ボニボニ

 

JUNI それからstory 23

 




「・・・・大丈夫ですか? 本当に 1人で帰れますか?」


平気だよ。 品川まで戻れば あとはいつもの通学路ジャン。
「嫌だな・・。 こんな風に茜さんを置いて行くなんて 僕は やっぱり嫌です。」
うふふ♪  見送りデッキで泣いちゃおうかな~。

「・・・そんなことをしたら 僕は 行きませんからね。」



常務さんの件が一段落したので ジュニは 神岡を引き払いに行くことになった。

2人の遠距離レンアイも これで終わりだから
最後ぐらいは空港へ行って お見送りをやってみたいよ。
アタシがそんなわがままを言うと ジュニは 本気で困った顔をした。



ピン、 ポン、 パン、 ポーン・・・♪

搭乗案内のアナウンス。

う~カッコイイ! 映画みたい! アタシはドラマの主人公気分だ。 
きゅっと肩なんかすくめちゃって 祈るように 両手を組んでみる。
「行かないで・・・ ジュニ。」


「はい。 では 切符をキャンセルしてきます!」
「・・・あのね。」
ジュニが神岡へ行かないと いつまでも向こうを引き上げられないジャン。
もうアタシは寂しくならないんだから ちょっと「遠恋」気分がしてみたいの!

アタシが呆れてむくれると ジュニは ふんわり困って笑う。

「そうですよね。 ・・判っては いるのですけれど・・。」



たとえ一時のことだとしても 茜さんと「別れる」なんて
その シチュエーションが辛いです。

はぁ・・。
きれいな顔をゆがませて ジュニは切なげに首を振る。
周りの人から見たら きっと彼は 「永久に去ってゆく人」に見えたはずだ。



“ANA887便にご搭乗のお客様・・・”

「ねえ茜さん? キャンセル切符を買って 一緒に向こうへ行きませんか?」
「もおぉ。」
「・・・・すみません。じゃあ行きます。 心から愛しています 知っていますね?」
「うんうん♪」
茜さん嬉しそうですね。 奴は ちょっぴりワニ眼になった。


「もう行かなくちゃ ・・・茜さん!」
ジュニはアタシを抱き寄せて ドラマのように 大げさなハグをする。
「ずっと ずっと 僕のものです。 そうですよね?!」
「・・・ん・・ぷ・・・。」

お取り込み中のジュニには 申し訳ないけれど

盛大に 抱きしめられたアタシは ・・・・肋骨が 少し痛かった。

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卒業式が近くなって 式で着るローブが出来あがってきた。


外国の学校みたいなこのローブは けっこう アタシたちの憧れで
皆でキャアキャアふざけながら お互いの姿をケータイで撮りあう。

だけど ひとしきり笑った後で  何だか ・・・少し 沈んでしまった。


「大学に行ってもさ・・。 絶対 会おうね。」

“外”へ行く事が決まった友だちが ぽつん と置くようにつぶやいて
皆の笑顔が ぎこちなく揺れる。
「ずっと 友だちだよ・・・。」
「うん・・。」



中等部に入りたての頃。 アタシたちは まだほんの少女だった。

駆け出す時なんか 色気もクソもない大股で
チョコレートと 山盛りのソフトクリームが大好きで。
「彼氏」とか「恋人」なんていう言葉には 全然 現実味がなかった。

きれいな先輩に憧れて 賛美歌の練習をのぞき見したり、
香水がわりに スカートの裾へ バニラエッセンスを垂らしたり。

そんな時間を 一緒に過ごした。


“女子高生”になったって 歯ぐきを見せて 大笑いだった。

渡り廊下で ダンスの振り合わせをして
掃除のモップで 布袋寅康を真似る。
そのくせ 電話で何時間も悩みを相談しあう 無邪気と繊細のアンバランス。


ちょっとのことで 1日笑えて
ちょっとのことで 死ぬほど落ち込む。

自分や友達が世界の99%で 滑稽なくらいに 自意識過剰。
だけど・・・ 胸の真ん中に 切ないほどの透明さを抱えていた。

6年という時間をかけて ゆっくり ゆっくり 少女を脱いで
今 脱皮した抜け殻の上で 
アタシたちは 最初の羽根を 拡げようとしている。


「・・・卒業 かぁ。」

そして高校生活は あと数週間で終わろうとしていた。

-----



家に帰ってローブを見せると ママは ものっすごく長い時間黙り込んだ。


家族が趣味だ と言い切るママだもん
アタシの卒業ローブを見て 思う所がいっぱいあるんだろうな。

ここまで 育ててくれたママに ありがとう。
永らくお世話になりました・・って。 あ? これじゃまるで嫁入りか。
ちょっと気が早かったね てへへ。


「茜?」
「うん。」
「高校出たら 結婚しない?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?


