ボニボニ

 

JUNI それからstory 番外編2 -男 高坂総一郎 後編-

 





すっかり バレバレらしいんだけど・・・。


俺は 真紀ちゃんに 何も言えなかった。
こっちが 告白しない以上 いくら真紀ちゃんでも 俺を振ることは出来ない。

ずるいな 俺。
でも もう少しだけ。 真紀ちゃんの近くに いたかったんだ。


「高坂! 『ドルフィン』へ 行きましょう!」
ジウォンの奴は マイペースさを遺憾なく発揮して 俺を 目白へ引きずって行 く。
「この辺では あそこのチーズケーキが ダントツです。」

ジウォンは 思った以上に甘党で 真紀ちゃんと話すようになってからは
美味しいケーキ屋さん巡りなどという 気持ちの悪い事に 俺を 誘うようにな った。

「行かねーよ! ケーキ屋なんか。」
「ええ? 行きましょう。 高坂が行かないと 僕 真紀ちゃんと2人きりで  照れくさいです。」
「・・・・真紀ちゃん? ・・・誘ったのか?」
「彼女が 一緒に行こうと言いました。」


真紀ちゃんは きっと ジウォンの事が好きなのに 違いない。

のっけから 俺のことを言われてしまったんで 何も言えなくなっているのだろ う。
ジウォンの方は 残念ながら(?) 真紀ちゃんに気がないみたいで
彼女を 「俺の想い人」として扱っている。


・・ごめん 真紀ちゃん。

屈託なくケーキを頬張る真紀ちゃんとジウォンを 真ん中で見ながら
俺はいつも少しだけ 引け目を感じて 縮こまっていた。

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総ちゃーん。 ジウォンさんのお部屋で お鍋しようか~? チーズ・フォンデ ュ。

「おお いいねえ。 ・・・でも それなんだ?」
「やだ~知らないの~ 総ちゃん? チーズを溶かして パンをからめて食べる の~。」


知り合って 半年。
真紀ちゃんは 俺を 総ちゃんと呼ぶ。 ジウォンのことは ジウォン“さん” 。
恋する乙女の恥じらいが 彼女に ジウォンを 気安く呼ばせずにいた。


ぐつぐつぐつ・・・

土鍋に チーズが溶けている。 真紀ちゃんは 盛大にフランスパンを切って
いっぱい食べてね と にっこり笑う。
硬いチーズが一体どうやったら溶けるんだ? と思っていたが
真紀ちゃんは ドボドボワインをついで 見事に チーズを溶かして見せた。

ぐるえるチーズだか なんだか知らないが チーズ・フォンデュって めっぽう  美味い。
ワインを盛大に使うだけあって 
食べるうちに ふんわり 軽い酔いがまわった。


「あのね~。 フォークからパンを落としたらね~。 右隣の人に キスするの ~。」
上機嫌な真紀ちゃんが パンをふりふり いたずらそうに笑う。

え? ・・・なんて言った? キス・・?
「スイスの~ おまじない遊びなの~。  あ~ 総ちゃん わざと落としちゃ だめよ~。」

ちょ・・ちょ・・ちょっと待て!!  今 俺たちの位置関係は どうなってる ? 
反時計まわりに 真紀ちゃん→ジウォン→俺→真紀ちゃん。
「・・・・・・。」

真紀ちゃんはひょっとしたら パンを落として ジウォンに キスを・・・した いのかな。
俺はなんだかうつむいちまって うまく 笑顔が作れなかった。
「あ!  僕 落としました。」
「げ。」

高坂! ではチュ~~~!! 

「わあああああ!!  やめろやめろ 俺にその気はない!」
いいじゃないですか。 僕らは『半同棲の間柄』です と ジウォンの奴が 陽 気に笑う。


生活能力皆無の ジウォンの野郎が ポロポロパンを 落とすので
俺は 数えたくもないほど 男にチューされる羽目になった。

「よ・・と・・とと。」
フォンデュのワインに ほろ酔いになって 真紀ちゃんがフォークを 扱ってい る。
すわ落ちるかと思ったパンを 真紀ちゃんはくるりと チーズで巻き取る。
真紀ちゃん・・。 それじゃ ジウォンに キス出来ないぞ。

「あ・・?」
俺のフォークにパンがない。 慌ててチーズをかき混ぜると 鍋の底に 見つか った。
急いで パンを刺し直して 知らないふりで持ち上げる。
「高坂は 落としましたよ。 ペナルティ! 真紀ちゃんにチューです。」


ば、馬鹿野郎! 
好きなお前が見ている前で 俺にチューなんかされたら  ・・・真紀ちゃんは  嫌だろ?

