ボニボニ

 

JUNI 11

 



ジュニの部屋のPCは きっと 性能がすごく良いんだ。


ブラウザも サクサク動くので パパのPCより ずっと使いやすい。
アタシはジュニの部屋にもぐり込み 好きな歌を ダウンロードしては 
オリジナルの 音楽DVDを作っている。

ジュニは 手早く画像処理して おしゃれなタイトルシールを作ってくれる。
「ありがと。」 
茜さん お礼はココに♪です。 にこにことジュニは唇に指をあてる。
「ジュニは ・・・学校で コンピューターの勉強とか してるの?」


・・・僕に 興味があるんですか?

嬉しそうに ジュニがすりすりと寄ってくる。 アタシを椅子ごとくるりと回して
自分に向ける。 両手で頬をはさむと それはそれは ディープなキスをした。
「・・ん・・・む・・。」 
だ・か・ら!  突然 そういうことするなー!



「ジュニのキスは すごいから ・・アタシ 困るんだよ。」

それは 仕方がありません。 今すぐ 結婚はできませんから。 
僕は あの手この手で茜さんの気持を 惹きつけておかなくてはいけないでしょう? 
キスひとつだって結構 必死です。
「茜さんが どこかに行ってしまわないように。 たくさんのキスをして
 僕の 大好きな気持を 伝えておかなくてはいけませんから。」

僕のキスがすごく上手で 茜さんが とりこになってくれたらいいのですけど・・。 
まったくジュニときたら 臆面もなく そんな事を言う。



― ・・・もう なってるよ。

教えてあげない アタシの秘密。
まだちょっと アタシは ジュニの思いの強さが 怖い。


「ねえ・・。 ジュニは 学校で 何をやってるの?」

大学に編入したばかりなのに ジュニってば のんびり落ち着いていて
学校は?と聞くたびに 授業がない なんて言っている。
「僕は 今のところ基礎科学に興味を持っています。ニュートリノ天文学などです。」
「ニュー・・鳥の? てんもんがく?」


そうです。 『陽子』って知っていますか? 
原子よりもっと小さい 物質の単位です。
この『陽子』は計算上 一兆年の一兆倍×百億倍の寿命があると推定されています。
「・・・・。」

『陽子』の寿命が尽きたとき 『陽子』は実は「消失」するのではないかと
現在推論されているのです。自然界では すべての物質は「消失」はしないと
言われてきましたが これが・・

「ジュニ ジュニ。」
「なんですか?」
「もうちょっと・・・ かんたんに言える?」
「一兆×一兆×百億年後に 宇宙は あとかたもなくなく消える可能性があります。」


・・・・それを調べることに 何か 意味があるの?

「あります。 基礎科学というのは そういうものです。」

すましてベッドに座ったジュニは アタシごと ゴロゴロと椅子を引き寄せて
悪戯そうに 顔をのぞきこみながら 服のふくらみを手でさわる。
「・・・・な・・に・・?」
「宇宙が消えてしまわないうちに ・・・僕たち 愛を 確かめ合いましょう。」
「え・・?」

一兆×一兆×百億年。

「ち・・ちょっと・・ジュニ。」
「バタバタしてはだめです。ほら 腕を上げて。」
なんだか 壮大な時間に眼がくらんで 今日のアタシは ジュニに抱かれた。


 

「茜さん? 明日 お休みなんでしょう?」
アタシを食べた後なのに ジュニはまだ未練そうに 背中にキスしている。


よく知ってるね。 先週末の 校外授業の振り替えだよ。

「僕の・・学校へ 行きましょうか?」
「大学?」
「ええ・・僕の学校は お散歩にうってつけです。」

大学ね・・・ジュニの通う大学なんて アタシ 逆立ちしても入れないしね。
話の種に 行ってもいいかな。

-----


ジュニの通う大学は 都内なのに けっこうな敷地だ。 
りっぱな構えの門を抜けると 自転車で走る人の姿もあった。
「広いねえ・・。」

少し歩くと 駐車場脇に いかめしいオジサンのいる守衛ブースがある。
アタシ 偏差値低いけど ここ 通っちゃって いいのかな
半分マジで心配すると 茜さんは可愛いなあ・・・と ジュニがこめかみにキスをした。

