ボニボニ

 

JUNI それからstory 11

 




ジュニのいない 夏。


アタシは 図書館で勉強ばかりしていた。
真由っぺに 「受験すんの?」と聞かれても うまく答えられない。

アタシには・・まだ 目標が見えないから。


だけど後からその気になっても 勉強していなきゃ 受験もできない。
目標校を持たないままで とりあえず 勉強に熱中してみる。

友達に誘われれば 遊園地にだって 出かけたけれど 
遊びに行くとジュニの不在が よけいに寂しく感じられて
図書館の方が いっそ楽。 アタシは毎日帽子をかぶって 蝉時雨の中を歩く。

17の夏は 何だか 陽炎みたいに不確かに過ぎていった。

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アタシが神岡に行ったおかげでジュニが普通に戻ったと 三浦さんが電話をくれた。

「ごめんね茜ちゃん。 大事な恋人を仕事に閉じ込めちゃって・・。」


だけど頼むぜ 絶対 浮気なんかしないでくれよ!  そんなことになったら
あいつ 今度こそ本っ当に 死んじまうからさ。
「茜ちゃんはキャワイイから そりゃ 誘惑も多いだろうケド・・。 
 あんなに君を想う男は そうそういるもんじゃないぜ。 な?浮気するなよ。な?」
こっそり電話をかけてきた三浦さんは そんな風に さんざん念を押した。



ねえジュニ?  本当に いつものジュニに戻れたのかな。
ぼんやり 空に 聞いてみる。
「ごめんね・・。」

アタシは もっと 気をつけなきゃいけなかった。
ジュニは出力1000%で アタシを求める。
軽い気持ちでアクセルを踏んでしまったら ホイールスピンする『怪物』なんだ。
「もう絶対 あんなことはしないよ。」


あの時 三浦さんが教えてくれなかったら ジュニはどこまで壊れただろう。
会いたいからって 寂しいからって  安易に腕を伸ばしちゃ めなんだ。
寂しがれば ジュニはどんなことをしてでも そう たとえ自分を壊してでも 
アタシの願いを叶えるために 頑張り続ける。


“愛していますよ。 知っていますね?”

わかっている。 ううん 今度のことで 思い知った。
“ジュニに愛される”ってことが どういうことか アタシは やっと理解した。

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家に帰ると ママが盛大に卵を溶いていた。 苺、ラズベリー、バニラビーンズ・・


「ケーキを焼くの? 今日はなんか・・すごく豪華な材料だね。」
「う~ん。 だあって・・。生クリームと果物たっぷりのを食べたいですって 言うから。」
「言うからって 誰が?」
「ジュニちゃんが。」
「ジュニ?」

うん。 こんな時間にいきなり帰ってきて お夕飯にケーキを付けてくれって言うのよぉ。
「ねえ そこのゴムべら・・ あ! 茜! ちょっと!!」

30メートル 全力疾走。 

半分つっかけちゃった靴が脱げそうだけど 走り出した身体が止まらない。
カンカンカンカン・・と もどかしく階段を駆け上げると 
ジュニの部屋へ ばーんと飛び込んだ。


「!」
「きゃあああああああ!」

いきなり 回れ右。  逃げようとしたアタシは 裸の腕につかまえられる。
「ご・・ご・・ごめんなさい。ノック・・。」
「かまいませんよ。 とてもいいタイミングです。」
そのままふわり と抱き上げられた。

待って待って待って待って!!
「大丈夫です。 ちゃんとシャワーで汗を流しました。」
「アタ、アタ、アタシは 走ってきたから!」
「いいです。」

だめ~~~~~~~~~~~~~~~~~!!


わたわたと抵抗するアタシをすり抜けて ジュニはアタシを剥いてゆく。
「いやだ、いやだ、いやだ! だめ!」
「もう止まりません。」

指はいや! む、胸に汗かいちゃったから そこもいや!
「もう あきらめなさい。」
ジュニの馬鹿ぁ!! こ、恋人同志だって合意がなければ・・ゴーカ・・ン・・ぁ・・・

「うふふ♪  茜さん。 ただいま帰りました。」
「お・・かえり・・。」
「寂しかったですか?」
「ちょっと・・。」


いつも茜さんを寂しくさせて ごめんなさい。 ジュニが ゆっくり動き出す。
「愛しています。 知っていますね?」
アタシの上で揺れる肩から ボディソープがふんわり香った。