「やーい! 下手っぴ。 ・・総ちゃん ホレ。」
総ちゃん ホレって?   真紀ちゃんは得意げに こっちへ 頬を突き出して くる。
・・・・酔ったか? 真紀ちゃん。

それでも俺は 神様に 涙を流して礼が言いたくなった。

オトコ、高坂総一郎。  冥土の土産だ。 有難く 真紀ちゃんの頬にキスをさ せてもらおう。
ドキドキもので 唇を寄せて そーっと 頬へ口づける。
真紀ちゃんの頬はふっくらと 俺の唇を 押し返した。 

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」

真紀ちゃんは きょとん と俺を見つめている。
しまった! これはペナルティでやるような チューじゃ ないよな。
だけど 俺・・・・。 もう 限界なんだ。

「高坂。 僕 ちょっと 煙草を買ってきます。」
ジウォンの野郎が わざとらしく ポンポン服を叩きながら 席を立ってゆく。
もうだめだな。 俺はこれで 真紀ちゃんの男友達から 「滑落」だ。


「ジウォンさん 行っちゃったねえ」。
真紀ちゃんは なんだかぎこちなく パンで お鍋をかき混ぜている。
フォークにくるりと 巻き取られたパンが ぽとり とチーズの水面に 落ちた 。

「・・・・・・。」
「ジウォンさんがいないから。 総ちゃんが 右隣ね。」
「え?」

チュ・・・。
固まってしまった俺の頬で 真紀ちゃんのキスが 小さな音を立てる。
なあ 真紀ちゃん。  ジウォンに チューしたかったんだろ ・・・いいのか ?
「え? どうして~? 彼氏の前で。」
「えっ?!」

えっ?! えっ?!  えええええええええ?!

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俺は この夜 初めて知った。

この半年。  真紀ちゃんは 俺とつきあっていると 思っていたんだそうだ。
「でも 俺・・・。 真紀ちゃんに 好きとか・・・言ってないよね?」
「う~ん・・・。 まあ それはそうだけど~。」

総ちゃんてば ケーキを買って行った相手が男だと わざわざ いい訳しに来た し~。
ジウォンさんが 高坂は 真紀ちゃんが大好きですって 言ってたし~。

「だから総ちゃんは アタシのことが 大好きなんだな~って 思ってた。」
「・・・・・・・。」
総ちゃん 照れくさがりだから 好きとか言えない人なのかな~って。
「違うのぉ~?」
ま・・ま・・真紀ちゃん。  ・・・君って 思い切りコアなことを 聞くコだ ね。
「・・・違いません。」

じゃあ~。 「つきあっている」で いいんじゃな~いって
のんきに笑って 真紀ちゃんは パンを刺す。


全・然 良くない。
俺はこの半年。 真紀ちゃんに 『報われない恋』を し続けていたんだぞ!!

「お 俺! ・・・真紀ちゃんが 好きだ!」
「え~? だから~それは~ もう知っているよぉ。」
「・・で、でも 段取りとしては言っておかないと。 ま、ま、真紀ちゃんは? !」
「好き~。」
「じ、じ、じゃあ! つきあって下さい!」
「だから~あ  もうず~っとぉ~ 付き合っているでしょ?!」
「・・・ぐぐぐ。」

そ・う・じゃ・ な~~~~い!


俺ってば 恋の始めのときめく日々をすっとばして
真紀ちゃんの 「彼氏」になっていた。 当の自分も 知らぬ間に。
幸せかって聞かれたら そりゃ ま・・ 幸せなんだけれど。 こんなのってな いよな。

月見うどんを食いたいな~と 思ってたら
ご丁寧に 卵を壊したうどんを どうぞって 出されたみたいな気分。
そりゃ 卵を壊すよ 食べる時は・・ 

だけど 月見うどんは 「卵の割り時」というものが 大事なんだ!
・・・・いや。 問題は 月見うどんじゃない!  真紀ちゃんだ。
「ね・・ねえ・・。 あの 真紀ちゃん。」



ね~え もう食べないの~? と 少しだけ 真紀ちゃんの眉根が寄る。

お料理自慢の真紀ちゃんは 相手の「食い」が悪いと てきめんに機嫌が悪くな る。
高校時代 BFの草野球に お弁当持って応援に行って
蓋を開けた弁当が乾くまで 試合のことを喋っていたそいつを 一発殴って別れ たそうだ。

