ボニボニ

 

JUNI 6

 







眼が覚めた時 アタシは自分のベッドに いた。


頭をひねりながらダイニングに行くと 
おはようございます と 元気になったジュニが 笑った。
パパは 朝食のテーブルで大げさに アタシをおぶった話をする。


「ジュニが来てくれと ふらふら声で電話してくるから見に行けば・・・ 
 病人押しのけて 茜の奴がベッドに寝てるじゃないか このバカタレ娘。」
「うそ・・ まじ?」
「パパさん! ・・違います。茜さんが寝てしまって 風邪を引きそうだったから。」
「そういう自分が 風邪っぴきじゃないか。 まったく ジュニは優しいな。」


しっかし 茜をおんぶして帰る30メートルの まあ 長ぇこと。重ぇこと。

「僕が運んであげられたら 良かったのですけど。まだふらついて・・危ないから。」
「ジュニちゃんが 謝ることじゃないわよ。 はい お粥。」


ママは ジュニが体調を崩したことが ちょっとショックだったみたいで
これからは絶対 うちでご飯を食べるように ジュニに固く約束させていた。


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「茜さん・・。 タカハシ君との旅行 ・・どうするんですか?」



その夜 家でTVを見ながら ジュニがそっと聞いてくる。
ママはジュニのために オレンジケーキを 焼いている。
「うーん。 行くわけには ・・いかないよね? もう。」
不可抗力(?)とは言いながら アタシは 二股かけてることになった。


そして 圭太には悪いけど アタシはたぶん 
いつかきっとジュニを 選んでしまう。
「圭太と・・・別れるよ。」



喜ぶのかなと思ったら ジュニは 悲痛な顔をした。

「茜さんを失くすのは 辛いと思います。  圭太さんに 申しわけありません。」
僕が行きましょうか? とジュニが言う。僕が 心から 彼に謝ります。
「・・・・圭太は ジュニに謝って欲しくないと思うよ。」
「・・・。」
「これは アタシと圭太の問題だから。」


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もう付き合えない と圭太に言うと 圭太は そうか・・と言っただけだった。
「・・・ごめんね。」


いいさ。なんとなく俺 お前ってかぐや姫みたいだって 思ってたから。

「かぐや姫?」
「なんかつきあってても 醒めてるっていうかさ。そのうち誰かが迎えにきたら
 “アタシは月の者です”って行っちゃうんだろうなって 思ってた。」
ああ俺 体育会系なのに すげーブンガク的なこと言っちゃってる と圭太が笑う。


え?ホント? アタシ圭太に醒めてたつもりはないんだけどな。
「まあ 俺が感じてた事だから。 ・・例のハンサムな婚約者とか言う奴と つきあうの?」
「わかんない。」
「今時 親の決めた婚約者なんているんだな。」
「・・・・。」


親の決めた 婚約者じゃないよ。 ジュニの決めた 婚約者だ。
アタシ ジュニと恋人になるかどうか まだわからない。
だけどいつかはジュニと 結婚するんじゃないかという 気がしている。


―だって アタシと結婚しなかったら ジュニは ・・・きっと壊れる。


不思議な 確信。 
アタシの中の遠い記憶が そう告げる。
なんでだろう? ジュニはなんで アタシじゃないとだめなんだろう?


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週1回。 アタシはジュニの部屋に行く。


階段を上ると 足音を聞き分けて ジュニが先にドアを開ける。

「茜さん・・。」


ジュニは すごく嬉しそうだ。
そして ちょっと ・・・アタシにとっては 危ない感じ。


いつかはジュニの思った通りになるなんて・・言わなければ 良かったな。
わくわくと 確かにジュニは 待っている。
葉陰の果実が色づくように アタシが その気になることを。

ジュニが家庭教師を引き受けてから アタシの成績はUPした。
ママはすっかり喜んじゃって 年頃の娘を 独り暮らしの男の部屋へと 尻を叩いて 通わせている。


お夕飯の後で 勉強タイムは 2時間位。 
でもねママ。 本当はジュニ 30分しか勉強しないんだよ。

茜さんの集中時間は せいぜい小学校6年生レベル・30分くらいでしょう。
そんな失礼なこと 言っちゃって。
後の時間は・・。  大抵は アタシを口説いている。


「茜さん。 この頃 浮いた噂はないですか?」
「ないよ!」
「じゃあ 僕が 今のところは 恋人ですね?」
「だから どーしてそういう話になるの?」


今アタシはフリー。 フ・リ・-! いけない?   かまいませんよ。

「茜さんは 若くて可愛いいんだから 青春を謳歌してください。」

そして いつかは自分のものになれって? 
なんだかアタシは 腹立たしい。



ジュニだってまだ19だよ。 恋愛でもして 青春を謳歌すればいいじゃん?
「僕はいいです。 ずっと 茜さんに恋していますから。」
歯が浮きそうな言葉がさらりと出て  アタシってば・・内緒で ちょっと嬉しい。  


それにしても ジュニの奴ってば ぷよぷよフェチだ。
いわゆる “軽くヤバイ”部分に てんで眼がない。

「ぎゃっ!」
「茜さん。 ・・ああ 柔らかい♪」
「さ・・さ・・触るな! 乙女の柔肌に!」
「あははっ 柔肌ってこういう部分を言うんですか? 知らなかったです。」

ぷよぷよと 腕の内側を ジュニが撫でる。 今日は完璧 アタシのミスだ。
半袖のラムウールセーターなんか 着るんじゃなかった
これじゃ ジュニを誘っているようなものじゃないか。
腕を伸ばした途端 ジュニが吸い込まれて ああもう! 唇まで這わせている。


「ぎゃあ! やめて!くすぐったい!」
「あ・・ すみません。 つい眼がくらみました。」
「アタシ! ジュニと ま・・まだそういう仲じゃないから!」
「・・・わかっています。」


わかっていない。

ジュニの場合 あいつが『大前提』だと信じているコトが 問題なんだ。
“僕は 茜さんの 婚約者です。”
それはあいつの信仰であり 絶対の目標であり ・・・あいつの支えでもある。


いつか 僕のものだから。
そう信じこんでいるあいつは いともたやすく アタシに迫る。

「茜さんのお腹も 好きです。 柔らかくて。」
「触ったら 舌かんでやる。」
「・・・我慢します。」


我慢しますといったくせに。 勉強を教えながら ジュニは後ろから抱きしめる。 
さりげなく(?) 片手が お腹を撫でている。
「触らないでよ・・。」
「・・すみません。 茜さんのここ ふわふわでずっと触っていたいですね。」 

ああ・・・ ダイエットしなくちゃ。


アタシはジュニに ガオガオ文句を言う。 ジュニはふんわり 困って笑う。
一見すると アタシが狼でジュニは羊。
だけどホントは その逆だ。

狼の皮を被った羊と 羊の皮を被った狼。 
ねえジュニ。 
好きって言ったら アタシ 食べられてしまうんでしょう?

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