ボニボニ

 

JUNI 8

 




女子高の 文化祭なんてものは 彼氏の自慢合戦みたいなもんだ。


けっこうイイトコのお嬢さんも多いウチの学校では
3年生くらいになると 許婚とやらを 招待して見せびらかす人もいる。
そんな人を見るたびに けっと思っていたアタシだったのに・・。


「ねえ 茜。 バザーのチケット。 3000円分買っておいてね。」


木曜の朝。 ママがいきなり言い出した。
「3000円? ・・・ママ アンタバザーで いったいどんだけ食べるつもり?」
「だあってん  ジュニちゃんも行くから 万一足りないと悪いでしょ?」
「ジュ・・ニも 来る?」


なんでぇぇぇぇ!! ノォォォ!

アタシは 心の中で悲鳴を上げる。 そ・・・そんなことは聞いてないぞ!

ジュニには内緒にしていたのに ママってば 喋ったわね。
「ジュニちゃんってば 恥ずかしがりやさんなのよ。
女の子は苦手ですからママさんと一緒に行きたいです なんて言うの。」
「・・・・。」


あの悪魔。どうしてそう 頭が廻るんだろう。
小娘の羨望を一身に集める中を ジュニのエスコートで歩くなんて
そんなオイシイ話を ママが絶対 見逃すはずがない。
「で? 茜のクラスは何やるの? ケーキやさん?」
「・・・・妖怪喫茶。」


まあったく あんたたちときたら 色気無いことをするのね。

「せっかくなんだから メイド喫茶でもやりゃいいのよ。」
TV大好きママは やたらと若いモンの情報を知っている。メイド喫茶だア?
冗談じゃない。ジュニにご主人様なんて言った日には どれだけ喜ぶか・・。


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「うぞっ!! 茜の婚約者 来んの!?」


発泡スチロールに顔をくりぬいた『ぬりかべ』の真由が大声を出して
アタシの クラスは修羅場になった。

ぎゃー! せっかく会うのにこんな格好で どうしてくれんのよ!
子泣きじじいの美穂が首を絞めるけど アタシだって 知らなかったんだよ!

「あたしだって・・砂かけ婆ぁだよ・・・。」


それもご丁寧に 歯にクロテープ貼って歯抜けにして 目の下は赤いクマだ。
トホホ。 こんなことだったら ろくろっ首の方が良かったな。
「いついつ・・・ 何時頃来るの?」
「お・・昼・・・ぐらい」


ぎゃー! もう来るジャン! 
教室に悲鳴が 響き渡った時。 一番聞きたくない声がした。
「茜さん。」


妖怪一味が ぴたり と止まる。
そ~っと振り向くその様は まるで 見~た~な~って そのまんま。
「ジュニ・・。」 


んまあ~ ・・・・あんたたちってば。

とっておきのシャネルスーツを着込んだママが 呆れ顔で立っている。
ジュニは きれいなラベンダーのセーターに 
ツイードのジャケットをさらりと着て 優等生のツバメみたいにママの傍に立つ。

「い・・・らっしゃい・・・ませ。」


慌てて髪を撫で付けようにも 爆発したみたいな白髪のこのカツラでは
何をしようと無駄ってモンで・・ アタシは しおしおと椅子を引く。
ジュニの奴は 臆面も無く 可愛い妖怪さんたちですねなんて 周りを見回す。

ちょっと遠巻きに 皆が ジュニを 覗いている。 
「こ・・こんにちは~ おば様。」
げ・・ 何時のまにやら 真由っぺは化粧を直してる。


マスカラ付けた『ぬりかべ』なんかいるかよ。
真由っぺの 無駄な努力に アタシは腹が痛い。

「『ぬりかべ』さん? こちらの お勧めは何ですか?」


ジュニ ジュニ 頼むからそんなにまっすぐ・・・見つめないでください。
真由が気を失いかけている。 アタシは 脇をクンと肘でつつく。
「よ・・・『妖怪うどん目玉おやじ入り』でございます。」
「『地獄のリゾット手首添え』も美味しいよ。」


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しげしげと 珍しそうに ジュニがうどんを食べる。
ジュニが物を食べるさまは とても綺麗で 皆がぽーっとなる。
優雅だ。たとえ食べているのが 目玉おやじでも・・・


茹でタマゴに 海苔を貼って カマボコの胴体をつけた目玉おやじを
ジュニは ものすごく 気に入ったらしい。
僕 韓国にいた頃『ゲゲゲの鬼太郎』をビデオで見ましたなんて言う。
この目玉おやじは アタシが考案したんだよ。
そっとつぶやくと わお!それはすごいと 大げさに喜んだ。


