方なさそうに笑った。

「何か そういう感じだったんだよな」

「そういう感じ?」
「分からないけど。 ・・ピュアっていうか」




今まで俺は イケメン男に惹かれたことなんか ないんだ。

つまんないだろ?顔のいい男って 思い上がっている奴が多いしと 
アランは 自分のイケメンさを棚の上へあげて首を振る。


「だけどあの時 周りを見回してジャケットを脱いだあの人は
 何だか ずっと見ていたくなるような存在感があって グラッと来たんだ」

「・・・」
「ひとめ惚れとか。 簡単にしない方なんだけどなぁ俺」
「・・・」



あまりにも率直なアランの言葉に アタシは 内心うなずいてしまった。

気持ちは ワカル・・よ。 
アタシ自身が かつてまさにその状態で ジュニに恋をしたんだもの。


--------



お客さんが入って来たので アタシは引き上げることにした。


マリエラさんに挨拶をして店を出ると アラン・ウェイがついてきて
そうするのが当然とでも言うように アタシに並んで歩き始めた。


「何でついてくるのよ」

「お前はバカか? まだ話が終わってないだろ?」


バカって・・・こいつ・・・ 

「話なんか もうないでしょ! 一緒にいたのは私の夫です。以上」

「イ・ジュニって 日本人の名前じゃないよな?」
「韓国人です。 私達は国際結婚をしました」
「あの人 科学者なのか?」

「あのねぇ。 何でアタシが赤の他人に そんな個人情・・」
「お前に聞かなきゃ わからないからだろっ!」

「?&%#〇▲!・・」



ポケットパークに群れていたハトが いきなりの大声に慌てて飛んだ。

突然の大声に街を行く人々が 事件?!と一瞬立ち止まったけれど
私達2人の姿を見ると肩をすくめたり ちょっと 笑ったりした。

ぐぐぅ・・ これじゃまるで 痴話ゲンカみたいじゃん。



恨めしい眼をアランに向けて アタシはそのまま凍りつく。
うすく涙の浮いた眼が まっすぐに アタシをにらみつけていた。

「俺だって お前になんか 聞きたくないんだ」

「・・・」
「あの人と結婚している女になんか。 だけど ここでお前に聞かなきゃ
 もう二度とあの人に 会えないかもしれないだろ!」

「・・・」



アラン・ウェイ。 言っていることが無茶苦茶だよ。 

お前の夫にひとめ惚れしたけど どこの誰かも知らないから 
もう一度 どうしても会いたいから 彼のことを教えろって?


だけど アタシはそう言えなかった。

アランの気持ちが 痛いほどわかった。


だって アタシもジュニのことが どうしようもないくらい好きだから。
二度とジュニに会えないなんて 思うだけでも辛いから。



傲慢・尊大・超我がまま。 

だけどアタシはアラン・ウェイの 火のような正直さに感動した。

マリエラさんが こいつの暴言を苦笑しながら許した気持ちがわかる。
アラン・ウェイの率直さは 笑っちゃうほど見事だもの。



「ジュニは 絶対 渡せないからね」

「?!」

・・ジュニはね。 前は研究者になる道を歩いていたんだけど 
科学に投資するパトロンを見つけるために ビジネスマンになることにしたの。


「今はウォールストリートにオフィスのある 投資ファンドに勤めてる」
「ビジネスセレブか 仕事がデキるんだ?」
「実際見た訳じゃないけど 多分Yes。 ジュニって何をやっても優秀なの」

