Lusieta

 

続・この場所から テヤンの宿題 3

 

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2006.2

     ――――――― side テヤン







目覚めると、まだ闇は深く、

時計はそれほど進んではいないかった。



いつもなら僕の胸に顔をくっつけて眠るあなたが、

今夜は僕を抱きしめている。


ふふ・・・無理だよ。


きゃしゃな腕を回して、

僕を抱きしめてるつもりなんだ。

肩先が全部出てしまって・・・

こんなに冷たくなってる。


風邪ひくじゃないか・・・・



寒そうに丸くなるあなたを、温かいブランケットの中に戻して

冷えた肩をくるんだ。



あなたが

『今日は、もう寝る?』

そう聞いた。


『うん・・・』

そう答えた。



それだけだった。


そうしたかった。

ただ、あなたの胸で眠りたかった。



こんな時、あなたは僕のしたいことを感じて

そのまま受け入れてくれる。



子どもじみたお願いも。

強引なわがままも。



前に、初めて母の話をしたとき、

あなたは

『なんでもしてあげる・・・・』と言ったね。



自分の全部で僕を引き受け、癒そうとするあなたの

そのひたむきさに、僕はただ甘えていたね。



でも、このごろすこし心配になる。

そういう時のあなたは、

僕以上に、僕の痛みを自分の痛みにしてしまう気がして・・・



あまりにも大きな痛みを知ってしまっているからだろうか。

瞬時に僕に同化して、

無意識に、それを全部自分の体に吸い取ろうとするような・・・

そんな一途さを感じるんだ。



人の痛みを引き受けすぎて

自分が血を流していても

それに気づかないまま相手を抱きしめていそうな・・・

そんな気がする。




いじらしくて・・・

     すこし、痛々しくて、

            すこし・・・・心配・・・




今日だって、僕はそのままあなたと肌を寄せ合って眠れたら

それでよかったのに。



なんだかあなたは、ぼくを煽ったよね。

それが、僕を癒そうとするあなたの気遣いだってわかってたよ。


神戸のホテルでいきなりキスしてきた時もそうだったよね。

あなたは否定したけど、ほんとは、わかってたよ。



ふふ・・・でも、こんどはちょっと驚いた。

ブランケットに潜って、すごいところにまでキスしてくるから、

ほんと、うろたえてしまった。



おかげで、僕は大変なことになっちゃったよ。



あなたはこういう時、捨て身で僕に向かってくるんだ。

愛しくて、

そんなあなたが愛しくて愛しくて・・・・



どうにかなってしまいそうだった。



それでも、あなたの白い体が熱を帯びて、

淡く染まっていくころには


僕はやっと自分のペースを取り戻して、

ゆっくりとあなたが溶けていくのを見た。



ねぇ、アヤノ

あなたと一つになると、どうしてこんなにも

温かで幸せな気持ちになるんだろう。



切ないけど温かで、苦しいけど幸せで・・・・



今日は・・・・

僕の目から熱いものが流れ出すのを、

止めることができなかった。



見るとあなたもまた、こめかみをつたう雫を

止めることができないでいた。



上から覆いかぶさる僕の目から、

ダイレクトにあなたの頬に雫が落ちる。



あなたが顔を上げて僕の目にキスをする。

涙も全部吸い取るつもりなの?



「テヤン・・・愛してる・・・愛してる・・・」

あなたが何度も何度もささやく。



わかってる・・・

わかってるよ、アヤノ。



あなたがささやくたびに、

僕のなかに『愛してる』がしみこんでいく。



「テヤン・・・・・あぁ・・・テヤン・・・」


「僕も・・あぁ・・・僕もだよ、アヤノ・・・

愛してる・・・愛してる・・・」




動き出した僕の下で、こらえきれずに声をあげるあなた。

大きくのけぞる背中を、逃げ出さないように捕まえると

あなたは必死に腕を回してしがみついてきた。



「アヤノ・・・いっしょに・・・いっしょに行こう・・・・」

「ん・・・・・」



あなたの爪が背中に食い込んで・・・

いいよ、しっかりと痕をつけて。



僕とあなたがひとつだという印を。








      ・・・・・・・・・







眠るあなたの髪にキスをする。

あぁ・・・アヤノ・・・

今この時に、あなたがここにいる。



一人だった頃、こんなふうに苦しい夜を

どうやってやりすごしていたのか、

今となってはもう思い出せない。




「テヤンが抱きしめていてくれるなら、神戸に行ける」と言った。

あの時のあなたの決意がどんなに大きなものだったか・・・

今あらためてわかる。

あなたはすごいよ。




そう・・・

だから僕も行かなきゃね。

あなたがいてくれるから、

僕も、その人に会いに行ける。



僕をこの世に送り出し、

今日まで一度も会わなかった人に。



あなたがいてくれるから・・・








                あ・・・

                アヤノ、モゾモゾと動き出して

                眠ったままで定位置をさぐってる。

                ふふ・・・・どこで落ち着くのかな?



               あれ?

               いつもと違う動きだね。


               ぐふふ・・・くすぐったいよ・・・

               アヤノ・・・・どうしたいの?

               イテテ・・・

               ・・・・髪をつかまないで・・・


               ・・・・やめて・・・イテテ・・・


              アヤノォ~・・・



              ぐふ・・・

              夢の中でも、僕を抱きしめようとしてくれるの?


              「テヤン・・・・」

              「えっ?・・・」

              「・・・・・・」


              ネゴト?・・・・

              う~ん・・・残念だ・・・



              僕はこんなふうに超ヘンな体勢で

              あなたに頭を抱きしめられたままじゃあ

              眠れそうにないんだけど・・・
          
              僕の顔は

              あなたの柔らかなふくらみに押しつけられて・・・・

              こんなシチュエーションで、僕にどうしろと?



              アヤノ・・・

              起きないよね。

              絶対にあなたは起きないよね。

              わかってるんだけど・・・・

              どうしよう。目が冴えてしまった。



              またあなたを愛したくなっちゃったんだけど・・・

              ダメだよね。このまま襲ったりしちゃあ。


              でも、あなたにも責任がある。

              眠りながらでも、今日はやっぱり僕を煽ってる。

              ふふ・・・・ずるいよ。



              あぁ・・・・

              ほんとにどうしよう・・・・


              アヤノ、

              あなたの胸の甘い香りが、

              僕を誘ってる。



              あなたは

              眠りながらでも、僕に・・・・



              「愛し合おう」って、
                
                     ねぇ、そう言ってるよ・・・

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