ボニボニ

 

JUNI それからstory 4

 




「ねえ~。 茜は“上”に行くの? それとも“外”?」


真由っぺ・・・。 

こっちへ飛んできそうだから フォークに刺したハムかつを振るのは 止めなさい。
「そう言う真由っぺは どうすんのよ?」


だってアタシは 大学受験したくないから ここに入ったんだもん。
「エスカレーターで “上の階でございまーす”。」
茜ってば なんかこの頃 成績上げてるじゃん。 受験するのぉ?
「茜がいないと 寂しいな~。 一緒に“上”行こうよぉ。」



どう しようかな・・・。

アタシの通う私立女子高校には グリコのおまけで 短大がくっついている。
そんなにハイレベルじゃないけれど けっこう 良家の子女ってやつが多いから
世間の評価は「お嬢さんガッコ」って感じで  まあ 悪くない。

「茜はさー。 どうせ 将来ジュニの奥さんになるんでしょお~?
 それなら 学歴とかさあ どうでもいいじゃん。」
「学歴は 別にいらないけどさ・・。」
でも アタシ。



“茜ちゃん? ジュニに 人生を引きずられちゃだめだよ。
 やりたいことが見つからなかったら 
 何でもいいから 好きなものの方へ 歩いていけばいい。”

そこだけ急に真顔になった ジュニパパのことを思い出す。


そうだね ジュニパパ。
アタシに何が出来るかのわからないけど 自分の中に「何か」をしたい気持ちはある。

将来 ジュニの奥さんになるとしても
自分だけで立っていられる  そんなオンナにならないと
もう一度アニーさんに「ジュニの足かせ」ってなじられたら きっと 言い返せない。



「自分なりの人生って ・・・どこへ行ったら 見つかるのかな?」
「茜。」
アンタって 時々 分不相応に 高尚な悩み方をするね。
「なーによぉ 分不相応って。  ・・・ポリポリ。」

あ! ちょっとそのシバ漬け! とっておいたのに~!!


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「もしもし 茜さん・・。  泣いていませんか?」


夜遅く ジュニが電話をかけてくる。 心配そうな ひそやかな声。
「泣いてないよ。 ・・ねえジュニ  電話代が 高いんじゃない?」
そうですね。 今度戻ったら 僕の部屋のPCにウェブカメラを付けましょう。
「そうすれば いつでも会えます。」


会えないよ・・・。 顔が 見られるだけだ。

「うん。 そうしたら 毎日でも会えるね。」
「うふふ モニター越しに キスをしましょう♪」
「やだよ そんなの 馬鹿みたい。」
「馬鹿って・・ 茜さんは 冷たいです。」


耳元で囁く ジュニの 柔らかな声。
あたしの肋骨が 切なさに きゅうううっと 絞まる。

「茜さん?」
「・・・ん? あ ごめ~ん! ちょっとパック剥いでたの。 ふ~うっ ツルツル。」

うそつき。 パックなんかしていない。


「寝るところだったのですか?」
「うん。」
「もう少しだけ 声を聞いても いいですか?」
「・・うん。」

うん ジュニ。
もう少しだけ ・・囁いて。
「茜さん。 学校の様子は どうですか?」
「・・・・ねえ ジュニ?」
「はい。」

ジュニの 話をして。
いつもアタシのことばかり聞くけれど アタシなんか ホントに普通の高校生だ。
「ジュニの 研究の話をして。」


困ったように ジュニは ニュートリノの話をする。
「ええと。 ・・・星が一生を終える時には 大爆発が起こるんです。」
その爆発には 45億年分の太陽エネルギーの そのまた1000倍の威力があるそうだ。
どんな威力か さっぱりわからないや。

「そのエネルギーのほとんどが ニュートリノとして 放出されます。
 こんな話・・・面白いですか?」
「あんまり 面白くない。」
「じゃあ・・。」
「でも続けて。」

