ボニボニ

 

JUNI 2

 




ジュニの部屋は まるでインテリア雑誌のようだった。

元々この部屋はデザイナーハウスだってんで 気取った造りになっている。


床には鉄平石を敷き詰めて 壁は打ちっぱなし。
寝室とリビングの境目は スモークのガラスパーテーションときたもんだ。


このアパートの住人ときたら デザイナーだの カメラマンだの。
おしゃれな方々ばかりで 大家のしょぼい娘のアタシは ちょっと気が引ける。
だけど ジュニの部屋と来たら そのまま雑誌の撮影に使えそうだ。


「素敵な 家具だねぇ・・。 ショールームよりかっこいい」


思わず素直に言ってしまったら ジュニがひどく嬉しそうな顔をした。
「気に入りましたか? 写真と図面を送ってもらって コーディネートしたんです。」
「コーディネートって ジュニさんが?」
「ジュニと呼んでください。ええ 僕インテリアは 好きです。」


茜さんが気に入ってくれて 良かった。 いつでも来てくださいね。

「な・・んで アタシが 男の部屋に来るのよ。」
何だか ジュニの言い方って 変だ。 思わずアタシは身構えるのに
ジュニはまるで平然として アタシと親しくするのが当然という風に振舞う。

コーヒーでも飲みましょう。 有無を言わせぬ口調で ジュニが言う。 
天邪鬼なアタシは 口惜しいから 番茶が好きだと言ってやる。
すると見事な 南部鉄のやかんが棚から出てきて あっという間に番茶が出た。



「・・・茜さん。 恋人はいるんですか?」

ごくん と番茶を飲んだ瞬間に いきなりそんな質問が来た。
まったく答える必要がないのに 何でだろう アタシ 正直な事をいう。
「まあ・・カレシっぽい奴はいるけど 恋人って感じでもないかな。」

そうですか。 ジュニが ちょっと困った笑みを浮かべる。
何でそんな顔をするわけ? やっぱり ジュニは変だよ。
「・・・彼とは・・寝ましたか?」


ぶっ・・・。 

アタシは 盛大に番茶を吹いた。 ジュニはそれに慌てもせずに
タオルを持ってきて アタシの濡れた服を丁寧に拭いてくれた。
「・・・寝てないよ。」


ああバカ! アタシってばご丁寧に。 何を正直に申告してるの?
・・って ジュニはまた 何でそれを聞いて ほっとした顔をするの?
「茜さんは・・バージンですか?」

もう 吹きだす番茶が無くなった。ジュニの言っている事が
こいつ以外の口から出たのだったら アタシ 間違いなくぶっとばしている。
「・・・バージンだよ それが何か?」

何だかにこやかなジュニに アタシ 多分 顔が赤くなってる。
「結婚まで 純潔でいたいのですか?」
「別にそんなんじゃない。 ・・してもいいなって人が いなかっただけ。
 フィーリングが合う人がいたら 明日にでも しちゃうつもり。」 

明日にでもなんて過激な事は 実は 考えてなかったけど。 
そう言った時 確かにジュニはうろたえた・・ように見えた。 
でもなんで? 一体ジュニは 何が言いたいのだろう


コポコポコポ・・・

ジュニが 2煎目のお茶を淹れる。 言いたくないけど ものすごく美味しい。
ふと思いついて アタシの方から 聞いてみる。

「ジュニさん・・ジュニは 彼女がいるんでしょ?」
ハンサムだモンね。大学生だし コンパとかあるでしょ?
「僕・・恋人はいません。でも 時々 女性と寝ることはあります。」


ぶっ・・・。
ああ また吹いちゃった。 ジュニが 律儀にタオルを取りに行く。

「セフレって奴? 最低ね。女の敵・・。」
「どうしてですか?  僕は 決して自分からは 誘ったりしません。
 時々どうしてもと頼まれた時だけ 納得の上で1晩だけおつきあいします。
 何があっても 2回おつきあいすることはしません。」
「・・・。」
「でも茜さんが嫌なら もう絶対しません。 男性は 少しぐらい経験があって
 女性をリードが出来ないとだめかな と思ったのですが。」


ごめんなさい としおれるジュニに アタシは クラクラ目まいがする。
「何で・・・アタシが嫌なら って言葉が出るの?」


最初から そう 最初から変だった。 一体こいつは 何を考えている?

「僕は 茜さんと結婚するんですから。」
そうそう そういう感じだった。え・・・?


「高坂のパパとママにも そのうち ちゃんと認めてもらいます。」 
「え・・?」
「もちろん 茜さんにも・・愛してもらわないといけないけれど。」

ジュニのきれいな頬が 薄く染まって 何だかアタシは 呆然とする。
「あのぉ・・・アタシ 一応カレシいるけど? 聞いてた?」
「聞きましたよ。 恋人未満の彼でしょう? 口惜しいけれど仕方ありません。
 僕は今まで 茜さんのそばにいられませんでしたから。」


まだ茜さんは17歳なんですから 恋の1つや2つ ありますよね。
「本当は 僕みたいに ずーっと 思い続けていて欲しかったです。」
「・・・。」
「でもいいです。そのうち愛してもらえるように がんばりますから。」



今夜は 再会できた日だから 記念にキスだけしましょうか。
「え・・?」

アタシが 何を言われたのかと ゆっくり脳ミソを動かしている間に
ジュニはさも愛しいという風に 私の身体を抱き寄せて
大きな掌であごを包んで 持ち上げた。

「茜さん。 やっと会えましたね。 僕 本当に嬉しいです。」
「・・・・ん・・」

な・ん・で こーなるの~? とアタシの脳ミソは 叫んでいたのだけれど
ジュニのキスは それはそれは 恐るべきものだった。


ふわりと唇が包まれて 柔らかく吸われる。
優しく でも揺るぎなく歯を分けて舌が来る。
アタシの舌を誘い出して その舌先も 裏もすべてを舐めてゆく。

キスって・・・こんなに・・すごいことだったっけ?
アタシは 何だか身体が震えて ソファからずり落ちそうになる。
「っと・・・。茜さん? 大丈夫ですか?」


大丈夫じゃないわい! アタシはどきどきして ちょっと涙目だ。
そんなアタシを ジュニときたら それは嬉しげに抱きしめる。
「ああ茜さん。やっぱり柔らかい。 ・・あの日のままです。」

さあ もう一度と 唇が寄ってきて 背中にジュニの手が当てられる。
大きな温かい手が アタシを胸へと引き寄せる。
アタシは 頭の芯がしびれて  ジュニにしがみついてしまった。
「!」


ちょっとだけ唇を離して 笑ったジュニは 自分に回されたアタシの腕を
嬉しそうに マフラーの様に巻きつけて またキスをする。

アタシとジュニ。 
しっかりハグしながら ディープなキスしているんですけど・・。
一体 これは 何なのでしょうか。 今日 会ったばかりなのに?

長い長い 長~いキスの後 もう一度 ぎゅっと抱きしめられた。
「ここまでにしましょうか? ・・これ以上は 僕の理性がもちません。」
撫で撫で・・と コドモの頭を撫でるようにしてから
ジュニは アタシを開放した。

「さ・・。 送ります。」

いいというのに 少しでも夜道は危険ですと ジュニは 私を送ってきて

迎えに出たママに とっても礼儀正しいお休みを言った。

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