Lusieta

 

続・この場所から 三月の別れ・五月の花嫁 5

 

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       テヤンから、毎日メールが届いた。


       長い長い話もあれば



       『きょうはもう疲れちゃった。日本のお風呂に入りたいよ。


       おやすみ』



       それだけのものもあった。


       私も日記のようにして毎日書きとめ、返事をした。


       夜中の編集部で、PCをネットにつないで受信箱を確かめる


       『受信箱(1)』を見つけた時の私の表情は、


       誰にも見せられないと思う。






       テヤンが出発した日、エレベーターの中でサトちゃんに会った。


       いきなり「お前、大丈夫か?」って訊かれた。



       「うん、大丈夫。」



       「仲直りしたのか?」



       「うん。心配かけてごめんね。」



       「じゃあ、その・・・なんだ。」



       「ん?」



       「出発の時点でラブラブな状態で送り出したんだな!」



       「ら・・・ラブラブって・・・」



       「そうなんだな!!」



       「はぃ、そうです。」



       「それならいい。」



       「サトちゃん、なんだよ、それ・・・」




       「あいつがパーティー中止の挨拶に来たとき、


       俺『一発殴らせろ!』って言ったんだ。


       『約束が違うだろ!』って。


       そしたら『はい、いくらでも殴って下さい。僕は最低です。』


       って言いやがった。


       あいつ、マジでへこんでたぞ。」




       「そうだったんだ・・・」




       「そんでさ、『このまま、ふたり口訊かないまま出発したら、


       彼女どうなっちゃうかわからないから


       彼女のこと、見ててやってもらえませんか』って言いやがんの。


       バカだよな、あいつ。」



       胸が苦しくなった。



       「・・・・そうか・・・


       サトちゃんは、なんて?・・・・」




       「『おめぇ、バカか?』って言った。」



       「やっぱり」




       「『出発前に、ちゃんとオトシマエつけてから行け。


       そうじゃなかったら、お前自身がもたねえぞ』って。


       そしたらさぁ、あいつって、いい年して子どもみてぇだよな。


       『そうですよね。彼女とこのまま口訊けずに行くことになったら、


       僕は・・・つらすぎて・・・・』だってよ!


       もういいかげんにしろよな!


       高校生か、お前らは!」


       と言って、いきなり持ってたファイルで私の頭をバシッと叩いて


       エレベーターが止まった階で降りていった。






       派手なのは音だけで、全然痛くはなかった。


       一人残された箱の中で、ぼーっと立っていた。





       サトちゃん、いつもありがとね・・・・






       テヤン・・・


           ごめん。









・・・・・・・・・・・・・・・・・








3月○日


To テヤン

   ーーーーーFrom アヤノ





無事にバンコクに着いたのね。


よかったです。


テヤン、私はテヤン以外の人に肌を見せたりしないよ!


ブラウス、ほんのちょっとしか開いてないし。


心配性だなぁ、もう・・・





またテヤンの超恥ずかしい事件の伝説ができてしまったね。


ベスト3に入るよね。


それでも未だにダントツ第一位は、朝焼けの宙づり事件だよね(笑)


あれに勝てる事件は・・・・


一生起こらないでほしいです。




ベスト3のあと一つはね、


唯ちゃんの宿から帰る乗り換え駅のテヤン。


発車する電車からの大あわて絶叫事件(笑)




思い出すと、ほんと、ドジだなぁ~テヤンは。






テヤン・・・・


ここからは、まじめモードです。


出発前、私が泣いて怒って拗ねたから、


テヤンは自分の気持ち、言えないままだったんだよね。


出発ぎりぎりまで、私の心配ばかりさせて


私はテヤンのために何もしてあげないで、


ほんとにごめんね。


テヤンの辛さを知ろうとしないで、


鈍感でごめん。


今になって、すごくすごく反省しています。





反省して、しこしこ毎日お弁当作り頑張って、


テヤンが言ったとおり、


ちゃんといいもの食べて元気でいるから、


だから、許してください。


そして無事に元気で帰ってきて!





テヤンのために、胸をはだけて待ってるよ(笑)


      
              君だけのもの・アヤノより








    ・・・・・・・・・・・・・・・・







3月×日


To テヤン

     ーーーーーFrom アヤノ






テヤン、お父さんの会社に行ってきたよ。


社長室、すごかった・・・・




パーティーが中止になって、テヤンが行っちゃって


私がしょんぼりしていないか心配して、電話くださってね。


ことの顛末を、お父さんに報告しました。





お父さんって、ホントにいい人だよね。


そのいい人丸出し加減がそっくりだよ(笑)


私の話を、うんうんって聴いてくれて、


「そりゃあ、大変だったね」だって。


「いえ、大変だったのはテヤンです。」って答えたよ(笑)






でね、


「仕切り直しのときは・・・どうかな、うちを使ってくれないかな」だって!!


