Lusieta

 

この場所から ~ふたたびの陽射し 最終章 9~

 

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2006.1.17


―――――――― side アヤノ



「牧師さんは?」


「僕たちの事情は、来る前に全部伝えてあるんだ。

 午後からは、毎年震災の集いに招かれて出かけて、
 夜はかなり遅くなる。

 アヤノが泊まる部屋も用意してあるよ。

 あっそうそう・・・
 『明日の朝お会いしましょう』って。
 これ、伝言。

 たぶん気を遣ってるつもりだと思うよ。

 ふふ・・・楽しい人なんだ。」






   
私の記憶以上に小さな部屋だった。

ベッドと机と本棚、

それだけで部屋はいっぱいになっていて、
人がウロウロする隙間はほとんどない。

こうして二人で立つともう動けない。


「こんなに小さかったんだね。」


「うん。何もかもあの時のままだ。」


「・・・・・・・・」


「・・・・・・・・」



何も言葉にできず、胸がいっぱいになる。

きっとテヤンもそうだと思う。



「大丈夫?」


「うん・・・大丈夫。」




なんだかぎこちなくて・・・

私たち、変だ。



「アヤノ・・・・」

「ん?・・・・」




「僕が今考えてること、わかる?」



「・・・・うん・・・・

 私も・・・・今ここで、

 ・・・・・テヤンと抱き合いたい。」



「・・・・・・・」




立ったまま、見つめあう。

お互いの目の奥に宿る切実さを確かめ合う。



「いいの?」



「テヤン・・・

 この場所から・・・・

 私たちもう一度・・・・はじめたい。」



「・・・・僕も。」



もうこれ以上、なんの言葉もいらなかった。



テヤンの大きな手が、そっと私の頬に触れた。

確かめるように髪を梳き、

また頬に戻って、

長い指で唇をなぞった。


「テヤン・・・」


その手を両手で包んで、そっと手のひらにキスをした。

ずっとずっと私の涙をぬぐい続けてくれた、
その手にくちづけて・・・・君の名を呼ぶ・・・


「テヤン・・・」
       

テヤンが、かすれた声で
「はぁ・・」と小さく息を吐いて、私はぎゅっと抱きしめられた。


バランスを崩し、ふたりベッドに倒れこんだ。


そのとき気づいた。

私を見つめるテヤンの目から、
ぽろぽろと涙が落ちていることに。


「テヤン・・・」


テヤンは答えずに、
また髪をなで、頬をなで・・・

私のうなじに顔をうずめた。



「アヤノ・・・・僕は誰?
        ・・・・もう一度僕を呼んで・・・」


「あぁ・・・テヤン・・・
       テヤン・・・テヤン!・・・」



       テヤン・・・・ごめんね・・・ごめんね・・・

       君はテヤン。

       カイじゃない・・・・

       君はテヤン・・・・テヤン・・・




「もっと・・・・」


「テヤン・・・テヤン・・・・

      テヤンを愛してる・・・・

 私は・・・アヤノはテヤンを愛してる・・・・」




        テヤン・・・・

        声が涙で曇っていく
     
   
        テヤン・・・・



「アヤノ・・・あなたは僕のものだって・・・
         
 言って・・・・・・」



「テヤン・・・・」


「言って・・・・」



「・・・テヤン・・・私は君のものです。

 アヤノは・・・・テヤンのものです。

 ずっと・・・ずっと・・・

 アヤノを、テヤンのものでいさせて。」



「あぁ・・・・・アヤノ・・・

       ・・・アヤノ・・・アヤノ・・・」



ぶつかるような激しいキスが降ってきた。

吐息といっしょに、ふたりの涙も溶け合っていく。



       テヤン・・・・

       甘えてばかりの私を許して・・・

       テヤン・・・・

       こんなに何度も確かめたくなるほどの

       君の切実な思いを・・・

       私はどれほどわかってただろうか。

       テヤン・・・・

       君にいっぱい我慢させてるのは私。

       頭の中がいろんなことでぐるぐるしていて、

       テヤンだけでいっぱいにできなくてごめんね。

       でも・・・テヤンが好きなの。

       知ってるよね・・・・

       私がどんなにテヤンを愛してるか・・・

       テヤンじゃないとダメなんだってこと・・・

       ねぇ。わかってるよね・・・

       何度でも・・・何度でも言いたい・・・

       愛してる、テヤン・・・・






「テヤン・・・・」


「もっと・・・」


「テヤン・・・テヤン・・・

        あぁ・・・あぁテヤン・・・」




優しく指でさぐることもなく・・・・

甘くささやくこともなく・・・・


テヤンはただ必死に私の中を突き進む。


そして、何度も何度も懇願する、

          ただひとつのことを・・・・




「もっと・・もっと・・・あぁ・・・

        アヤノ、もっと・・・もっともっと僕を呼んで・・・・」
 


「テヤン・・・は・・ぁぁ・・・テヤン・・テヤン・・・

         テヤン・・・・・テヤン・・・・あ・・・」




テヤンが送り込む情熱の波に流されて、

遠のく意識の中でも、呼び続ける君の名前・・・



いくら呼んでも足りない。

私がこんなにもテヤンを愛してること、

どうしたら、ちゃんと伝えられるだろう。




ふたりいっしょに何度昇りつめても、

またすぐに、ひとつになりたくて・・・

何度でも、君の名前を呼びながら・・・




この場所で・・・

君の名前を呼びながら・・・





   ・・・・テヤン・・・・・

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