Lusieta

 

この場所から ~ふたたびの陽射し テヤンとアヤノの突撃取材 Ⅰ~

 

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さっきから、ものすごーーーく落ち着かない。

私、こういう場所には結構動じないタイプだったと思うんだけどな。

やっぱりテヤンがいるからだな。
テヤンと組んで仕事・・・あの日以来。

テヤン、目立ちすぎるよ。
何やってても・・・・やっぱり目立ってしまう。
今日だって、綾小路さんから言われたのに・・・


「ロビーでは参加者のひとたちに気づかれないようにしてね。
 テヤンさんったら、かっこいいし、誰かに似てるし~
 みんながロビーで盛り上がっちゃって
 会場に入らなかったら困るもんね~~。わっはっはーーー!」

それがねぇ~綾小路さん

腰をずらしてソファに埋もれても・・・
しなやかに伸びる長い足は隠せない。

どこにでもあるコットンのシャツを着ても・・・
胸板や肩、腕に載る厚い筋肉は隠せない。

キャップを目深にかぶってても・・・
その端正な顔立ちは隠せない。


イケメンのスポーツ選手がお忍びでホテルに来てるみたいな感じになっちゃってます。

でもこれがテヤンの“目立たない心がけ”の精一杯だからなぁ・・・・苦笑。



     ・・・・・・・・・・・・・・・・



集まってくる女性たちは、ぱっと見には共通項が見当たらない。
すっごくバラバラな感じ。

年齢層は20代後半から60代までくらい(?)

「女性の年齢は、ぱっと見ただけじゃわからないよね。」なんて、
テヤン、わかったようなこと言ってる。

ロビーに面した大きな扉に吸い込まれていく女性たちを見ながら
近くのソファに、“目立たないように”座って観察してる私たち。

テヤンは扉に向かって歩いてくる一人ひとりを撮りたくてしょうがないみたい。
ここはだめ。
動くな、テヤン!


私はといえば、下調べのつもりでちょこっとのぞいたこのサイトの
UPされたストーリーにハマッてしまって・・・
あのストーリーを書いた人は今日来るのかな・・・なんて思ってる。

あーー、仕事だ仕事・・・




・・・・・・・・・・・・・・




サイトの1周年記念オフ会当日は、参加者へのインタビューは避けて欲しいといわれた。
写真を撮って雰囲気だけ感じたら、そそくさと帰ることになってる。
なんせ部外者だから。


でも、テヤンはこだわるからなー。
中に入り込んじゃってアップ撮ろうとしちゃうかも・・
適当なところで引っ張って出てこなきゃ。
     それより・・・・似てるんでしょ?
騒ぎにならなきゃいいな。


事前取材ということで、数日前に広報担当だという綾小路さんに会った。


「ごめんなさいね。当日参加者に話しかけないでほしいなんて。

 何しろ遠くから高い交通費をかけてやってくる人が多いでしょ。
 もうすでにみんなネットでいっぱいおしゃべりしてて旧知の友のようになってるけど、
 でも会うのは初めてって人もい多いのよ・・・

 今回は40人にもなってすごく多いから、
 少しでもたくさんの人と長く話す時間をつくってあげたいの。
 家庭の事情で早く帰らなくちゃいけない人もいるしね・・・
 事後取材はOKよ。“この人の話聞きたい”って時は言ってちょうだい。連絡つけるから」


なるほど・・・
彼のファンというと、家庭の主婦で子どもがいそうな年代がほとんどだもんね・・


「あっという間なのよーーホント。
 話したい相手がたくさんいるから

 『あーー○○さんと話せなかったなぁー』とか、
 『彼女とハグしたかったよ・・・』とか、

 終わったあとでいろいろ切なく思ってねぇ、
 心残りで身もだえしちゃうのよーこれがーー、わっははははーー!」

うん? ここは笑うところなんだろうか・・・

「あはははーーー!!」

えぇぇーーー!!
テヤン・・・・
なんで君まで・・・・ここで笑う?