“ご挨拶”が終わってから ジュニは アタシを抱き上げた。
ぎゃあぎゃあ騒ぐアタシをバスルームに連れ込んで 鼻歌まじりにゴシゴシ洗う。

「ほーら ぴかぴかです。 これなら キスしてもいいですよね?」
ここにも いっぱいキスをしたいから ソープをいっぱい。 
ふんふんふん・・・♪
「やだやだ! ちょっと! じ、自分で・・!」
「遠慮しなくていいです。」
・・って いや ジュニ。   普通は 遠慮したいだろう。

ジャバババー!! って すんごい勢いのシャワー。

「ぶわっ!」
「しまった 自分が使った時のままです。 大丈夫ですか?」
「何・・とか。」

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やっと体勢を立て直したアタシは 拭いてあげるというジュニを 断固拒否した。

ジュニはご機嫌でベッドにもぐると さあさあ と両手を広げて招く。
こいつってば すげーハイテンション。  今日は 別の意味で壊れている。
もじもじベッドに近づくアタシを バスタオルごと引き込んで
ぽいと タオルだけベッドの外に投げ捨てると ぎゅううっと 抱きしめる。


「茜さん つるつるです。 ふふ・・。」
「ねえ ジュニ? 今日は 突然どうしたの?」
帰ってくるなんて 言わなかったじゃない。

「ええ。 今日だけは 茜さんの傍にいたくて 三浦さんに無理をお願いしました。」
「・・? 何だっけ? 今日。」
「僕の 誕生日です。」
「え?」

「僕 20才になりました。」

絹がはらりとほどけるように 柔らかく ジュニが笑顔を見せる。
アタシは何を聞いたのだろうと ゆっくり脳ミソを動かしていた。
20才。  永遠にそんな年齢が 自分に来るとは 思えない。


「とても嬉しいです。 僕は もう“大人”です。」
ずっと ずっと 待っていました。
高坂パパに 約束をしてもらった日から どれほど この日を待ったことか。
「茜さん。 お嫁にきませんか?」


ジュニ・・。

最初に会った瞬間から アタシは ジュニに驚かされっぱなし。
もう何があっても驚かないと 思った矢先から 口が閉まらない事を聞く。

「パパさんは 僕が 大人になったら 茜さんをくれると言いました。
 まだ学生ですが・・。 僕 絶対 茜さんを幸せにします。」
「ジュ・・。」
アボジと 約束していたんです。
僕が20才になった時 もしも茜さんが 僕のプロポーズを受けてくれたら
働き出すまでの結婚生活を援助してくれるって。 ・・もちろん 後で返しますよ。

「だから 僕の お嫁さんになってください。」
「・・・・。」
「茜さんが大学へ行くなら 僕が行かせてあげます。 籍だけでも先に入れましょう。」
「・・・・。」

えーと・・・ 
アタシは高校生だ。 自分の進路も 決まっていない。 それが 結婚?

「茜さん?」
「・・・出来ないよ。」
「どうしてですか? 僕 茜さんを お嫁に欲しいです。」
「ジュニのお嫁さんには なる・・つもりだけど。」

いきなり大きな手が 両頬を包む。
熱い唇がやってきて アタシをきつく吸い上げる。
そのままジュニがかぶさってきて  唇が うなじへ降りてゆく。
「ありがとう 茜さん。」

だ・か・ら 待って!
「ま・・だ・・。 でも今は だめ。」
自分の人生が見えないのに ジュニのお嫁さんになりたくないの。
ジュニは ぷうっとふくれっ面。 人生なんて結婚してから じっくり探せます。
「やだ!」

自分が何者だってわからないうちに ジュニのお嫁さんになってしまったら
「ジュニの奥さん」にしか なれない気がする。
それじゃ アタシ嫌だよ。
「僕の子どものお母さん」 にも なれますよ。
ベッドに片肘をついたジュニは いたずらそうにアタシを見る。


「・・ふふ。 いいです。 僕 茜さんは きっとそう言うだろうと思っていました。」
「え?」
「子どもの頃から決めていた事だから 一応 キリをつけたかったんです。」

20才になったその日に 茜さんにプロポーズして お嫁さんになってもらうんだ。
僕は昔から 本当に 真剣に そう思い続けて来ました。
アボジにもハルモニにも 誕生日毎に くどいほど念を押してね。

