Lusieta

 

続・この場所から 1月の風 2007 Ⅲ-1

 

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まだ暗いうちから目が覚めてしまった。

いつも寝坊で、テヤンに起こされるのに。


浅い眠りで、たくさん夢をみたような気がするけど、

よくは覚えてなかった。

苦しい夢ばかり見ると、頭が疲労するって聞いたけど

ホントかもしれないと思う。


ひどく体が重い。

というか、力が入らない。

どうしたんだろう・・・



ダメだぞ、絶対に仕事は休めないんだから。

こういう日は、とにかく起き出して顔を洗い、

すぐに身繕いをして、メイクもばっちりしてしまうんだ。


昨夜のテヤンの言葉を思い出す。

“体調管理も仕事のうち・・・” 

ごもっとも!!


やっぱりちゃんと食べなきゃな・・・


そう思った途端に、お腹がすごい音を立てた。

今日までの人生で最大の音量&グルグルな感触かも。



あ・・・もしかして、このフラフラは、お腹すいてるせい?


そうだった。
昨日は、お昼もツナサンドと野菜ジュースだったっけ。

冷蔵庫を開けて、しばし佇む。
なんだか、どれもこれもおいしそうって思う自分を発見。



そっかぁ~~
私、お腹すいてるだけなんだ、きっと。

「あはぁ~なんだよぉ~それぇ~!」と声に出して言ってしまう。


楽しくなってきた。
早起きしたから、時間はたっぷりある。
こうなったらちゃんと食べるぞ!



1杯分で小分けして冷凍していたご飯を中心に、
ほんの短時間でりっぱな正統派ニッポンの朝食ができてしまった。

これまで見たこともなかった早朝のテレビ番組をみながら
自分でも驚くほど、がっついてご飯を食べてる。

「おいしいなぁ~。」なんて言ってみる。



昨夜、ベッドであんなに泣いてしまったのは、
お腹がすいてたからだ。


きっとそうだ! ・・・・ということにしよう。

前にテヤンが言ってたな。



     “女王様、ではなにを召し上がりますか?”

     “ブレイクでございます。

      お腹がすくと、考えが悲観的な方向にまいります。
      すぐ涙が出てしまいます。

      ブレイクいたしましょう。
      なにを召し上がりたいですか?”



ふふ・・・。
そうだね、テヤンの言う通りだよ。

ご飯は大切だ。
ちゃんと食べるだけで、こんなに元気が湧いてくる。

これは、私が単純だからじゃないよ。
真実なんだ・・・・




あのね、テヤン。
ゆうべ、言ったよね。


“じゃあまた僕が長く家をあけたらあなたはどうするの?”



あの時言わなかったけど、
テヤンがいない時のほうが、私はちゃんと食べるんだ。

ちゃんとお弁当作って、三食きちんと食べて。
だって、それが願掛けだから。

無事に帰ってくるまでの、祈りだから。

わかってないね、君は! ふふ・・・


でも、君が帰ってきて安心すると元に戻ってしまった。
そして痩せちゃった。


テヤン、これからはちゃんと食べるよ。
自分の体を大切にする。


やがて来る“そのとき”のために、
大切にするよ。


テヤン、きっと気にしてるよね。
ゆうべのこと。

あんなふうにいきなりその話になっちゃったこと、
今になってみると、よかったな。



お腹がすいて、さらに悲しい気分になったおかげで、
ミオのこといっぱい思い出して、たくさん泣くことができたから。



     小さなミオ、かわいかった。いとおしかった。
     大切だった。

     なのに、長いあいだ思い出すことも
     拒んできてしまった。


     ゆうべ、ベッドの中で「ごめんね」と声を出して謝った。

     何度も「ミオ」と呼んだ。


     そして、あんなふうにミオを近くに感じたのは
     初めてだった。


     思い出の中のミオを抱きしめて眠った。

     心のままに、こぼれる嗚咽をおさえずに・・・




     若くて未熟な母だったな、私。
    
     ミオ、ママのところに来てくれてありがとね。

     短い間だったけど、ミオと一緒にいられて、

     ママはすっごくすっごく幸せだったんだよ。

     ミオ・・・・




     そんなふうに話しかけながら泣いていた。


     ちっちゃくて、くんくんおっぱいを飲んで、

     真っ赤な顔でうんちして、

     「ミオ」と呼ぶと、花のように笑った



     大切な宝物だった

     そう、今も・・・

     ミオ・・・・

     ずっとずっと私の大切な宝物

 


ゆうべのあれこれを思い出して涙してるのに、
なぜか、箸はとまらない。

泣きながらガツガツ食べてる。

私って、強いのかも・・・・?