私がギョッとした顔で見たので、テヤンはキョトンとして黙った。
でも、ずっとおかしそうで楽しそう。

      テヤン・・・
      ずっとニコニコしながらうなづいて聞いてるんだもん。
      なんか、彼女と波長が合うの?
      ふふふ・・笑いのつぼがいっしょだなんて。
  
     
でも、とにかくやさしくてあったかくて包容力のある女性、
そんな感じの綾小路さん。
この人が仕切るオフ会なら楽しいかもね~
なんか、クニエダちゃんに似てるかも。


それに・・・・
言いたくないけど、醸し出す雰囲気がテヤンに似てる。
なんで?
でも、そうなんだ。

ぼよよ~~んとしてて、いい人丸出し加減が・・・似てる。
不思議・・・


私、こういうファンの人たちって、もっと熱狂的でミーハーで、
見境いなくて、ちょっと怖い人たちなのかと思ってた。
でも違った。

ついハマッてしまったそのサイトを見る限りでは
おおらかで協調性のある大人な女性たちという感じだ。
そして、そのおおらかさの方向はいろんな方面に発揮されて・・・

そもそもUPされる創作のストーリーを中心にしたサイトなんだけど
そのストーリーの中には、これまで私が知らなかった男女の世界を教えてくれるものがある。

あまりにも新鮮で、エキサイティングで、
ついつい夜中にずっと読んでしまう。


テヤンの部屋に来てるというのに、
「ちょっと待ってね・・・」
「あとひとつだけで終わるから。ちゃんと下調べしてから取材したいの」だって。

・・・・ただ続きが読みたいだけなくせに。

テヤン、ごめん! 止まらないんだよ。自分でもトホホなんだけど・・

仕方なく本を読んで待つテヤン
彼を待ちぼうけのまま一人で寝かせてしまう夜が2日続いた。



・・・・・・・・・・・・・・・



ついに・・・
夢中で読んでる後ろからテヤンがぎゅっと抱きしめて

「もう3日もこんなふうだよアヤノ。僕に意地悪してるの?」

あーーテヤン、なんてぴったりなタイミング・・・
ストーリーを読んでるうちに
ちょうど私も君の隣にもぐりこみたい気分になっちゃったところ・・・
       
だってね、あまりにステキなRのシーンに酔ってしまったの・・・

「そんなことないよ! ごめん、つい・・・
 私も、今テヤンのところに早く行きたいって思ってた。
 迎えに来てくれてありがとう。
 でも・・・今日は私からテヤンのところに行きたかったな」        

テヤンの安堵のため息が頭の上で聞こえて、
抱きしめる手に力がこもる。

「ほんと・・・かな?」

のぞきこんだ顔は、まだちょっと不安げで、
テヤン、ほんとに心配してたの?
     
ごめん、こんなに自分勝手な私になっちゃう魔法みたいなサイト。
今読んだとおりのこと、テヤンと二人で体験してみたい・・なんて・・・
思っちゃう自分に、こっそり赤面。


でもね、私もちょっと不安になってしまった。

ストーリーで読んだ、あんなことやこんなこと・・・
テヤンは誰かと・・・体験ずみなのかな?

きっと・・・・あるんだろうな・・・私の知らない11年の間に。

いろんな女性に出会って、リードしてもらったりしたのかな。
だって・・・テヤン、上手だから・・・

それに引き換え、私ってば・・・
セカンドバージン状態だったんだな、この年で・・・
今日まで知らないことだらけだってことが、
サイトで1週間ストーリー読み続けてわかっちゃったよ。



       今思えば、カイとの交わりはずいぶん幼くてかわいいものだったかもしれない。
       仲間たちに“どちらもどうしようもなく純情で奥手”と言われた私たちが
       おずおずと二人で明けた未知の扉だった。

       あの、ぶつかり合うように夢中で肌を重ねた短い日々を、いとおしく思い出す。
       小さな胸の疼きといっしょに・・・・

       そして今・・・・
       しみじみテヤンを好きだと思う私を・・・・カイ・・・許して。



私はそのひとときに、ちゃんとテヤンを幸せにしてあげられているだろうか?
もっと・・喜ばせたい、幸せにしたいけど・・・
私って・・・・ほんとは・・・どうなのかな?