「でも 実際20才になってみたら・・・。 自分は まだ てんで子どもでした。」
茜さんをお嫁さんにして 幸せに出来る自信も 正直 半分くらいです。


「それでも 言ってみたかったんです。 ずっと心に決めていた事だったから。」
「なあんだ。」
「茜さんから 僕のお嫁さんになるつもりだって聞けて 良かったです。」

はあ・・。  ちょっぴり アタシは気が抜ける。
ジュニは 嬉しげにアタシを見下ろすと もう一度にっこり プロポーズをした。
「茜さん。 いつか 僕のお嫁さんになってくれますか?」
「えへへ・・。 はい ふつつか者ですが よろしくお願いします。」

夢みたいだな。
20才になって 本当に茜さんにプロポーズが出来て 茜さんが 受けてくれる。
「僕の 最高の誕生日です。」



あ! 大変!
「ジュニってば 前もって言わないから アタシ 誕生日のプレゼントがないじゃん。」

にっと 口いっぱいの笑い顔。
「大丈夫です。 わかってますね? 僕の欲しいもの。」
「ぐぅ・・・。」
「プレゼントはもらいます。 20才のお祝いなんだから いーっぱい です。」

あぁでも お夕飯まで間が無いな。 お風呂で ちょっと遊びすぎました。
しかたがない。 残念だけど 急ぎましょうか。
早く早くと 忙しそうに ジュニはアタシを抱き寄せた。

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今日は一体何の お祝いだ?

珍しく早く帰ったパパが テーブルを見て聞くくらい 
その夜は 豪華な食事になった。
ママは冷蔵庫をひっくり返して すごく素敵なディナーを作った。 ママ サンキュ!


何だ? ジュニの20才?
「早く言ってくれたら プレゼントでも買ったのになあ。」
上機嫌で椅子を引くパパに ジュニは しおらしい顔で言う。

「いいえ。 20才と言っても 僕なんて ちっとも立派な大人じゃないです。」
「何を言っているんだよ!! いい大学行って 学生のうちから 立派な研究をして
 ジュニが立派な20才じゃなかったら 誰をそう言うんだ?」
ビールをぷはっと飲みながら 至極上機嫌なパパ。
ちら・・と ジュニがアタシを見る。 キュッと いたずらそうにウインクをする。
「?」


「パパさん。 ・・・僕は 立派な20才になれたでしょうか?」
「ああ! お前は立派な20才だ。 ジウォンも喜ぶよ。 電話したか?」
「僕が 立派な大人になったら 茜さんをくれるという約束でしたね?」

ブーッ!!  
パパが いきなりビールを吹く。 んもぉ・・きったないなあ。
「今日 僕 茜さんにプロポーズをしました。 籍だけでも早く入れたくて。」
「ぶあっ!! せ、籍って。  お・・い ジュニ!!」

唇に泡をつけたまま パパは 目を白黒させる。
ジュニってば ポーカーフェィスでパパをからかっちゃって。 この悪魔。


「えー? もう結婚するの? やだ~! 着物作らなくちゃ!」
ママはね!ママはね! 着物は袷にしたいのよ。 最低でも式は 10月以降ね!
あ!でも お仕立ては時間がかかるから できれば年明けにしてくれない?

ママってば ・・・物事を咀嚼するより前に アナタは 対応が早すぎる。

「茜さんは お嫁さんになってくれるそうです。 ・・もう少し 大人になってから。」 
「は・・・。」
「パパさん。 その時は いいですよね?」

勝手にしろ。 お前が婚約のなんのと言い出した時点で 俺は 茜をやったつもりだ。
この野郎。 きっちり念を押しやがって 親父と違って しっかり者じゃねえか。
パパは半分ムクレ加減。  ジュニはすごく嬉しげに アタシの肩を抱き寄せる。

♪Happy birthday dear JUNI.
  Happy birthday to you.


その夜パパは ジュニに無理やりお酒をすすめて 2人揃って酔っ払いになった。
客間に布団を敷いたけど ジュニは そこまでも歩けなくて
リビングのソファに やっと寝かせた。


夜中に 様子を見にいくと ジュニは だらんと腕を投げ出して寝ていた。
大丈夫かな? ソファにひざまずいて 覗きこむ。

お嫁・・さんに ・・来てくれますか?
「起きてるの? ジュニ。」
「・・く ○%&※・・。」
「なんだ。 寝言か。」

くうくう と ジュニは 丸くなって眠る。
今日ここへ来るのだって きっと 大変だったんだろう。
ジュニの手を そっと 胸に抱く。  ジュニ お誕生日おめでとう。

「愛してる。」

きゅっと ジュニの腕を 抱きしめる。
熟睡しているはずなのに 温もりに 反応したのかな。
もみもみ・・とジュニの手が アタシを 愛撫するように動いた。

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