意味わかる?


あのお庭で、ガーデンパーティーの提案です。


ステキでしょ!





奥さんがお元気なときは、


よく庭で大がかりなホームパーティーをなさってたそうです。


だから、テーブルやイスとか必要なモノはだいたい揃ってるんだって。


「セッティングから料理まで、頼めるレストランもあるよ」って。





私が寂しがってると思って、


お父さん、元気づけようとしてくれたんだね、きっと。


テヤンに相談なしで、その場で即答しちゃったよ。


「はい!! それはうれしいです。ぜひ、おねがいします!」って。


いいよね。


ねっ! 


いいよね~~(^o^)


ダメって言っても、もう遅いからね♪






あのね・・・


私が『お願いします。』って言った時の、


お父さんの、ふわぁっとほどけるような笑顔を見たら


つい涙が出てしまいました。





テヤンと同じ笑顔。


無機質な社長室には似合わなかった。


あまりにも素朴で、無防備で・・・


テヤンと同じだったよ・・・




お父さんのこれからの日々に、


あんな笑顔の時間が


たくさんあればいいなと思いました。





お父さん、慌ててハンカチを差し出しながら、


「テヤンはほんとに、バカだね、」って。




親しみをこめた「テヤン」「バカ」っていう言葉が、


とても自然にお父さんの口からこぼれて


そのことにまた胸がいっぱいになっちゃった。


テヤンはほんとに・・・


バカだよね(笑)





        テヤンが行っちゃってから、

             ずっと涙もろいままのアヤノより









        ・・・・・・・・・・・・







4月△日


To テヤン

   
    ーーーーーーFrom アヤノ






テヤン


桜が咲いたよ。


満開です。


初めての桜の季節、二人で見らなくて、ちょっと残念。





元気で頑張ってる?


ちゃんと食べていますか?


バテてない?





こっちは絶好調だよ!


どすこい・クニエダ両家のご飯はおいしいし、


お料理もかなり腕あげちゃったし、


こないだどすこいさんところで教えてもらったのは、


いり鶏です。


野菜たっぷりで、味が沁みていてほんとにおいしかったの。




でも、どすこいさんちって不思議なんだよ。


私が伺う日、いつもご家族以外に誰かがご飯食べにきてるの。


そして私の試作品に、なかなか手厳しい批評をくれるんだけどね、


結局もりもり食べてくれて・・・・


楽しいひとときです。


テヤンのこと、どすこいさんとあれこれ話して、


おおっぴらに「寂しいよ~~!」って言わせてもらえて、


私はすごくうれしいよ。






お弁当もね、野菜中心だよ。


やればできるんだわ。私って天才かしら?


ねぇ、ほんとに期待しててね!


話半分に聞いておこうって思ってるでしょ!


帰ってきたら、絶対ごちそう責めにしてやる(^m^)






それからね、3月の、実家でのドンチャン騒ぎの写真、


父が送ってくれたので、UPしました。


見てください。


笑えるよ!




あの時のこと、なにも話さないままになっちゃったね。


おもしろい話がいっぱいあったのにね。


テヤンが一足先に帰ってから、ずっとすれちがったまま、


出発の日が来てしまったから。


あの日から、たった1週間で行ってしまうなんて。


ほんと、びっくりです。






テヤン、あの日、酔っぱらったあとのこと、覚えてないんじゃない?


テヤンってば、ほんとにおかしかったんだよ!





親戚のみんなにどんどんお酌されて、ベロベロに酔わされたあと、


「一生アヤノさんを愛します。大切にします。

よろしくお願いします・・・・」って、


床の間の観音像に向かって挨拶してた。


ふふ・・・





そしてそのまま


「すみません。もうダメです。ごめんなさい・・・」


って言って、ダウンしちゃったんだよ(笑)





父さんとの将棋も最高だったよ!




テヤンよりももっと酔っぱらってた父さんが、


無理矢理「テヤン! 俺と将棋だ!」なんて言って


酔っぱらい同士のめちゃめちゃな勝負で、


「なんで俺が、酔っぱらいのお前に負けるんだ!!」って・・・


もっと酔っぱらいのくせにね。




そしたらテヤン、


「え? 僕、勝ちましたか? どうやって?