「ねぇ・・・テヤン・・」

「ん?」

「私って、受け身だよね。」

「えっ?」

「もっといろんなことしてほしい?」

「えっ? なにそれ?」

テヤンが、その指と唇の旅を中断して引き返し、まじまじと私をみつめる。

「いろんなことって・・・・ベッドでってこと?」

「うん」

「・・・・・」

「・・・恥ずかしいから・・・・じっと見ないで」

テヤンの顔が、みるみるうれしそうになって・・・・

「いろんなことって、どんなこと?」

「わかんないよ、そんなの」

「なんでそんなこと思うの?」

「だって・・・・私、あんまり・・・・経験ないから
 テヤンが、その・・・
 ちゃんと幸せな気持ちになってるのかどうかわかんない。

 私は・・・もっと積極的に・・・なんていうか、その・・・上手に・・」

もう、テヤン、うれしそうに覗き込んでる。

「上手に?」

「もっといろんなことが上手にできたらいいのかなって・・・」

「あのサイトのストーリー、読んだから?」

「えぇぇーーー!! なんで知ってるの?! 読んだの??」

「だって、開けたままでいねむりしちゃうんだもん。
 お風呂にも入っちゃうし、『テヤンも読んでね』っていうメッセージなのかなと。」

「開けたままって・・・閉じてたでしょ!」


「あれは閉じるって言わないよ。
 ぽちっと押したら出てくるんだから」

テヤン、ものすごくおかしそうに・・・

あぁーー気絶しそう・・・・

「僕もね、すごく勉強になっちゃった。ふふ・・・
 こんどいろいろ試してみようか。

 僕は男だからさ、やっぱり登場する男性に感情移入してた。
 女性が、よくここまでリアルに男性を書けるよね。
 彼ら、みんなかっこいいよね。そして、すごく彼女を愛してるでしょ。
 読んでいて、ぼくもあんなふうにずっと、
 いつもいつもアヤノを求めて生きていくだろうなって思ったよ。
 いいストーリーばかりだね。

 あんなの読んじゃって、
 僕はもう早くアヤノとベッドに行きたくてたまらなかったのに、
 なのに、あなたは全然平気で、僕を3日も待たせたんだ。
 残酷すぎると思わない? この報復はさせてもらわなきゃ。」

「・・・・・・」

テヤンがもう一度私を組み伏せて、キスからはじめてる。
キスしながら、わざとにらんでる。
ほんとにちょっとこわいよ、テヤン。

「アヤノはね、いつもすごくステキだよ。僕は夢中なんだ。
 いつも・・・仕事の最中でも・・・
 ベッドのアヤノを思い出すと、たまらなくなるよ。
 今すぐ抱き合いたいって思ってしまう。」

「テヤン・・・・」

「僕が、どんなにアヤノのこと好きか、知ってるよね?」

「・・・・・うん・・・」

「アヤノとのこの時間に、すっごく幸せ感じてるんだ。わかってくれる?」

「うん・・・・・」

テヤンのささやきだけで、もう私は溶け始めていて・・・
        
「今日は3日分だから、寝られないよ。よろしくね・・・・」



「テヤン・・・愛してる・・・」




   ・・・・・・・・・・・・・・・・・




数日前の出来事を思い出して、少し顔が熱くなるのを感じていたら、
扉から綾小路さんが出てきた。

「お待たせしちゃってますねぇ。」
あの人なつっこい笑顔全開で。

「いえ、ここで見てるのも楽しいです。」


綾小路さんは私たちの取材の意図も肝心なところをちゃんと理解して、
質問に対する答えが的を得ていたし、
まとめやすいような方向に話を持っていってくれるところなんか、
なんだかインタビュー慣れしてるっていうか、
自分が聞く側になる仕事でもしてたのかと思わせるほど。

だからもう、記事については何も心配してなかった。
大体の骨組みはできている。

あとは・・・・とにかくこの扉の中に入ってみたい!
だって、それなりに私も愛着感じはじめてるから、このサイトに。

自分が編集者だなんて名乗るのがおこがましいほどの文才をもつ人がウヨウヨいる集団。
そしてここに集まる多くの人が共通に持つおおらかさとやさしさ。

「この人!」って思った人にあとで個別取材・・
短い間にアンテナ張っておかなきゃ。


うーーーん、早く入ってみたいな。
でも、綾小路さんのようすじゃ、まだなんだろうな。

彼女が私たちになにか言おうとして「あの・・」といった次の瞬間、

「わぁーー○○○○ちゃん!!!」と言って突進してきた人に、
ぽーーんと飛びつかれて綾小路さんはひっくり返ってしまった。

テヤンがあわてて抱き起こす。
「大丈夫ですか?」 
ん? 綾小路さん、目がハートかも・・・

テヤン・・・・
こんな時、すばやくてやさしいからなー、ほんと。 


それにしても、その・・・お相撲さんがシコふんじゃったみたいなHNは・・・
あなただったの?綾小路さん!!