     ほんとに私が強くなったのなら、

     その強さをくれたのはテヤンだね。


     二人を忘れることも、

     ちゃんと思い出すことも

     泣くこともできなかった私を、

     そのまま丸ごと受け止めて、

     ギュッと抱きしめたまま
     一緒にハードルを飛び越えてくれた。


     そんなふうだったね・・・・


     テヤン、疲れてないだろうか。

     次々に出てくる私のハードルを前に、
     いつもいつも正面から向かっていった。

 
     私を守り、私を強くしてくれるテヤンは、
     今、幸せだろうか。


     抱きしめられて幸せいっぱいの私は、
     ちゃんと君にも幸せをあげられてる?


やっとお腹いっぱいになって箸を置いたところで
携帯がぶるぶると震えた。


テヤンだった!


「もしもしテヤン?」


「おはよう 朝だよ!

起きて、アヤノ。」


  「えっへん! もう起きてるもんね。

   ついでに言っておくけど、
   超ヘルシーなニッポンの朝食を食べ終わったところよ。

   エライ?」


「・・・・う・・・うそ・・・」
 
   「ねぇ、エライ?」


「あ・・・すごくエライけど・・・
でも、あり得ない気がする・・・」
  
   「ひどい!!」


「ほんとにほんと?」

   「ほんとだよ!じゃあ、写メ送るから待ってなさい!
    あ・・・携帯どうしたの?」


「コンビニで充電器買った。じゃあ待ってるね。」


写メって言っても、もう全部たべちゃったあとだ。

空っぽのお皿を撮って
一応のメニューといっしょに「充電器、もっと早く買いなさい!」と書いて送る。


「:*:・'(*゚m゚*)★.。・:エライ!!:*:・'
   ★.。・:*(^o^)(≧∀≦)☆(* ̄◎ ̄*)・・・・」

絵文字も顔文字もぐちゃぐちゃの、ド派手な返信が届いた。

こんなに時間かけてメール打つなら
電話かければいいような・・・

でも、こんなことに必死になる君を愛してるよ!


今度は私からかける。


「もしもし」

   「ド派手な返信をありがとう。」


「はい、あまりに感動したものですから。
携帯、さっさと充電しなくてすみません。
夜中に僕の声を聞きたくなったとか?」

   「そうだよ。」


「え?」

   「図星です、テヤン。君の声が聞きたくて、
    君が恋しくて、抱きしめて欲しくて・・・」


「アヤノ・・・」

   「なんちゃってぇ~、へへ・・・ほんとだよ。」


「はぁ・・・・」

   「テヤン?・・・電話があんなふうに終わって心配してた?」


「うん。いろいろ思い出して泣いてないかなって。」

   「うん、いろいろ思い出して、泣けてよかった。
    すっごくよかった。またゆっくり話すよ。

    テヤンってね、普段はドジなのに、
    ここぞというタイミングがばっちりだわ。
    ふふ・・・自分で意図してなくてもね!」


「それって、誉め言葉?」

   「もちろんよ!」


「なんか微妙だけど、アヤノが嬉しそうだし、よかったんだね、きっと。」

   「テヤン・・・・」


「ん?」

   「家族を、作ろうね。」


「え?・・・」

   「君と私の赤ちゃん、授かるよね。
    ちゃんとミオに話したよ。
    きっと喜んでくれるはず。」


そこまで言うと、後は涙で詰まってしまった。

ホントはもう少し伝えたかったんだけど・・・・

テヤン、今日までありがとうって、

君が私を強くしてくれるって、

言いたかったんだけど・・・・

別の時に、ちゃんと顔を見て言うよ。



「アヤノ・・・」


テヤンも、長い間、何も言えないでいた。

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