続けて ジュニ。
何にも理解できなくても アタシはジュニの 話が聞きたい。
たとえジュニの地平には立てなくても ジュニの世界を 知っていたい。


「僕は 茜さんの話のほうが 聞きたいです。」
「聞くほどのお話はないよ。
 アタシは 普通に毎日 学校へ行って。  真由っぺと一緒に お弁当を食べてる。」

ジュニガ イナイコトヲ サビシガッテ デモ ガマンシヨウッテ ガンバッテイマス。


言わないよ。
昨日より一歩でも アタシは 強くなるって決めたんだ。

「美咲に言って 今度 合コンでもしようかなあ・・。」
こらっ 茜さん!
「来週には帰ります。 よそみは 絶対! ダメです。」


それでは茜さんへ ヴァーチャル・キスを送ります。
ちゅっ・・
「ふふ 聞こえますか?」

低くて 甘い ジュニの声。
受話器を痛いほど押し付けると ふ・・というジュニの吐息が 耳元で揺れる。
ジュニ!
アタシは切なく眼をつぶる。  ジュニが 好きだ。

「心から 愛しています。 知っていますね?」
「ん・・・。 ねえ ジュニ?」
「はい。」
「研究 がんばってね。」
「え?」

アタシには ジュニの研究は 理解できない。
だけどジュニ がんばって。 行きたい道があるのなら どうか まっすぐ進んで行って。
アタシのために回り道しちゃった 今までの分まで歩いて行って。

「アタシ。 ずっと ここにいるから。」
「茜さん・・・。」
「じゃあ おやすみ。」

ツー、 ツー、 ツー、・・・。

ぽろん・・ 
ちみっと涙が出た。 よしよし 茜 よくやった。
なかなか イイオンナぶりだったじゃない。
アタシは自分に納得をして ぱふん・・とベッドへ倒れこんだ。 

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コンコンコン・・・


「おぉいジュニ! 寝てねぇだろ? 一杯付き合えよ。」
「三浦さん。 だから 僕は 未成年です。」
「あ!そうか・・。 面倒くせーなあ! お前そんなに頭いいくせに まだガキなんだ。」

すみません。
まあいいや じゃあ 話に付き合えよ。
「何だ? 電話してたのか? ・・・あ! 茜ちゃんだろう?」
「はい。」

かーっ 臆面なく言うねえ 青春ボーイは!


「まあなぁ。 茜ちゃんキャワイイからな。 心配する気持ちはワカルよ。」
東京には粉かけてくる奴が 山ほどいるだろうしな。
「・・・やっぱり そうですよね。」

あ? なんだお前 凹んでんの? 
大丈夫だよ! お前みたいなハンサムは 東京にだってそうそういねえさ。


「食堂の婆ぁさんの・・ きれいな孫娘 なんてったっけ?」
「香織さん ですか?」
そうそう。 あの子なんかお前にぞっこんじゃん。 もてるよなあ・・ジュニは。

「高橋商店のピッコロだって 俺にはワンワン吠えるくせに お前にはキュウン♪だぜ。」
「三浦さんがからかって ピッコロのジャーキー取り上げて食べちゃうからですよ。」
「意外と美味いんだ あれがな。」

あっはっは・・。



ところでさ・・。
「はい。」
「大柴教授に言った論文の件。 考えてくれねーか?」
「・・・・。」
「お前が手伝ってくれたら すごく助かるんだ。」
「ええ・・。」
「頼むよ。 考えてくれ。」


“研究 がんばってね。 アタシ・・ ずっとここにいるから。”

アタシは その時 知らなかった。
電話で囁いたひと言が ジュニの背中を押したなんて。
「・・・三浦さん?」
「お? おう。」
「前向きに 検討します。」
「そ! そうか!」

上気した顔の三浦さんは ほくほく 部屋を引き上げて行く。


「茜さん。 本当に ・・ずっと そこにいてくれますか?」
ぽつり 残った部屋の中。
PC画面のアタシを見つめて ジュニは 薄く微笑んでいた。

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真由っぺ! ラフォーレのバーゲンへ行こう!


「な・・なんだなんだ? 茜ってば 異様に元気じゃん。」
ジュニが 帰って来たの?
「ううん! ジュニが戻るのは来週だ。 ねえ! バーゲン行こう!」


わかんない。
アタシはたった17なんだもん。 自分の道なんかまだ見えないし わかんない。
だから ジュニパパの言うとおり 好きなものの方へ歩いてみるんだ。

「それが・・・ ラフォーレのバーゲンなわけ?」
「違うよ。 どこへ向かうにしても カワイク決めて行くってのは 基本でしょ?」

だって アタシは女の子だよ。
出かけるとなったら 何着ていくかが けっこう大事じゃん。



「とりあえずは ハイウエストのキャミワンピ! 60%off を買う!」
ぐん! とこぶしを突き上げる。
何の根拠もないけれど 世界が 開ける気がしてくる。



そんなコト 空に向かって叫ぶコトか? 

真由っぺが  はぁ・・とため息をついた。

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