天然テヤンがまた無邪気に聞くから困る。
「○○○○って、聞いたことありますが、どういう意味の言葉でしたっけ?」

綾小路さんの切り返しがまた見事で
「『よ~し、みんな寄っといでぇ~。楽しもうね~!』って意味なのよ。覚えといてねぇ~。
 わっはっは~~~!!」だって。

なんか・・・かっこいいかも・・・

テヤン、「そうなんですか。深いですね。」だって。

もう・・・ふたりして・・・
爆笑のような・・・・笑えないような・・・
やっぱりいいコンビかもね。


そんな冗談飛ばしながらも、綾小路さんはなんだかそわそわと心配そうに、
ロビーの向こう、エントランスの方向をうかがってる。
開始時間はすぎている。

「もう少し待ってね。」と言って
彼女がまた扉の中に入っていき、人の出入りが途絶えた。

そろそろ呼ばれるのかなと思っていると・・・




ポールスミスのサングラスに、ダークな色合いのスリムなパンツスーツ。
その上にくすんだオレンジのロングコートを羽織った女性が
携帯を耳に当てながら近づいてくる?


        えっ? 彼女もそうなの?


背筋がぴんと伸び、高いヒールも履きなれてる颯爽とした足取り。
コートのすそがはためいてる。
自分に似合うものをちゃんと知ってる女性って感じ。

携帯の会話は日本語じゃなかった。

「テヤン、何語?」
耳打ちで訊いてみる。

「イタリア語」

語学に長けてるテヤン君は、即座に答えるのだ。

「えっ?!」
イタリアという言葉で、二人同時に気づいて顔を見合わせる。

「あの人かもね。」
「うん、ぴったりなイメージ」

イタリアを旅するストーリー。
テヤンが一番気に入ってた。

彼女、何の躊躇もなくドアを開けて入っていったと思ったら、
しばらくしてまた勢いよく出てきた。
サングラスはずして、今度は日本語で携帯にさけびながら、
エントランスの人影を探してる。

さっきのクールさとはうって変わって興奮気味な笑顔。

そして、目指す人を見つけたときの彼女の顔、
その顔を、私、しばらく忘れられないと思う。

彼女、黙ってうなずきながら、見る見るうちに目が潤んだ。

そして、すぐそばでその表情を見つめることになってしまった私たちなど
まったく目に入っていない二人だった。

遅れてきた彼女はごく普通のお母さんっていう感じ。
装いもおとなしめで、クールな彼女と手を取り合ってる図は、
知らない人には、どういう関係なのかつかみにくいはず。

とにかく、一見クールなこの女性をここまで優しいまなざしにさせる人だってことね。


「どうだった?」ってイタリアストーリーの彼女が訊いた。

「うん、ちゃんとできた。」

「キスは?」

「した。」

「彼、なんて?」

「うん・・・・」

そのあとは聞き取れなかった。

「よかった・・・・よかった・・・・・」

抱き合ってしばらく無言。
そして二人はそのまま扉の中に消えていった。

あっという間の出来事だった。
テヤンと私はポカンとしてしまった。


しばらくして、大歓声と拍手が聞こえてきた・・・・

「すごい盛り上がり方だね。」ってテヤン。


       そっかぁ。
       テヤンはサイトでそこまでは読んでなかったんだね。
       
       私は知ってるんだ。気づいちゃった。
       数日前からのみんなの会話。
       告白し決意する人と、それを励ます人の熱いやりとりを。
                
       彼女、うまくいったのね。
       ちゃんと伝えられたんだ。

       涙ぐむ私に、テヤンが驚いてる。
      
「うん、あとで説明するね。」

     
やっと入れた会場は、すごい盛り上がりで・・・
まだ涙している人もいた。

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