しょーじきじーさんポチつれてーきはいくマンありとてモモからうまれたもしもしカアカアからすがハトポッポッポ~っととんであそベラボーでこんちきしょうでやっつけろーさつきはコイのふきながし なんてマがいんでしょーじきじーさんポチつれてー・・・・



「高校を出たら ジュニちゃんと 結婚しない?」

「マ・・・・マ・・・?」


あんまり どびっくりしたものだから 反対側も肋骨が折れた。(気がした)

ジュニの一撃は そりゃあ ものすごかったけど
・・・・・・ママの一撃ときたら  バズーカ砲だよ。


「前にジュニちゃんが倒れそうになった時から ・・・ママ 考えていたの。」

あなた ジュニちゃんと結婚する意志は しっかりしているんでしょう?
「う・・ん。 まあ・・。」
「ジュニちゃんは 今が一番 脆いと思う。」
「・・・。」

あの子の「未来」に心配はないの。 心配なのは「今」だけなの。
ジュニちゃんだって 将来を考えなくちゃいけない。 
「今」は彼にとっても すごく大事な時期なのに・・。 
「あの子は 茜のことが気になって気になって 仕方がないのよ。」


ママは アタシのロ-ブを抱えると 裾をさばいてハンガーへかける。
これ 2センチ丈を詰めた方が素敵ねって
・・・まったく ママのこだわりレベルは すごいよ。



「茜 知らないでしょう?」 

ジュニちゃんたちの研究 アメリカの何とか言う基金のコンペに入賞したのよ。

「・・・え?」
「この前は そのレセプションで発表するために 資料を作り直していたの。」
そんな時なのに  ジュニちゃんってば 常務さんとあんな騒ぎで。
三浦さんにだって 多分 いろいろ迷惑をかけたと思うわ。


茜がお嫁さんなんて。 ホントは まだまだ早いのよ。
「・・・だけど 問題はジュニちゃんなの。」
あの子は 茜と結婚をしてしまったほうが 落ち着くんじゃないかな。
「・・・・・。」



ママは少しも笑わなかった。
多分 ずうっと 考えていたんだ。
アタシのために ジュニのために どうすることが一番いいかって。


「・・・茜は どう?」

ママはね 茜を信じてる。 あんたは芯のある子だから 
学生結婚をしても 自分の道を見つけることが出来る。
茜とジュニちゃんが学生の間は 今まで通りパパとママが 生活を見てあげる。

「“結婚”と言う事実があれば ジュニちゃんの不安定さが 減ると思うの。」
「・・・・・。」


急がないから 考えてみて。 
ママはそう言って立ち上がる。

アタシは 入力データ容量の大きさに 頭がフリーズしたままだった。

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ポトン・・・・。  開いた口からハムカツが落ちた。


「げっごん?!」

「ばっ! 声がでかいよ! ・・・・うん。」


3秒、ルール。 
ランチマットに転がったハムカツを 真由っぺは もう1度口に入れる。
揚げ場のおばちゃんが引退して 三河屋のハムカツもイマイチになったそうだ。

「だって茜 まだ18じゃん? これから遊びざかりでしょうが?」

「だから・・ 余計さ。」
短大生ともなれば コンパだ サークルだナンだって あるからさ。
「あぁねぇ。 その度にあの巨神兵が ピシュワゴーン! と火を噴いて。」
「うるさいなぁ・・。 巨神兵じゃなくて ラピュタのロボットだってば。」



ママが言ったこと。  アタシもあの後 ゆっくり考えてみたんだ。

最初に聞いた時は 一体 何を言い出すのかと驚いたけれど
常識も 世間体も 人がどう思うかも無視して ジュニの事だけを考えたら 

・・・けっこう 「それはアリ」の選択かもしれなかった。



「でもさーぁ。 若く結婚して 主婦兼学生なんて大変ジャン?」

・・・・それはさ。 学生の間だけは ママが助けてくれると言ってるんだ。
「とりあえず籍だけ入れるって感じかな? 花嫁修業しながら学生。」

ふぅん・・。 
「でも結婚とかしてると 就職にひびかない?」
「そこだよね。」

だけどね。 ママは 言うんだ。
ジュニと本気で生きていくなら ジュニを織り込んで将来を考えろって。
「やるねえ・・。 茜のママって。」
「すごいでしょ? マジに アタシもまいったよ。」



・・・で? ウエディングドレスは どんなのにするの?