「この先に きれいなモノがあるんです。」
ジュニは アタシの手を握って 嬉しそうに歩いていく。


大学の中にある博物館。 企画展示と看板が出て 鉱石展をやっていた。
「鉱・・石。 石?」
「ええ 宝石みたいにきれいです。 茜さん・・・宝石 好きですか?」
「宝石は 別に好きじゃない。」

ジュニはがっかりしたみたいだったけど アタシは ちょっと意地悪を言った。
アタシ「宝石」は好きじゃない。 でも「石コロ」は・・・結構好きだ。



「う・・・わっ!」

ちょっとちょっとちょっと! これ何? 
ブルーブラックのきらきらの石から 水晶がボコボコ突き出ている。
「Stibnite・・輝安鉱です。」

ふう~ん? わ・・これは これは?
透明な・・カズノコがみっちり固まったみたい。 ああ・・ねえほら粒が こぼれて。

「ふふ。 鋭いですね。これは Siliceous colite。 魚卵状珪石と言います。」
「へえええ。」

アタシは どきどきと周りを見回す。これは スゴイ。
こんなにきれいなモノ タダで見られるのに この展示室ってば
見に来ている人が こ~んなに少ないなんて もったいないね。


ふわり・・・ ジュニが アタシを抱きしめた。

「ジュニ?」
「茜さん・・・そう言ってくれると 思いました。」

僕もそう思ったんです。
なんて きれいなのかなって。
良かった。 僕と茜さん 同じものを愛せるなんて 嬉しいです。

人がまばらなのをいいことに アタシの頬をつかんで ジュニが 長いキスをする。
だ・・・誰かに 見つかったらどうするのよ! 
じたばたと ジュニの腕をすり抜けると 目の前に 恰幅のいい初老の男性がいた。
「先生・・。」

「ジュニ君じゃないか。」

こちらは? 教授らしいその人は 私を 眼で指し示しながら問う。
「僕の 婚約者です。」
「な・・! ジュニってば。」


ああ 彼女が。 君にハーバードを振り切らせた意中の人か。

「は・・?」
君のおかげで アジアの卓越した頭脳を アメリカに奪われないで済んだよ。 

愛の力は偉大だな。 命短し恋せよ乙女 だ。
陽気に笑う教授は 言葉の最後を半分歌うように言うと ジュニに向かって
研究室にもっと来たまえと言って にこやかに去っていった。


「誰・・?」
「大柴教授。 僕をこっちに呼んでくれた人。」
「アメリカって・・・なんの事?」 
「ああ・・・ええ。」
ジュニは なんだか照れくさそうに 言葉を選んでいる。

ねえジュニ?  アタシ 不思議だったの。
ジュニは どうしていきなり大学2年の秋から 日本に留学してきたの?
「ええ・・・あの。」

僕 本当はアメリカの高校に留学したんです。

そこでスキップして大学に入って 向こうの2年課程が終わった所で 日本に来たんです。
だから僕 2年まではもう終わっています。 春から本格的に勉強やろうかなって。
「茜・・さんが 17歳にもなっていると思うと 怖くて。」
「アタシが・・・?」

茜さんが もしかして誰かと 熱烈な恋でもしていたら・・・。
日本では 保護者が許可すれば 16歳から 結婚できるのでしょう?


あたしのため って ジュニ・・・? 

口をぱくぱく。 言葉の出ないアタシに ジュニは そっと唇を寄せる。
「研究は 後からでもできます。 でも茜さんは 今 捕まえないと
 手に入らないかもしれないですから。」
そして ジュニはアタシを連れて 柱の陰で とびっきりのキスをした。

-----


手を引かれて歩く ジュニの学校。
「ここは 『三四郎池』と言うそうです。 誰かの小説で ええと・・。」
ごめんなさい。日本文学は まだ詳しく知りません。

ジュニでも知らない事があるんだね。 エッヘン!
女子高生を なめちゃいけないよ。アタシが 教えてあげましょう。
「夏目漱石の小説だよ。ここは『三四郎』の話にでてきた心字池だ。」

おみそれしましたとジュニが言って アタシはちょっとだけ 鼻を高くする。
身体をぶつけあうように 笑っていたら いつのまにそこに
すごい美人がいて アタシを にらんだ。


「こんな子のために 将来を 棒に振ったの? ジュニ・・?」

 ←読んだらクリックしてください。


このページのトップへ