「・・・・茜・・」

真由が 慌てて傍に来る。ぬりかべになってるのを忘れて耳打ちしようとするから
発泡スチロールの頭が ガンとぶつかった。
「でっ。 鼻が・・。」
「・・・あ・・ごめん! ちょっと茜 ・・・圭太が来ちゃった。」


「え・・・?」
眼をやると 数人の男子学生と一緒に 圭太が教室に入ってくるところだった。
ワイワイと にぎやかに席につく一団の中で 圭太だけがこっちを見ていた。

「!」
ジュニの手が そっとアタシを 圭太の方に押し出す。
お盆をもって とっとっと・・と アタシは圭太の傍へ立った。

「・・・いらっしゃい・・。」


すげー顔だな。俺 カレシでなくて正解だったかも。
へへへ と笑って見せたら 圭太は呆れ顔で笑った。
「茜のママといるの。 あれが・・・婚約者?」
「・・・・ん。」
「でけーな。なんだ けっこう男っぽいんだ。
 婚約者なんて なまっちろい奴だと思いこんでたな・・・。」


ジュニは すうっと顔をこちらに向けて 圭太に軽く目礼をする。

「俺のこと。 元カレって知ってんの?」
「・・・・ん。」
「ふうん。」
圭太 お前何喰う?やっぱ目玉おやじ入りか? トモダチがわあわあ話しかける。
アタシは砂かけ婆ぁに戻って 注文取りに専念した。


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妖怪喫茶が 交替になって アタシはぶらぶら模擬店を見ていた。
ママはジュニを連れて チャペルコンサートへ行ったらしい。

えびせんべいにソース塗るだけという 手抜きな屋台をのぞいていたら
圭太がやってきて せんべいを買ってくれた。
「ご馳走になっちゃ 申し訳ないよ・・。」
「いいさ。 別れた女に たむけのえびせんべいだ。」


お姉ちゃん マヨネーズもつけてやってと圭太が言う。
せんべいもらったから言うわけじゃないけど いい奴だよ。圭太って。
「ごめんね・・・。」

もういいさ。 俺あきらめ早いからな。ところで茜・・・
「あいつって 大丈夫?」
「大丈夫って?」
「・・・怖くねえ?」


圭太は サッカーでディフェンスだ。結構スター選手 だと思う。
そんな彼に言わせると ジュニのオーラは 普通じゃないらしい。

「ぶつかる相手の 気迫とかさ。けっこうわかるもんなんだぜ。
あいつちょっと普通じゃない。言い方悪いけど 凶器みたいな凄みがあるんだ。」
「・・・普通の人だよ。」


せんべいのマヨネーズをなめながら 圭太ってスルドイなってアタシは思った。
ジュニのアタシへの執着は 圭太が言うとおり 尋常じゃない気がする。
何でかわからないけど 狂気・・に近いような感情。

「・・・まあいいや。じゃ たまには俺と 浮気でもしようぜ。」
そんな軽口をたたいた圭太は 片手を上げて 仲間の所へ去って行った。

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チャペルをのぞくと もうコンサートは終わったみたいだった。

「あら~ 茜。 もう人間になっちゃったの?」


なによその格好は と言っていたくせに ママはそんなことを言う。
「茜と一緒に写真撮っておけば良かった 忘れてたわ~。」
「あ! 僕も忘れてました。 アボジに送ったら喜んだろうに・・。」
もう 砂かけ婆ぁになりませんか? 残念です。


そんな話をしている所に シスター・テレサがやってきた。

「ジュニさん。 皆様ご一緒ですね。 コンサートにいらしたの?」
ママは シスターがジュニを知っているのに驚いたようだ。
「教会には 通っていますか? よければまた告悔においでなさい。」
「ええ そうですね。」

ママはジュニがクリスチャンと知らなかったみたい。
「ジュニちゃん 告悔って何?」なんて聞く。


「懺悔のことです。神の教えに背く行為をしたことを
 神職の方に聞いていただくのです。ほら 祭壇近くのあの小さな部屋で。」
「へえ~。」
「ああ そうです。 僕も 告悔に来なくては。」

「!?」


そ・・そ・・それって ジュニ。 何を? 何を懺悔するつもり?
アタシの わきに冷たい汗が流れる。



シスター・テレサに 

ま・・まさか アタシの事を  言うつもりじゃないでしょうねっ!

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