お父さん、負けましたか? なんで?」


なんて、君もすっとぼけた返事してたんだよ。




ふふ、覚えてないでしょ。





パーティー中止のこと、二人のところにも行って、


頭を下げて謝ったんだね。


母さんにも泣かれちゃったんだね。


母さんから聞きました。


つらかったよね。


なんにも知らないで、そっぽ向いててごめん。


後悔ばかりです。


二人のところにいっしょに行きたかったなんて


今頃思ってる私で、ごめん。





仕切り直しのパーティー、二人とも来るって張り切ってるよ。


母さんはね、テヤンにそっくりの、


とっても若いお父さんのお屋敷だっていうだけで、


舞い上がっちゃって大変だよ。





だから、予定通りに帰ってきてよね。


絶対だよ!




          ごちそうの食べすぎで
             
             ちょこっと太ったアヤノより









・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





       そうだった・・・・


       

       二人のめちゃめちゃな将棋のあと、父が言った。




       「お前!テヤン! 俺はお前のオヤジだぞ。

       だから、俺より先に死ぬなよ!

       アヤノより・・・・先に死ぬなよ!

       アヤノを泣かすなよ! 

       わかってんのか?

       将棋くらい、いくらでも負けてやる。

       だから、元気で生きて、アヤノを守ってくれよな。

       な・・・頼む!  な・・・な・・・テヤン・・・・」


       
       そのままひっくり返った。


       でも、とにかく言いたいことは全部言えてたみたい。


       
       テヤンは、涙を浮かべて


       「はい・・・はい・・・」って。




       二人とも、覚えてないんだろうな。


       でもいいんだ。


       あの二人、なんでだか、覚えてなくても、


       通じ合えてるんじゃないかって、そんな気がするから。






       みんなが帰ったあとに、ひっくり返って寝たままのテヤンを見ながら


       母さんが「よかったね。やっとカイ君も安心できるよ。」


       ずずっと鼻をすすって、


       同じくひっくり返ってる父を指し


       「この二人を布団に押し込んだら、飲みなおそうか。」と言った。

      



       写真と観音像が見守る部屋で


       彼らは枕を並べて爆睡した。



      






・・・・・・・・・・・・・・・・・







4月×日



To テヤン


    ーーーーーーーーーーFrom アヤノ




テヤン


メール読みました。


今すぐ君のところに行きたくなってしましました。


今すぐ会いたい。


テヤンの話を、何日でも聞いていたい。


そっと後ろから抱かれながら・・・・







ステキな出会いがあったんだね。


15才のガールフレンドには、ちょっと妬けるけどね。





多分、その彼女には、なにもかもかなわないだろうな。


胸が詰まって、読み進むのが大変でした。


私も、テヤンの大切な友人のみなさんに会わせてほしいです。


会いたいです。


私も、一人一人の名前を呼んで、握手したい。


話をしたい。


いっしょに遊びたい。






テヤン


私は、君のような崇高な使命感を持っていません。


そんなふうには考えて生きていないなあって思いました。




でもね、それもありかなって思うの。


この世に生きる一人一人が、何か使命を持って生まれ落ちるなら、


私は、そんなテヤンと一緒に生きていくことが、


私の使命、私の生きる理由、そんなふうに思いたいです。





そういうのも、あり?





こんなふうに、奇跡みたいにもう一度出会えたテヤン。


もう離れられない。





君に寄り添うことが、


君の使命感や夢とも寄り添って生きることなら、


私はこれからも、君を失う恐怖と闘いながら


世界のあちこちに君を送り出すんだろうなって、


あらためて思っています。







君を愛して、君の夢を支えることは、


私にとって、過去の恐怖を消せない自分自身との闘いなのかも。





それでも君と一緒にいたい。


その度に泣いてしまっても、でも絶対に引きとめたりはしないよ。


理解して支えていきたいと、心から思ってるの。





そんなふうに努力して、君のそばにいることが


君の幸せやエネルギーにつながるなら、


それが、私の持つ使命だと思いたい。




いい?




もう二度と、泣いて怒ったりしないって・・・・


ほんとは誓いたいけど、誓えない(笑)


ごめん。





泣きながらでも、「寂しいよ~~」って叫びながらでも、


拗ねないで送り出すことを誓います。





これじゃダメ?(笑)


どうかいいと言ってください。






テヤン


今夜、君の夢の中に行くよ。


待っていて。


ブラウスの前を開けて、君のところへ行きます。


だから、健やかな眠りの中に私を迎え入れてね。







          毎晩、夢で君に会うことを祈って眠るアヤノより


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