納得してハムカツを飲み込むと 真由っぺの疑問は もう現実的になった。
もちろん式には呼んでくれるよねって。

だ・か・ら!  問題は まだ そこじゃないから!!

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結婚なんて 「いつか ソノウチするつもり」のことだった。
こんなに早く 自分に関係のある問題になるとは 思わなかったな。
だけど・・



「あ・か・ね・さん♪」

そろそろ デスクトップを梱包するので ビデオチャットも最後です。
「これが最終交信ですね・・。 とても寂しいです。」

ビデオビューアの中のジュニは すっごく 悲しそうな顔をしている。
・・・あのねえ? ジュニはそこを片付けて 東京へ帰って来るんでしょ?
「そうですね・・・。」

だけど このビューアで見る茜さんは
「僕にとって 本当に 本当に 大切なものでしたから。」
この茜さんと会えなくなるのも それはそれで辛いんです。


「・・・・・。」
もう・・・ジュニってば。アタシは顔が赤くなる。 「ねえ ジュニ?」

「三浦さんの研究って・・賞を貰ったの?」
ああそうです。某ファウンデーションのコンペにちょうど出せて 良かったですね。
「ジュニも・・誉められたんでしょ?」
「いいえ 僕はただの助手ですから。 あまり関係ありません。」

うそつき ジュニ。 

今はね 日本にいたってウェブでいろいろ調べられるんだよ。
三浦さんと一緒に ジュニを誉めてる文だって 翻訳機にかければ読めるんだよ。

ジュニには ものすごくいっぱいの才能がある。
トライさえすれば開けるドアも 手に入れられる栄光も 山ほどある。
なのにジュニはその両手で ずうっと アタシを抱きしめているんだ。

“研究は 後からでもできます。 
 でも茜さんは 今捕まえないと 手に入らないかもしれないですから。”

・・・本当かな?
ジュニが失い続ける機会は 本当に ジュニを待ってくれるんだろうか?


「・・茜さん? どうしたんですか?」
ねえ ジュニ。
「はい。」




「結婚しようか。」


「・・・・。」



アタシが高校を卒業したら とりあえず 籍だけ入れようか。
・・・・ママが そうしてもいいんじゃないかって 言っているんだ。



“僕は 茜さんと結婚するんですから。”

“パパさんがくれるって言ったから。 僕は茜さんの婚約者です!”

“本当ですよ。 茜さんしか 愛せない。”

“茜さんが 僕の価値です。”

“茜さんを誰にも盗られないように しっかり僕のものにしたいんです。”

“僕だけのものだと 言ってください。”

“どこかへ行っちゃだめです! ・・・僕のです。”

“よそ見はだめです。 茜さんを 逮捕です。”

“たとえ他の人には輝安鉱でも 僕にとって 茜さんはダイアモンドです。”

“心から 愛しています。 知っていますね?”




「結婚 しようか ジュニ?」

ガターン・・・!!

ビデオビューアのジュニが消えて カメラが 天井を映し出す。
ガタガタと人の動く音がして やっと ウェブカメラが固定された。
ビューアの中では 慌てふためいた三浦さんが こっちを見たり 奴を見たりする。

「あ・・れ? ・・・・茜ちゃんかい?」
「はい 三浦さん。 こんばんは。」


なんだぁコイツ? オバケでも見たような顔をしているぞ。 「おい!」

あ~あだめだこりゃ 完全に腰を抜かしてるな。 おおいジュニ? もしも~し?
「・・・茜ちゃん コイツに何言ったの?」


「えへへ 内緒です。」

今日はこれで帰ります。 ジュニ ばいばい。



ジュニのPCの電源を落として アタシは 走って家に帰った。
・・・これで 良かったのかな?
だって アタシの気持ちを最初に言うなら 相手はやっぱり ジュニでないと。


お風呂の中で思い出しては お湯に沈んで ブクブク笑う。
ジュニってば すごく可愛い驚き顔だった。
ぷぷぷ・・・
「今頃 どうしてるかな?」



お風呂の後で携帯を見ると 着信メールが 全部ジュニからだった。


『さっきの話は 本気ですか?』
『さっきの話は 本気ですか?』
『さっきの話は 本気ですか?』
『さっきの話は 本気ですか?』
『さっきの話は 本気ですか?』
『さっきの話は 本気ですか?』

『本当だったら ・・嬉しいです。』

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