「そうだろうな♪ そんな感じだ。 ・・スポーツも?」
「ほぼ万能 嫌になるくらい」

「ふふふ♪」




あ お前 ジェラート喰わないか? 街角のワゴンに眼を留めたアランは
ポケットから ものすごくイカした小銭入れを取り出した。

「きれいなコインパース・・」

「そうだろ? お前ってイイ眼してんじゃん」



これは知り合いにスケッチを描いて 作ってもらったんだとアランが得意だ。

変なの。 アタシってばゲイの恋敵と けっこう楽しく話してる。

だって普通はジュニの話をしたら ノロケてるわって引かれちゃうのに
アラン・ウェイは 嬉しそうに ウンウンそれで?って聞くんだもの。



やっぱり勝手なアランの奴は 自分の好きなフレーバーを2種類注文すると
どっちがいいかさんざん悩んだ末に ボツにした方をアタシにくれた。


「・・色は?」

「色?」
「好きな色だよ」

ジュニの 好きな色? 服は ブルー系をよく着てるけど・・。

「着る色と好きな色が同じとは限らないだろ! 結婚して知らないのかバカ!」
「な、何よっ! バカって!!」

「もういいっ! じゃあ好きな動物」

「実家に大きな犬を飼ってるから・・犬かな」
「推測なんか聞いてるんじゃないっ!」
「?!」


知りたくないのか?あの人のこと。 お前だって好きなんだろ?
アラン・ウェイは悔しそうだった。 声が ちょっぴり潤んでいた。

「俺なら1日中聞くだろうな。 好きな人の “大好き”を全部知っていたいから」

「・・・」



せっかく買ったジェラートを アラン・ウェイはダストボックスへ捨てた。

俺 そろそろ行かなくちゃ。 人と会う約束をしてるんだ。

アランはiphoneを取り出すと むっつりとアタシに差し出した。
アタシは なんかもう抵抗もせずに フルフルでアドレスを交換した。



マーチャンダイジング・マネージメントを修了したんだよな お前。

「・・じゃあもう卒業で 就職するのか?」


「ううん。 服作りも少し知っておきたいから パートタイムで何講義か
 行程分析とか・・デザイン科の単位を取ってんの」

「じゃあ 俺の後輩だな」
「何でよ。コースは修了したんだから アタシの方が先輩でしょ?」
「へっ」


ま いいや。 たとえお前が先輩だって それが何?って感じだし。

「お前デザイン科に友達いないだろ? 俺が 友達になってやる」



生意気アランはそういうと いきなり顔いっぱいに笑った。

それは ジュニとは違うけれど ・・びっくりするほど鮮やかだった。


--------



「?」


「!!」

タオルドライしながらジュニの背中を見ていたら いきなりジュニが振り向いた。


「何ですか?」

「ジュニって 背中にも眼があるの?」
「モニターの隅に映っていました。 じっと 僕を見ていましたね?」
「・・・ぅん」
「!」



ぱぁ・・って。 

ジュニの全身から キラキラの粒が弾け飛んだ。


茜さんが僕を見ていたと 素直に認めるなんて 「明日は雨です」

「随分じゃない」
「うふふ♪ 何ですか? 僕に何か言いたいのでしょう?」

・・・・・・

「・・・ジュニの 好きな色は何?」
「え?」


ジュニはたっぷり絶句してから 膝の裏と脇へ手を挿してアタシを抱き上げた。
少し寝た方がいいみたいですって ちょっと!ジュニ!



ぽふんとアタシをシーツへ落とすと ジュニは隣へ横たわる。

片肘をついてもう片方の手で アタシの代わりにタオルドライを始める。


「好きな色がどうかしたのですか?」

「ジュニは アタシの好きな色を知ってる?」
「セルリアンブルーです」
「?! 即答?」

この空の青が大好きと 茜さんは前に言ったことがあります。

「その他はレタスの明るいグリーン。利休鼠も渋くてカッコイイそうです」
「・・・」


ゴシゴシ・・これくらいかな。

ジュ二はアタシの髪からタオルを外すと ひと束髪を取って唇に当てる。
うふふ茜さんの髪の毛は 僕と同じ匂いがします。

「ユニセックスのブランドがいいって ジュニが言ったんじゃん」 


ジュニの視線がアタシを追うから アタシはもじもじ言葉を失くす。

アタシは ジュニの好きな色を こんなにちゃんとは覚えていない。




“俺なら1日中聞くだろうな。好きな人の“大好き”を全部知っていたいから”

切ないくらいにまっすぐだった ジュニに恋したアラン・ウェイ。


ぼんやりしているアタシの唇に ジュニがゆっくりキスをする。
甘えたい気分なのですか? 茜さん。

「それじゃあ この先もいいですね?」



シュッて シーツを小さく鳴らして ジュニがアタシへかぶさってくる。

お風呂上がりのキャミとショートパンツなんか 
ジュニにかかれば 魔法のように消える。

アタシをまたいで膝立ちになったジュニは エイヤッてシャツを脱ぎ捨てて

アタシの身体を 筋肉のポン・デ・リングでしっかり包んだ。





んくんくんくんくんくんくんくんく・・・ 

・・・ぷ・・ぁ・・


今日は結局 アタシから誘ったことになったみたいだ。
ジュニは それではと使命感に燃えて 盛大にキスを繰りかえす。

もう一個のジュニが突き上げるから 声を上げたいアタシなのに

ジュニが ん゛~~~~ってキスをするから アタシは酸欠になりそうだよ。



ビクビク アタシの背中が反って やっとジュニの責めが止まる。

アタシを柔らかく押しつぶしたまま ジュニはのんびり動いている。
今日は茜さんが可愛いから ゆーっくり ずーっとしていたいです。


「茜さん」

・・・はぁ・・はぁ・・・ぁ・・・


「憶えておいてください」
「・・・」
「僕の 大好きな色です」

「・・・」


「もう言いましたよ」
「・・?」
「 “茜”は 色の名前でしょう?」

「!!」



ああ 撃沈。

こんな歯の浮くようなセリフに アタシはまんまとやられてしまう。
許せアラン・ウェイ。 残念ながら ジュニは やっぱり渡せない。



まったく照れる気もないジュニは ニコニコ腰を揺らしている。

アタシはきゅんとしてしまったので ジュニィ・・と甘い声で呼んだ。

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