「食べる!食べる! ジウォンのいないうちに食っちまったら あいつが 怒る かなって・・。」
「大丈夫~♪ まだチーズあるし~。ケーキも焼いてきたんだ~。」


もじもじもじ・・・。  
俺は ブリキの人形みたいに パンでチーズをかきまぜる。

「俺・・ 僕たちは つきあって るの?」
「だから そでしょ?」

もじもじもじ・・・。
ポトリと チーズにパンを 落とす。  横眼で見たら 真紀ちゃんが呆れてい た。
「総ちゃん。 ・・・それは 思い切りわざとかも。」
「お願い。」

しょうがないなあって 真紀ちゃんが 頬っぺたをこっちに寄せてくる。

「・・・・あの・・・・・口には?」
「ダメ!」
「・・ど、どうして・・・?」
「作るの 見てたでしょ?! 結構ニンニク入れたんだよ。 だからダメ。」
「・・・お、俺。 ニンニクぎとぎとのラーメンが大好きなんだ。」

真紀ちゃんが ぷーっと膨れたので もちろん 俺はあきらめる。
いくらなんでも これじゃ ムードがなかったな。 
 
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煙草を買ったついでに ジウォンは ワインを数本買ってきた。

デザートワイン なんてものがあるんだ。
真紀ちゃんは 甘くて美味しいって けっこうコクコク 飲んでいる。
「ま、真紀ちゃん、大丈夫か? ・・・もう 止めたほうがいいぞ。」

俺が 真紀ちゃんを止めたときには 彼女は目玉が トロトロしてて
アタシ もう眠くなっちゃった~って言って  勝手に 寝てしまった。


「ま・・・ま・・真紀ちゃんが 酔って寝ちゃって・・・その・・・・。」
洋子ちゃんに電話して 真紀ちゃんのアリバイ工作を頼む。
「あー 真紀はねー。 弱いからいつものことなんですよー。OK、OK、家に言っ ておきます。
 え? ジウォンさんの部屋なの? きゃー! じゃあ アタシも行きたいなー !」

真紀のこと 襲わないでねーっと気楽に言って 洋子ちゃんは 電話を切る。
冗談じゃない。  ・・・こっちは 心臓が喉までせりあがって それどころじ ゃねえぞ!


並べた布団の 真ん中が 俺。
いきなり 怒涛の展開で 俺ってば 真紀ちゃんと“ベッドイン”だ。
・・・正確に言うと “雑魚寝”だけど。

ジウォンは部屋に女がいるのに慣れっこで 今日は賑やかですねえと のんきに 言う。
俺は 寝ちゃった真紀ちゃんに おずおずと毛布をかけてやる。

「なあ ジウォン?  真紀ちゃんなあ。 ・・・・その 俺の彼女になった。 」
「・・え? ずっと前から そうでしょう?」

ああ・・・ こいつらってば。 ボケ具合が 同じレベル。
おまけに なんなら僕 他所で寝ますよって そんな気は 使わなくていい!!

「真紀ちゃんは イイコですね。 お料理に愛情がいっぱいです。」
「・・・俺の どこが気に入ったのかな?」
「顔じゃないですか?」
「お前なあ・・・。」

満員電車の時といい 今日といい 
真紀ちゃんは 俺の腕の中に いきなり「完全密着」してくる。
告白した日が 交際半年? おまけに一緒に寝るなんて 俺は 頭と心の整理が 追いつかない。


むにゃ むにゃ・・。

のんきな真紀ちゃんが寝返りを打って 俺を 全身硬直男にする。

「腕枕くらいは してもいいんじゃないですか?」
「・・・・・・・・・・・そうか?」

悪友の 嬉しいそそのかしに 俺の理性が 溶けてゆく。
腕枕を差し入れると 愛しさが満ちてきて 柔らかな身体を そっと抱きしめて しまった。
「うふふ 高坂。 襲っちゃだめですよ。」
「ば・・ば・・馬鹿言うな!」


毛布替わりに俺の腕を巻いて 気持ちよさげな 真紀ちゃんの寝息。
明朝目が覚めても 俺の彼女だと 君は言ってくれるのだろうか?


ジウォンも寝てしまった 夜の中。  
半信半疑の幸せの中で 
俺は 2人ののん気な寝息を 闇を見つめて 聞いていた。

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